俺の部屋の内見

雨蛙/あまかわず

俺の部屋の内見

「こちらがそのお部屋になります」


ここは住んだ人は必ず呪われて死ぬと言われている事故物件。その部屋にまた一人、内見をしに来た。


「それでは私は外で待っていますのでご自由に見てください」


玄関から若い女の人が入ってきた。


「ここから出ていけ」


玄関の扉が閉まると同時に入ってきた女に語り掛ける。だが女はまっすぐ俺のいるリビングに向かってくる。


「早くここから出て行け!」


強めに言うが女は部屋を見て回っている。やっぱり俺の声は届かない。


「ここがあの人が住んでいた部屋…ねえ、いるんでしょ?」


ん?あの女がはめている指輪。見覚えが…


「…美紀みき


なぜかその名前がこぼれ出た。


雅人まさと!やっぱりいた!」


さっきまで辺りを見渡していた女が俺の目を見た。


「俺が見えるのか?」


「ええ、見えているわ」


「そうか、誰だかわからないがここに住むのはやめろ」


「なにをいってるの?私、美紀よ。覚えてないの?」


しばらく考えてみる。が、やっぱり思い出せない。


「すまないが生前のことは覚えていないんだ」


二人きりの部屋にしばしの沈黙が流れる。


「本当にすまないが俺の知り合いだったら今すぐ帰ってくれ」


「いやよ。私はここに住むって決めたんだから」


さっきの悲しそうな表情とは打って変わって力強くそう断言した。


「なぜそこまでこの部屋にこだわる?」


「だって、私たちなにがあっても一緒にいるって誓ったから」


女のはめている指輪は俺があげた結婚指輪ということか。通りで見覚えがあるはずだ。


「私は死んでもあなたと一緒にいたいの。あなたに殺されるならそれでもいい」


「もういい、わかった。誰だろうと夜になったら人を殺す」


「だったら私はあなたをよみがえらせるわ。生きていたころのあなたを」


そう言い残して部屋を出て行った。すがすがしくて気の強いやつだ。俺はあんな奴を好きになったのか?


どのみち、俺はあの女を殺すことになるだろう。


その日以来、俺の部屋に内見をしに来る人はいなくなった。

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俺の部屋の内見 雨蛙/あまかわず @amakawazu1182

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