それなら悪役になろう

瀬川

第1話 気づいてしまった現状



 鏡を見た途端、なんてことのないように理解した。


 ――あ、俺は悪役だ。


 その事実を、すんなりと受け入れた。



 俺の名前は、華宮はなみや守人もりと

 華宮家の次男で、兄と弟がいる。父親はいるが、母親にあたる人は数年前に亡くなった。


 美形一家に産まれたおかげで、俺も美人と言われるぐらいは、顔立ちが整っている。

 ただ、可愛らしさのかけらがなく、人を緊張させる種類の美しさだ。


 黒い髪は肩まであるのを、毎日時間をかけてカールさせている。これが、絶妙に似合っていないのだ。

 更には何を血迷ったのか、厚化粧をして全てを台無しにしている。地がいいはずなのに、どうして化粧をしだしたのか。全く分からない。

 鏡を見れば、どちらがいいかなんて判断がつくはずなのに、不思議な話だ。


 この世界は、思い出した限りでは小説が元になっている。タイトルは知らない。

 ただ確実なのは、俺が悪役であるということだけ。

 それも中ボスで、かなり悲惨な最後を遂げる予定だ。


 小説は不遇な主人公が、学園に通い出してから様々な事件に巻き込まれ、そして総愛され状態になって終わる。

 主人公に恋するヒーローのうちに兄弟が含まれているせいで、俺が登場するはめになるわけだ。


 俺は悪役のテンプレといった感じで、わがままな性格で周囲に迷惑ばかりかけている。

 家族にも相手にされない中、突然現れた主人公に自分が欲しかった愛情を奪われて、恨むようになった。


 逆恨みに近い理由だけで、俺は主人公をいじめにいじめまくった。

 それはもう、悪口を言ったり、水をかけたり、雇った人に襲わせようとしたり、やりたい放題だ。


 愛されていない俺が、愛されている主人公にそんなことをすれば、どうなるかなんて目に見えている。

 周りに見放され、家族に捨てられ、俺は失意の中で歩いていたところを、車に撥ねられて死ぬ。


「……そんなの、絶対に嫌だ」


 この世界で生きているのだから死にたくない。天寿をまっとうしたい。


 鏡に手を触れて、俺は正面の自分に話しかける。


「これから、変わろう」


 生きていくために、これから変えていけばいい。

 今日から変わるのだと、覚悟を決めた。


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