第10話 犬が出来ました



「お手」

「わん」

「おかわり」

「わん」

「……まだ何も言ってないから、勝手におすわりしようとするな」


 ――ああ、これが純粋な犬と飼い主だったら、まだ微笑ましい光景だろう。

 実際は、どちらも高校生だ。一種の変態プレイにしか見えない。


 当事者の一人として、この状況は辛い。

 いや、もう感覚が麻痺し始めていた。


 無視されたり、負の感情を向けられるよりはマシだ。

 犬だが、俺に敵意はない。


「なあ、ポチ。俺が誰だか分かっているのか。嫌われ者なのに、一緒にいていいのか?」


 ポチは、俺が嫌われ者だと知らない可能性がある。

 後から知って距離を置かれるより、今教えた方がいい。


 すでにもう手放しがたくなっているから、早めに対処するべきだ。

 わざと意地の悪い顔を作って、俺はポチの頬をつねる。

 軽く爪を立てているので、きっと痛いはずだ。


 嫌がられると思っていたのに、ポチはとても嬉しそうだ。


「ご主人様を裏切らない。ずっと傍にいる」


 ああ、俺が欲しくてたまらなかった言葉。


 俺に必要な存在はポチだったのか。

 嫌われている俺にはお似合いだ。


 もういいや。

 望みのない愛を求めるより、好きだと言ってくれる人を大事にすればいい。


「それなら、ずっと俺の傍にいて。もし離れようとしたら、その時は殺すから」

「裏切るつもりは無いけど、最後はぜひご主人様の手で殺してくれ。殺してもらえるなら本望だ」


 生死をともなう重い約束なのに、俺達の雰囲気は軽かった。

 こうして俺は、この世界に来て初めて味方を手に入れた。


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