第4章 VLにログイン
1 真相の告白
パソコンのモニタ画面いっぱいに広がるVLビューワーのウインドウの真ん中に、ログイン進行状況を示すバーが伸びていく。
バーがいっぱいになったところでさっきのお城のような場所が映り『ナノ』が現れた。それが僕の操作する兄貴のアバター。
操作は矢印キーとマウスのホイールを使うんだっけ、うる覚えだがなんとかコントロール出来そうだ。
さっき居たマドカという女性アバターと、それにこっちは姉貴だな? アバターの頭上に出ているタグに『めぐ』と書かれている。そしてもう一人。さっきはいなかった男のアバターが1人増えていた。
名前は『カシム』。イケメンアバターではあったけど、黒い髪にダークグレーのスーツを着て地味なネクタイをしている、現実世界でどこにでもいそうなサラリーマン風の姿だった。
カシムという人は、確かこのギルドのリーダーでリージョンのオーナーだと聞いていた気がするんだけど、頭上に出ているタグの名前の下に役職が『雑用』と書かれている。確かにリージョンやイベントの主催とか、それらの全体を仕切っているのだろうから雑用という名目が最も適していると言えばそうかもしれない。
『ナノくん来たーーー^^/』
早速マドカという人がチャットテキストを放った。続いて姉貴のアバターであるめぐがキーボードを打つ動作を始めた。
『こいつナノではない。ここだけの話で、リアル割れ覚悟で話すから聞いてください』
姉貴が操作しているアバターのめぐがキーボードを叩く動作が続く。
『ナノは私のRL(リアルライフ=現実)の兄です。私は兄に内緒でずっとこのギルドで活動してきました。』
『みんなを騙すつもりはなかったけど、RL兄妹ってわかると私も兄も、多分みんなもいろいろやりにくいと思ったので黙っていました。』
『今ナノのアバターでログインしているのはRL弟です』
チャットテキストが次々と繰り上がっていった。
今度はマドカがキーボードを打ち始めた。
『あらあら、そうだったの? 弟さんだったの、びっくりね@@;、それで本物の中の人は?』
めぐがまたキーボードを打つ動作、チャットテキストが1行繰り上がった。
『兄は、実は、1ヶ月以上前に交通事故で亡くなりました』
『え? まさか~!! だって、さっきまでここに居たのに?』
『すみません、ナノは、、、あれは弟の悪戯だったんです、本当にごめんなさい」
画面の中のアバター全員の動きが止まった。みんな棒立ち? でもなくて、手を組みなおしたり、振り返ったり、首をかしげたり、髪をかきあげたりと佇む動作を繰り返しているけど、チャットは沈黙。
僕もVLにログインするのは4回目で兄貴以外の人とチャットで会話した経験もないので、ただ黙って画面を眺めていた。
それまで何も言わずに黙っていたカシムというタグを付けたアバターがキーボードを打つ動作を始めた。チャットウインドウでテキストが繰り上がった。
『めぐちゃんの話、にわかに信じがたいですが、めぐちゃんがナノのRL妹だったという話は信じましょう。だけどナノのRL事故死は信じられません』
めぐがキーボードを打つ動作、チャットテキストが繰り上がる。
『事故死は本当です。お葬式も済ませたし。そのせいで私はみんなに無断でしばらくログインしなかったんです』
またしても沈黙。結構長い。誰もチャットで話さなくなった。いったいどうしたんだろう。僕は何も出来ずにただじっと待ち続けた。
するとマドカがキーボードを打つ仕草のあと、ようやくチャットテキストが繰り上がった。
『ごめんね、今IM(インスタント・メッセージ=個々のアバター同士だけで内緒話をする機能)でカシムと話したんだけど、めぐちゃんには内緒にしてたことがあって、実はね、ナノくんはサブアカを使ってずっと毎日ログインしてたのよ』
嘘だろ!? 毎日ログインって……死んだはずの兄貴がか? そんなこと絶対有り得ない! どういうことなのかますます訳がわからなくなった。
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