第2話

 美咲とはバイト先のスーパーで知り合った。

 

 同回生だった彼女は僕が入ってすぐにやめてしまったのだけれど、僕は未だにレジ打ちのバイトを続けていた。

 

 ピッ ピッ ピッ ピッ


 かごからかごに商品を移していくと、一定の間隔で電子音が鳴る。

 

 バイトを初めて2年半、もうバーコードを通すのなんて慣れたものだ。

 でもその日、僕は値引きシールを見逃していてお客さんに3回指摘されたらしい。

 隣のレジで働いていたパートのおばちゃんいわく「ポイントカードをお持ちですか」と言うのを20回ぐらいは忘れていたらしい。


 それぐらい、ずっと上の空だった。 


 美咲と会わなくなった日から、僕はどこにいても無意識のうちに彼女のことを思い出していた。


 一緒に講義をさぼって散歩した道を歩けば、そういえばここでお互いの中学校にいたヤバい先生の話をしてたんだった、なんてことを思い出し。

 学校までの道のりにある公園を横目にした時は、夜中にあのブランコに座って美咲の所属しているサークルの人間関係の悩みを聞いたことを思い出した。

 

 外はまだいい。家の中はもっとひどかった。

 風呂に入っている時も、布団に入った時も、歯を磨く時だって、頭の中は美咲でいっぱいだった。

 美咲と一緒にゲームをするために買ったソファも、美咲の使っていた歯ブラシや食器もあったから、ふとしたきっかけでその時美咲が言っていた言葉や笑っていたり困っていたりした顔を思い出してしまった。


 胸が締め付けられるような、という言葉があるけれど、実際、本当に物理的に胸の辺りが痛いのだと身を持って知った。


 夜は布団に入ってもあまり寝られなくなった。


 1日が、1晩がものすごく長く感じられ、1人の部屋が深海の底みたいに静かに感じられた。


 1日100回ぐらい、メッセージを送ろうかとスマホを開いた。そして同じ回数「しつこいと逆に望みがなくなるかもしれない」と有りもしない復縁の可能性を考えてやめた。

 

 そう、いっそのこと美咲の持ち物もSNSに登録しているアカウントも全て消してしまえば楽なのはわかっていた。けれど僕は未練がましく美咲が僕の元へ帰ってきてくれるのを心のどこかで信じずにはいられなかったのだ。

 

 そのくせ、たまに「今頃美咲はなにをしているのだろうか」とふと考えてしまい、元カレとやらと仲良くちんちんかもかもしている様子を想像してしまい、「あばばばばばば」と叫びながら必死に頭を叩いて悪しき想像を追い出そうとすることを繰り返した。


 ああ。

 失恋ってこんなに苦しかったんだっけ。

 

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