第7話 絡まれる



 リーゼントや剃りこみなんて、今どきいるのか。

 小説だから分かりやすいフォルムになったとしたら、彼らもまた被害者だろう。

 いっそ同情しながら見ていれば、無視していると思われたらしい。

 なんだか怒り始めてしまった。沸点が低いようでなにより。


「無視してんじゃねえよ」

「生意気な奴だな」

「やっちまおうぜ」

「そりゃいいな」

「どうせ嫌われ者なんだし、成敗したら喜ばれるだろ」

「そうだそうだ」


 面倒な方向に話が進んでいる。勝手に決めて、ニヤニヤと俺を見てくる顔が気持ち悪い。

 いくらなんでも、暴力を振るわれるのは避けたい。怪我をしても、誰も手当をしてくれなさそうで怖いのだ。


 悪役とはいえ、俺自身は全くといっていいほど強くない。むしろ軟弱の部類だ。


 これなら、護身術でも習っておくべきだった。

 振り上げられる拳。今さら遅いが、そう思いながら目をつむる。


 しかし、いつまで経っても覚悟していた痛みが来ない。

 待ち構えすぎて時間の流れが遅くなったのか。やるなら早くしてほしい。


 それにしても遅い。何してるんだ。

 さすがに遅すぎて気になったので、ゆっくりと目を開く。


 え、誰?

 そう声に出かけたが、何とか抑えた。

 殴ろうとした手を掴んで止めているのは、見覚えのない人だったのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る