陸頁目 生の隔たり

 ~~翌日~~


 朝の日差しがカーテンを揺らす。

 開けっ放しにしていた窓から侵入して、

 ゴミ袋だらけの部屋に新鮮な風を送り込む。

 そんな気持ちの良い朝日に目元を照らされて、

 桃髪の女は唸るような吐息と共に起床した。


 整えられていないボサボサの髪を掻きむしり、

 薄着姿のまま歯車の回る街並みにその身を晒す。

 窓もカーテンも全開にして、不用心に。

 だが次の瞬間、そんな彼女を誰かが咎めた。



「あーシェナ! またそんな格好で窓開けて~!」


(朝から元気……)



 窓の向こう側、眼下に横たわる石畳の裏道から、

 その女はあられも無い姿を晒す少女を叱る。

 黒髪に丸眼鏡の、芋っぽい雰囲気を漂わせた女。

 何の特異性も持たない、が其処にいた。



「何よエリー、また来たの?」


「シェナがちゃんとご飯食べてるか心配だからね!

 今そっち行くからー! 部屋片付けといてよー」


「はいはい……分かったわよ」



 朝から煩いな、と文句を垂らしつつも

 桃髪の少女は部屋のゴミを積み上げ始めた。

 するとその直後ドアベルが鳴り響き、

 シェナは早いなと驚きつつも扉を開ける。


 だが其処に居たのは先程の友人では無く、

 それよりも幾分か背の低い男の子。

 黒髪に深山幽谷の如き深緑の瞳を持つ

 人ならざる幼き怪物であった。



「げっ」


「おはよ透血鬼カラーレス。中に入れて?」


「帰れ!」


「そう言わないでってば……うわ……凄い部屋」


(まずい! 早くしないとアイツが……!)


「お待たせシェナ、ってぇええ誰その子!?

 めっちゃ可愛いんですけどーーッ!!」


(しまった……!)


「僕~お名前は何かな~?」


「ん? ……お姉さん魔物?」


「へ?」


「ッ……!? こいつはベリル!

 えとその……私の弟というか、なんかそんな感じ!」


「そうなの? お姉ちゃんに会いに来たんだ~?」


「……うん、そう。だから入れてお姉ちゃん」


「じゃあ私も! おっじゃっましまーす!」


(あぁ……私の平穏の崩れる音がする……)



 ~~~~



 二人の客人がシェナの部屋に乗り込んだ。

 一方は鼻歌を奏でながら台所で鍋を動かし、

 もう一方は家主と共に食卓の前に鎮座する。

 そして家主の少女は苛立ちの吐息を漏らしつつ

 台所の人間には聞こえない声量で話し始めた。



(ちょっとアンタ、なんでウチに来たのよ?

 あの長身の保護者は?)


(ギドなら昨日落とした荷物を取りに行ったよ

 その間は透血鬼カラーレスに面倒見て貰えってさ)


(私はアンタらの復讐劇やつあたりに付き合う気は無いのだけれど?

 しかも、その事は昨晩ちゃんと伝えたはずよ?)


(知ってる。でも隣人とは仲良くしろって)


(むぅ……)



 シェナは僅かな会話からギドの思惑を察知する。

 恐らく彼は透血鬼カラーレスの能力を欲しているのだ。

 他人の記憶に干渉し、都合良く消去出来る能力。


 これがあれば万が一の事態にも対応可能。

 人間の世界で暮らそうと考えている魔物ならば

 何としてでも確保しておきたい戦力だろう。


 だがそれはシェナにとっては迷惑そのもの。

 完全に個人として活動している彼女には

 人類への報復等という大それた野望は無かった。



(とにかく! 私はアンタらには協力しないから!)



 そんな事を述べるシェナの顔を覗き込み、

 今度はベリルが質問を投げかける。

 話題は当然、この部屋にいるもう一人。

 明らかに只の人間である少女についてだった。



(あの人は誰?)


(エルジェット・セラフィナイト。料理店の娘よ

 私は親しみを込めてエリーって呼んでるわ)


(人間だよね? シェナが魔物だって事は……)


(教えてない。怖がらせちゃうでしょ?)


(友達なの? 人間と?)


(は? 勘違いしないで――アレは私のよ)



 テーブルに頬杖を突きながら、

 記憶捕食種は悪い笑みを浮かべてそう告げた。

 またそれと同時にこの室内唯一の人間が、

 そうとは知らずに彼女たちの前に大皿を運ぶ。



「はーい、出来ました~

 ベリル君も今日は私の手料理をご賞味あれ!」



 エリーは得意げに胸を張りそう告げる。

 自慢げに他人へ振る舞うだけの事はあり、

 彼女の作る料理はどれも中々の出来映えであった。


 だが豪勢な朝食を前にベリルは硬直する。

 何故なら彼は魔物であり、主食は『人肉』。

 盛り付けられた加工済みの食材よりも

 彼は目の前の少女の方が美味しそうに見えていた。


 しかしそんなベリルとは対照的に、

 シェナは勝手知ったる態度で

 彼女の料理を口へと運んでいく。



「ん。今日は良い味ね」


「今日良いお味、でしょ?

 さぁさぁベリル君! 遠慮せずどうぞ!」


(本気? シェナは何とも無いの?)



 助けを求める目を向けてみるが、

 シェナは黙々と出された食事に手を付ける。

 援護は無いと察したベリルは諦めてスプーンを握る。

 が――



「うぐっ!?」



 ――口に含んだ瞬間、魔物の少年は嗚咽を漏らす。

 人間の料理は魔物の舌には絶望的に合わないらしい。

 まるで泥塗れの石や砂利を飲み込んだように、

 栄養に還元されない異物だけが腹に落ちていく。

 やがて気力だけでは取り繕えないほどの不快感が

 少年の喉から口を目指して逆流した。



(あ、駄目だ……!)



 少年の我慢は決壊した。

 噎せ返る音と共に彼は食事を吐出した。

 ――と同時にベリルは速やかに人間の顔色を伺う。

 自分が魔物だと気付いてしまったのではと、

 焦りに焦った瞳を向けた。


 だが意外にも――エリーは喜んでいた。



「もぅベリル君ったら~!

 そんなにがっつかなくても無くならないよ!」



 人間は透血鬼カラーレスが魅せる『幻惑』の虜になっていた。


 ベリルは呼吸を整える作業も程々に済ませると、

 すぐにシェナの方へと目を向ける。

 対して彼女は優雅に飲み物を口に含ませながら、

 幻に惑わされている少女の頭にソッと触れた。

 そして、エリーの記憶から一部を捕食した。


(言ったでしょ? 彼女は私の餌

 私たちの種族はね、『幸福な記憶』が大好物なの)



 ~~~~



 魔物にとっては拷問にも等しい時間を終えて、

 ベリルは腹を抑えながら汚部屋で休む。

 食事はほとんどシェナが消費していたが、

 それでも不調となる程の反動を受けていた。



「……ぅぅ、何か涼める物って無い?」


「なーにベリル君。食べ過ぎて熱くなっちゃった?

 シェナー? 前にあげた扇風機って今どこー?」


「さぁ? その辺適当に探してみて?」



 ベランダにて外の空気を吸いながら、

 家主は適当に指で輪を描いていた。

 そんな彼女の態度に唇を尖らせつつも、

 エリーは積み上げられた物品の山に立ち向かう。



「はぁ~相変わらず、テーブルクロス引き失敗した?

 ってくらい散らかった部屋ねー!」


「わざわざ嫌味な言い回しありがと」


「嫌だと思ったのなら綺麗にしなさーい

 ベリル君もこんな部屋のお姉ちゃんは嫌だよね~?」


「んー? 前の環境も似た感じ……」


「もしかして姉弟揃って汚部屋だった?

 社会で生きていくなら清潔感は大事だよ?

 ……と言ってる間に、扇風機発見!」



 声を弾ませ、エリーは物の山から機材を引き抜く。

 彼女が手にしていたのは魔導機構マシナキアの日用品。

 モルガナの工房でも何度か目にした事のある、

 近年では至って平凡な装置であった。

 が、彼女がそのスイッチを入れた瞬間、

 ベリルは慌てて「待った」の制止を掛ける。



「それ、今すぐ止めた方が良いよ」


「ん? 何かあったの?」


「加熱部分に埃が溜まり過ぎてる……あ、発火しそう」


「うぇえっ!? ストップストップ!」



 慌ててエリーは機材を止める。

 それと同時に三人の鼻に物の焼ける匂いが届く。



「うわ本当だ。埃が焼けて赤くなってる……」


「こんなに溜まるなんて相当だね

 シェナは火炎放射器でも作りたかったの?」


「アンタら本当っ……素敵な表現してくれるじゃない?」



 ~~同時刻・森の中~~



 養うべき子供を隣人に預け、

 長身の剣士は昨日落とした私物を回収する。

 死んだ馬の腐臭が漂う森の中で、

 彼は土埃を被った荷物の一つを拾い上げる。



「……ごめん」



 心底安堵した声で、彼はソレの汚れを払う。

 拾い上げたのは年季の入った『記録帳』。

 ギドはそれだけを懐に仕舞うと

 他の物には一切目もくれずにその場を後にした。


 次の瞬間、隣の道を一台の大型魔導機構マシナキア車両が爆走する。

 車は轟音と共に一瞬で駆け抜けて行ったが、

 その卓越した動体視力は正体を見破っていた。



「人攫い?」



 〜〜〜〜



 平和な街を三人の少年少女は征く。

 エリーはベリルと歩幅を合わせて手を繋ぎ

 二人の前をスクラップ寸前の扇風機を担いだ

 仏頂面のシェナが先導していく。

 放置し過ぎて使い物にならない装置を捨て、

 新しい扇風機を買いに行く所だった。



「この街はこれから暑いからね~

 折角の機会だし質の良い奴を買っちゃおう!」


「はいはい。以前行った店で良いでしょ?」


「へぇ……前にも一緒に買い物したんだ?」


「そうだよ。シェナがこの街に来た頃にね!

 家も家具も何もかも私が工面してあげたんだから!」



 あの時はかなり無茶をした、と口ではぼやきつつも、

 エリーは何処か自慢げに当時の話を少年に語り聞かせた。

 だがそんな話を聞けば聞くほどに

 彼女がシェナに行った支援の数々が過剰に思えて、

 正直モルガナ以外の人間は嫌いだったベリルは

 二人の関係性を気色悪く思い始めていた。



「なんで……シェナにそこまでするの?」


「んふふ! シェナはね、私の命の恩人なの!

 私が夜道で暴漢に襲われている所を助けてくれたの!」


「別に、ただの気紛れよ」


「またまたそんな事言ってー!

 ……格好良かったんだよ、あの時のシェナ」



 目を細め、恍惚とした表情で

 エリーは前を征く同年代の女の背を見つめていた。

 その表情からベリルは彼女の気持ちを汲み取り、

 同時に少女がシェナを支援する理由を悟った。


 そうこうしている内に目的の店へと辿り着き、

 二人は肩が触れ合いそうなほど近付いて

 ずらりと展示された商品の良し悪しを見定め始めた。

 エリーは我事のように愉しげであり、

 そしてシェナも心安らぐ様子で彼女と喋る。


 そんな二人の背中をしばらく眺めて、

 幼き復讐者はふと己の中に溜まった黒い感情が

 僅かに薄まっていくような感覚を覚え始めていた。



(人間とも……もしかしたら……)



 買い物を終えて再び屋外へ出た二人に

 ピッタリと着いて行きながら、

 ベリルはそんな事を想うようになっていた。

 だが彼の妄想を掻き消すかのように、

 耳障りな爆音が穏やかな日常に乱入した。



「っ――!? 危ない!!」


「え? ――ヅッ!?」



 直後、突き飛ばされる感覚がベリルを襲う。

 須臾の間に彼の瞳が捉えたのは

 車両から現れた大柄の男たちに連れ去られる

 シェナとエリーの姿であった。



「っ……!? シェナ! エリー!」



 状況を把握しベリルが声を荒げたのと同時に、

 車両はその場から逃げるように走り出す。

 現場に再び静寂が戻る頃には既に、

 下手人たちは跡形も無く消え去っていた。


 少年はすぐに追いかけようと背中に魔力を溜める。

 がしかし、そんな彼の行動を妨げるように、

 周囲の建物から騒ぎを聞きつけた人間たちが現れた。



(っ……! 人前じゃ能力を使えない……!)



 人間の世界で生きる魔物には、

 出来る事が大きく限られていた。



 ~~車両内~~


 天幕の降ろされた、暗く狭い車両の中で

 二人の少女を地面に押し倒し

 誘拐犯たちが悪辣な笑みを浮かべている。

 彼らの正体は人攫い。人間が人間を売る時代。



(チッ、しくじった……コイツら手際が良い……!)



 頭を押さえ付けられ、両手足を縛られながら、

 シェナは歯を食いしばって目を動かす。

 ほとんど車両の勢いを止める事無く

 自分たちを誘拐してみせた技量や、

 横転したベリルを即座に捨てた判断力など、

 とても思い付きの素人とは思えない。


 その事は彼らの会話内容からも伺えた。


 まず彼らはかなり大きな『組織』である事。

 また標的は最初から子供であり、

 特に『ボス』と呼ばれる存在は本来ベリルくらいの

 歳の子を誘拐するように命令していた事。

 そして領内の兵士から『警戒』され始めているため、

 最近では行動し辛くなっている事などが聞けた。



(よし十分、あとはこいつらを幻覚で……!)



 反撃に出ようとシェナが僅かに身を捩る。

 だがその時、彼女の覚悟をが止めた。



(シェナ……!)



 エリーは不安を掻き消すためにシェナを凝視していた。

 今能力を使えば正体が発覚するだろう。

 結論として、透血鬼カラーレスは二択を迫られる。

 この場の者を皆殺しにして自分だけ助かるか、

 或いは人間の振りをしたまま餌と共に抜け出すか。



(っ……どうすれば……!)



 その時、エリーは自身の額を

 シェナの背中にぐっと押し当てた。

 そして吐息が掛かるほどの距離から、

 慕う彼女に向けて想いを告げる。



(大丈夫、こんな奴らにシェナは負けない

 私の大好きな貴女は――誰よりも格好いいんだから!)



 強く、熱く、肌を伝う想いに背中を押され、

 シェナは口元にほんの僅かな笑みを浮かべた。

 そして次の瞬間、彼女は床を叩いて宙に跳ねる。

 まるでボールのように跳んだ彼女の姿に、

 誘拐犯の多くはギョッと目を丸くしていた。


 それでも有能な数名が即座に反応し、

 剣を抜いて空中のシェナに斬り掛かる。

 が、シェナはそれを逆に利用し

 迫る刃に合わせて空中で縦回転を繰り出すと

 自身の手足を縛っていた拘束具を切断する。



「「なに!?」」


(よし! 後は――)



 着地と共にシェナは再び周囲を見回す。

 すると彼女は床に転がる魔導機構マシナキアを発見した。

 彼女が連れ去られる時に一緒に持ち込んだ、

 廃棄場に持って行く予定だった扇風機だ。



『シェナは火炎放射器でも作りたかったの?』


「本当……素敵な表現してくれるじゃない!」



 桃髪の少女は腰を落とし床を蹴飛ばす。

 隙間風が如く巨漢たちの足元を通り抜けると

 彼女は故障寸前の魔導機構マシナキアのスイッチを入れた。

 次の瞬間、機械は絶対に宜しく無い異音を上げ、

 本来風を送る部位を中心に炎上し始める。


 火炎放射器、とまでは行かなかったが、

 炎を纏った武器は布で覆われた車両内では

 この上無いほど凶暴な武具と化していた。



「いっくわよ――!!」


「なっ!? バカ……止め――!!」



 車両は一瞬にして炎上し、

 直後盛大な焔を上げて爆発した。

 その中からは焼けた機材や人体が飛び散るが、

 唯一命を保ったままの状態で誰かが抜け出す。


 颯爽と飛び出したそれは

 エリーを抱きかかえたシェナであった。



 〜〜〜〜



「ふぅ……何とか、なったわね……」



 燃える車両に目線を送りながら、

 シェナは一段落の溜め息を漏らす。

 そして状態を確認しようと振り返ったその時、

 彼女はエリーの顔色の違和感に気付いた。



「? エリー?」


「あ、……あぁ……!」



 彼女はシェナを見て怯えていた。

 そして震える手で彼女の左腕を指差した。

 シェナが釣られて確認してみると、

 彼女の腕は――途中で千切れていた。

 否、それだけでは無い。



「生えて来てるの? その腕……!」


(しまった……!)



 透血鬼は高い再生能力も有している。

 腕の欠損ならすぐに修復出来るほどの、

 人間ならば有り得ない再生能力を。



「エリー……! これは――」


「嫌……!」


「え?」


…………!」



 人間にとって、魔物は存在自体が恐怖の対象。

 それは常識として根付いた感覚。

 百年の恋も冷める、致命的な『生の隔たり』。



「…………そうね。収穫時かしら?」



 しばらくして二人の元にベリルが追いつく。

 だがその時既にシェナは『行動』を終え、

 横たわる人間を放置して立ち上がる所だった。



「シェナ?」


「……帰るわよ、人間に見つかる前に」



 ~~数時間後・夕刻~~



 一日の終わりを実感し、

 人々は各々の家へと帰宅する。

 それは魔物に恋した人間の少女も例外では無く、

 彼女は実家のレストランに無事戻って来た。



「お帰りエリー。今日は遅かったね?

 また例のお友達の所かい?」


「え……?」



 少女は虚ろな目をしていた。

 だが彼女の親はそんな娘にも気付かず

 忙しそうに奥へと行ってしまったので、

 少女は一人で考え込んで台詞を吐いた。



「……誰の事?」



 ~~シェナ家屋上~~



 赤く、そして黒く染まる街を眺めて、

 頬杖を突きながら透血鬼カラーレスは黄昏れていた。

 そんな彼女の背後にはいつの間にか、

 満面の笑みを貼り付けたギドが立っていた。



「喰い殺しはしなかったんですね、透血鬼カラーレス?」


「食べ過ぎると血が透明になっちゃうもの

 本当……生きにくい時代になったわね」


「魔王崩御から六年

 これからはもっと生きにくい時代になりますよ?」


「……っ」



 魔物の生存圏はもう無い。

 天敵の消えた人類の開拓速度は圧倒的で

 直にこの世界は全て人間の者になるだろう。

 此処から先の世に、魔物の安寧は無い。



「アンタたちは魔物の時代を取り戻すんだっけ?」


「そのつもりです、協力してくれますか?」


「…………まぁ、考えとく」


「ええ。我々はいつでも貴女を歓迎します」



 心底満足げにそう言うと

 ギドは振り返り、一旦は立ち去ろうとした。

 しかしすぐに立ち止まると、

 思い出したかのように再度質問を投げかける。



「そういえば、お友達が居なくなって悲しいですか?」


「別にぃ? 私はあれを飼育してただけだし?

 てか、そういうので悲しむ魔物っているの?」


「いいえ。居るなら相当な変わり者ですね

 して、の方は如何でしたか?」


「飼育員の才能あったみたい。凄く美味しかったわ」



 臆面も無くそう語るシェナに今度こそ安心し、

 ギドはその場から消滅するように立ち去った。

 だが彼の去った後しばらくして、

 誰に言う訳でも無く少女はポツリと呟いた。



「――最後はちょっと、苦かったかも」



 ~~同時刻~~



 人と魔物は不倶戴天かつ漆身呑炭。

 相容れる事は無く、友達になど成れはしない。



「……ちっ」



 横転した人攫いの車両の前から、

 ボロ布を纏ったその人物は立ち去った。


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