2話

 翌朝、カーテンの隙間から溢れる陽光に照らされて目が冷めた。


 ……眠い。


 昨日は全然寝られなかった。美波が好きな人できたとか言うのが悪い。

 ようやく寝れたと思ったらすぐ朝だ。


 そういえば、お出かけって何時に行くんだろ。


 スマホを開いてみると1時間ほど前に美波からLINEが来ていた。


『今日10時にそっち行くから!』

『わかった』


 時計を見ると時刻は9時手前くらいだった。


 ちょっと寝すぎたかな。


 私は諸々の支度をするために階段を降りる。

 少し足取りが重い気がするのはきっと気のせいではないのだろう。


 ささっと顔を洗ってからリビングに続くドアを開けるが、当たり前のようにそこには誰もいなかった。


 うちの親は共働きでとても忙しい身だ。帰ってきても寝るだけで私にはお金だけ渡している。


 おかげで料理や家事などがしっかりできるようになってしまったのだが、まぁそれで困ることはないと思うし、感謝すらできてしまうあたりもう諦めてしまっているのだろうなと思う。


 どうせ私のことなんて気にかけていないのだ。


 キッチンに行って冷蔵庫から適当に朝食用の卵やベーコンを出し、冷蔵庫のすぐ横にある食パンをトースターに放り込む。

 その間に目玉焼きとベーコンを焼く。


 休日だからと平日と変わるわけでもない当たり前の時間が過ぎていく。


 少し違うところがあるとするのなら気持ちの問題だろうか。

 昨日の話を考えると少し重たいような、このあとの予定を考えれば楽しいような、そんな感じだ。


「はぁ……」


 無意識にため息が漏れる。


 早めに目玉焼きを作り終わり、食パンが焼けるのを待っていたらトースターから音がしてトースターを開けると中からちょうど良い焦げかげんの食パンが出てきた。

 900Wで5分、それがこれまでの朝食を通して見つけたちょうどいい時間だった。


 食パンに目玉焼きを乗せてかぶりつく。

 半熟にした目玉焼きの黄身は口の中でとろけてパンと混ざっていく。


 この味は飽きないなと思う。

 親が私を放任しだしたのはいつからだっただろうか。物心ついたときには家に1人だったことを考えるときっと小学校1年生のときからすでにいなかったのだろうなと思う。


 その頃から作って食べているのだから飽きてもおかしくないだろうに飽きないあたり、親にすぐ見捨てられた私と重ねてたりするのだろうかと思ってしまう。


 ……そんなわけないか。


 そもそも私は見捨てられたわけではない。忙しいだけだ。


 しばらくして朝食を食べ終えた私は自室に戻り服を着替えて軽くメイクをし、髪をゆるく巻く。


 鏡で巻いた髪を軽く整えているとチャイムが鳴って、ドアを開けると美波がいた。


「やっほー」

「早いね」


 時計を何度見てもまだ10時前だった。


「早めに来るものでしょ?」


 美波は冗談めかしながら言う。


「確かにね」

「じゃあ行こっか」

「なにするか決めてるの?」


 もったいぶるように美波が言う。


「行ってからのお楽しみ!」


 私は「わかった」と返事をしてから靴を履き替えて外に出る。空はどこまでも機嫌が良いらしかった。


「ねえ」

「どうかした?」


 美波は頬に紅を滲ませて恥ずかしそうな顔をしていた。


「その……星名くんのことなんだけど」


 心臓がどくんと大きく跳ねて、嫌な気持ちが頭を埋め尽くしていく。


「アドバイスが欲しくて」

「……アドバイス?」

「どうしたら知り合えるかなって!」


 美波は恥ずかしいと思っているのか、顔を私からそらす。髪の間から見える耳は紅みがかっていた


「そうだなぁ……」


 連絡先が聞きたいなら直接聞けば教えてくれるのではと思う。でも美波が求めているのはそういうことじゃないと思う。


「その星名くんの友達から知り合うのは?」

「どういうこと?」

「星名くんとの接点を直接作るのは難しいと思うから友達経由で星名くんの友達を紹介してもらって」


 なんでこんなことをしてるんだろうと思う。


「そこから星名くんに繋げたら?」

「あ〜なるほどね! いいねそれ」

「でしょ?」


 私は自慢げに言う。


 正直に言えばこんなアドバイスなんてしたくないに決まっている。でも美波のためだから、仕方なくやってるだけだ。


 隣でご機嫌そうに歩く美波に軽く目線を向ける。


 春にはくには少し寒そうなミニスカートにゆったりとしたカーディガンを羽織っていて、一言で表すならとてもかわいい。


 それを伝えるには私の勇気はまだまだ足りてなくて、見ているだけに済ませておくしかなかった。

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