第8話 誰かの



 現れた人物は、とにかくでかかった。

 俺だって170センチ近くはあるのに、見上げるぐらいだから相当だ。190センチはあるんじゃないか。


 目にかかるぐらい長い前髪のせいで、表情は読めない。体格がいいから熊みたいだ。


 突然現れた人物に、俺だけでなく男達も困惑している。


「なんだよ、てめえ」


 口では威勢のいいことを言っているが、腕が痛いのか顔色が悪い。可哀想なぐらいだ。


「お、おい。こいつは」


 一人が誰だか心当たりがあったらしく、信じられないといった様子で口を開く。


「『黒い悪魔』だ」


 うわ、ダサい。

 かなりダサい。


 そんな通り名をつけられて、俺だったら恥ずかしくて外に出られない。

 ギャグかと思ったが、どうやら本気らしい。

 その名前を聞いた途端、恐怖が浮かぶ。


「く、黒い悪魔?」

「嘘だろ」

「どうしてここに」


 完全に戦意喪失していて、もう逃げたそうだ。

 小物臭が可哀想で、俺はとりあえず助け舟を出す。


「えっと、黒い悪魔さん?」


 呼び掛けとして合っているか不明だが、名前を知らないのだから仕方ない。疑問ぎみに聞けば、こちらに視線が向く。

 どうやら力も緩んだようで、三人が脱兎のように逃げていった。


 知らない大男と取り残されてしまった。まだこちらを見ていて、襲ってくる可能性もゼロじゃない。


 三人より危険人物らしいので、暴力沙汰は避けたいと、とりあえず敵意がないのを示すために笑っておく。


「……ご主人様」


 は?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る