第2話 いい子になります
死なないための第一歩として、まずは俺が改心したとアピールするのが大事だ。
すぐには信じてくれないかもしれないけど、根気強くいけばきっと分かり合えるはず。
まずは身近なところから、懐柔してみることにしよう。
ターゲットは決まっていた。
脳内にその人物を思い浮かべていたところで、ノックの音が響く。
俺が許可を出すまでは中に入ってこない徹底ぶりは、敬意を払っているというよりも、最低限の関わりしか持ちたくないのだ。
つまり、かなり嫌われている。
「どうぞ」
「……失礼致します。身支度の準備をしに参りました」
扉が開き、これまた美形な人物が静かに入ってきた。忍者かと思うぐらい、気配を感じない。
入ってきたのは、従者である
傍島家は、代々華宮家に仕えている。
その中で、従成は優秀だったにも関わらず、次男だったという理由だけで俺付きになった。
年齢が一つしか違わないのに、落ち着きがある。ただ感情を全く見せない。まるで人形みたいに。
従者であるのもそうだが、俺を見限っているのが大きな理由だ。
その証拠に、主人公に関わった従成は人間らしい表情を何度も見せるようになる。
口には出さないが、主人公と俺を比べてさらに俺から心が離れていく。
従成は長く俺の傍にいたが、最後までは一緒じゃなかった。これだけで、彼が誰を選んだか察することができるはずだ。
ピンと真っ直ぐに伸びた背筋は、絶対に定規を入れている。そうじゃないと、ここまで真っ直ぐになるわけない。
「あ、ちょっと待って」
カールをかけるための、道具がある場所に向かおうとするのを止めた。
内心では絶対に驚いているはずなのに、全く表情には出さず、俺の顔を窺ってくる。
いや、無表情じゃない。
また、わがままが始まった。そんな雰囲気を醸し出している。今まで俺が行ってきた、数々の所業を思い出せば、こういった態度になるのも当然だ。
それでも、負の感情しかない目を向けられるのは辛い。
ひよりそうになるのを抑えて、俺は笑った。
「えっと、今まで時間をかけさせてごめん。もうセットはしなくていいから」
驚いた気配の後、探るような視線を向けてくる。前までの俺は気づかなかったが、従成は随分と分かりやすい。
今は大方、俺が何をしようとしているのか考えているのだ。また無理難題を押し付けられる。そう考えているかもしれない。
信じてもらえるまでの、道のりは遠そうだ。俺は苦笑しながら、話を続ける。
「あの、えっと……今までわがまま言ってごめん。これからは、心を入れ替えていこうと思っているから」
「……承知致しました」
沈黙の後、従成はそれだけ言うと部屋から出て行く。
いなくなった扉を見ながら、俺はこれから上手くやっていけるのかと、ため息を吐いた。
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