名残雪と大山桜

藤泉都理

名残雪と大山桜




 桜の木の下で待ち合わせをしていたから。


 ああきっと、この刻が来たのだとわかった。








 大山桜おおやまざくら

 葉と花が同時に出る山桜やまざくらより花や葉が大きい事から名付けられた。

 寒さに強く、北海道の山地によく見られる事から、別名「蝦夷山桜えぞやまざくら」とも呼ばれている。

 染井吉野などと比べて、濃い桃色の花を咲かせる。

 夏になると小さな黒紫色の実をつけて、鳥たちがその実を食べにくる。




 五月の初旬。

 山地。

 名残雪が舞う中。

 赤紫色や褐色の葉と、濃い桃色の五枚の花弁が綻ぶ大山桜の下。

 待ち合わせをしている彼らの結末を見守る。


 復讐を果たす者と復讐を果たされる者。


 足掻かず、黙って、その刃を受け入れるのか。

 足掻き、反撃して、その刃を受け入れるのか。

 足掻きを許さず、黙って、その刃を突き立てるのか。

 足掻きを許し、声を出し、その刃を突き立てるのか。




 結末を見たかった。

 結末を見て、きちんと葬って、あげたかった。

 風葬をきっと、望んでいただろうけど。

 あなたたちの我が儘を聞き届けて、黙って、結末まで黙って、見届けるのだから。

 私の我が儘も、きちんと、聞き届けてよね。











「よくも風葬じゃなくて、土葬にしたなって。恨んで出てきてもいいよ。毎年。お参りに行くから」




 楽しみにしている。




 喉を震わせるだけ。

 音にして出さずに、歩き出す。




 二つの岩に背を向けて。











(2024.3.5)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

名残雪と大山桜 藤泉都理 @fujitori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ