得意先を回っていた時に見た光景
@2321umoyukaku_2319
第1話
得意先を回っていた頃に目撃した猫たちの話。やたらと地域猫が多い町があった。行った得意先で、その話をした。
「ここ、猫が多いですね」
すると、近くで保護猫の活動をしている夫婦がいるとの返事が返ってきた。地区の様々な活動やボランティアなどに積極的な方々とのことで、その地域の尊敬を集めているそうだ。
しばらくしてから、その町へ行った。見た感じ、猫の数が減っていた。得意先の人に、その印象を話す。
「猫、減ってません?」
猫の世話をしていた夫婦の奥さんが体調を悪くして入院中との答えが返ってきた。御主人は奥さんの方にかかりっきりで、猫にまで手が回らないらしい。大変ですねえ、と得意先の人と二人で同情した。
それから異動があって、別の土地に移った。戻ってきたのは数年後だ。再び得意先回りを再開する。以前、たくさんの猫がいた町の得意先にも顔を出す。
「お久しぶりです」
そんな挨拶をして、世間話をした。昔いた猫たちの話になった。
「来るとき気を付けて見てたんですけど、見かけませんでした」
得意先の人が理由を教えてくれた。
猫たちの世話をしていたご夫婦の奥さんは亡くなり、旦那さんは身体を悪くして独り暮らしが出来なくなり、今は施設に入所しているとのことだった。お二人がいなくなると、猫たちは次第に少なくなり、今はたまに見かける程度になったそうである。
「さみしいですね」
「そうだねえ」
得意先の人と二人で、昔を懐かしがった。時間が来たのでお暇した。帰り際、ふと空き地を見ると、猫たちがたくさんいた。土管の中や上や塀の上の狭いところで丸くなっている。思わず笑った。
「なんだ、まだいるじゃん!」
違った。ふと気が付くと、猫たちは消えていた。幻を見たのだ。その後、その空き地の前を何度も何度も通り過ぎたが、猫たちの姿を見ることはなかった。
得意先を回っていた時に見た光景 @2321umoyukaku_2319
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