第3話 努力したい



 従成といい関係性を築けるように、毎日取り留めのない会話をかけることにした。


「今日はいい天気だね。従成は何をするの」

「いつもと同じです」

「従成は食べ物で何が好きなの。俺は」

「特にございません」


 しかし、結果は今のところ惨敗だ。

 話しかけても、素っ気ない返事しかない。適当に流されている。

 キャッチボールが上手くいかない会話を続けるのは、結構精神的に辛いものがある。なんとか明るく声をかけているが、よく心が折れなかったものだと感心してしまった。


 これから、おいおい仲良くなっていくとして、次に仲を改善するべきなのはやはり家族だろう。


「……それが、一番厄介なんだけどなあ」


 俺は部屋で頭を抱えた。

 カールをかけなくなって、肩まで伸びた髪を指に巻き付ける。


「髪、切りたいなあ」


 今の俺には似合っているかもしれないが、長い髪は動きの邪魔になる。

 本音を言えば坊主でもいいぐらいだけど、それは逆に似合わない。切ってもショートぐらいだろうか。


「まあ、何をしたところでご乱心だって騒がれるんだろうなあ」


 使用人との関係を良くしたくて、話しかけるようにしているが、芳しい結果は出ない。

 面倒くさそうな顔をされるだけで、きちんと会話出来た試しがなかった。


「あー、会話がしたい。人ときちんと関わりたい……辛い」


 俺の部屋には最低限しか、人の出入りがない。そのおかげで愚痴を言いたい放題だが、寂しさは余計に大きくなるばかりだ。


「……食堂に、行ってもいいかな」


 頑張ろうと決意したけど、俺はまだ家族に会うのが怖くて部屋にこもっていた。部屋の中にトイレと風呂があり、食事も運んできてもらえるから不便はなかった。


 今まで絶対食堂に来ていた俺が来なくなっても、誰も心配しない。

 普通であれば、病気になったのではと様子を見に来るものだ。


 来ない方が楽だから、完全に放置されている。俺が邪魔者だから。


「……時間をかけすぎると、余計に行きづらくなるよなあ。あー、行きたくないけど行くしかない」


 どっこらしょ。

 そう思わず口に出して立ち上がると、俺は一人で準備をして部屋の外へ久しぶりに出た。


「どこに行かれるのですか?」


 出た途端、外で控えていた従成が話しかけてくる。

 その顔は、部屋にこもっていろと言いたげだった。主人として全く見られていない。


「食堂行こうと思って」


 あ、ため息が聞こえた。

 もっと上手く隠せよ。

 好かれる気など全く見せない従成を引き連れて、俺は家族がいるであろう食堂に向かった。


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