声をとじこめて

ニキル

雪を踏みしめる音 

祖父が私を抱っこして、私は祖父の肩越しに踏みしめられた足跡を見るのが好きだった。

祖父と祖母の家は雪の多い場所だった。

いたるところに雪山ができているので、かまくらを作るのに雪を盛らなくても穴を掘るだけでできた。

ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ

祖父の長靴が地面について音を出す。

右、左、右、左、右

次から次へとできる足跡のライン製造のようで面白かった。

何より何もしゃべらずにただ

くたっと抱かれている

その暖かで静かで幸せな時間が大好きだった。


姉が入院した時、妹が生まれた時、そのほかにもよく祖父母の家に預けられた。

祖母は私が大好きだったのでとても甘やかしてくれた。

朝まだ薄暗い時間に祖母は起きて米を研ぎ始める。

ひとしきり支度が終わったら居間で新聞を読む。

ちょうどそのくらいに起きて行くと、まだ部屋は温まっておらず肌寒い。

私に気づいた祖母は「あらあら、寒いでしょ」と毛布やら自分の服やらエプロンやら、その時あるもので私をくるんで抱きかかえてくれる。

私はそうして欲しくてきっと、早く起きていったんだと思う。


私には姉がいた。

歳は私より6つ上だった。

歳が離れていたのもあり、私が何をしても怒らなかったと思う。

一緒に姉の勉強机で塗り絵をしてくれたのが今でも思い出す。

勝手に部屋に入っても嫌がらず遊んでくれた。

姉が持っていた漢字辞典をペラペラめくるのが好きだった。

芸能人のこと、プリクラのこと、おしゃれのこと、いつも姉の言うことが正しいと思っていた。憧れの姉だった。


父はよくゲームを買ってきてくれた。仕事から帰ってきたと思ったら新しいゲームソフトを持っていて、スーパーファミコンの人生ゲームを家族みんなでやったりした。

とある日の深夜、父が一人でアニメを見ている日があった。

私が夜目を覚ますと襖の隙間からテレビの光が漏れていて、私は隣で寝ている母や妹を起こさないようにそっと立ち上がり襖をあけた。

父は私に寝なさいとは言わずに「一緒に見るかい?」と膝の上にのせてくれた。

父の見ていたアニメは難しくて意味が分からなかったし、ちょっと怖かったけど目が離せなかった。

父と二人だけの秘密の夜だった気がして思い出すと少し暖かい気持ちになる。

普段はお酒を飲んで野球を見ると怒鳴ったり母に当たったりする父だったが、私はその日の父がとても好きだった。


幼いころの私は人見知りで怖がりだった。

水族館に連れてってもらうと号泣して

子どもが室内で遊べる広場へ連れてってもらうと怖くて母の足にしがみついて遊具で遊べなかった。

家族が私の安心できる、私が私でいられる空間だったと思う。

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