第五章 3

   (城内の一室、ガートルードのみのところへ老婆が登場)


魔女  あの、新入りの洗濯婦の者でございます……。

ガートルード  えっ。

魔女  よろしければご挨拶を。

ガートルード  急に、後ろから話しかけないでちょうだい……(見た目に驚く)、見たことのない方ね。

魔女  ええ、この前のお城ではこき使われて、振り回されて、放り投げられたのですわ。でも、あたしゃその程度じゃ負けやしません。這いつくばってでも。

ガートルード  城内の人の目や耳も、このところ何だか落ち着かないわね。

魔女  あっちこっちで変な噂やら、死体やら、偽の手紙やらが飛び交っていますからな。

ガートルード  本当、いつもソワソワしているのよ。

魔女  お妃さまもソワソワ、王様もソワソワ、王子様も……、みんな、そろそろ命の灯が尽きかけてるからねえ。

ガートルード  何ですって。

魔女  ええ、明晩の賭け試合の際に、毒を盛られてねえ!

ガートルード  しっ! 声が大きい。

魔女  耳が遠いから声が大きくなっちまうんだよ。その光景を見せてやろうか? 

ガートルード  そんなものを、いったいどうやって……。お前はただの掃除婦ではないわね。

魔女  分かってきたじゃないか、ほら、こうやって……(と水晶球を出す)。

ガートルード  まあ、何かが見えてきた。

魔女  これを見れば、明日の運命がわかるんだよ。



   (水晶球に現れる場面と声)


クローディアス  ガートルード、それは。

ガートルード  いいえ、乾杯を。おさきに。

クローディアス  (呟くように)毒がはいっておるのだ、もう遅い!



レイアーティーズ  おたがいに許しあおう、ハムレット様。レイアーティーズの死も、父の死も、あなたの罪にはならぬよう、そしてあなたの死もレイアーティーズの罪にはならぬよう。(息たえる)


   (水晶球ここまで)



ガートルード  これが明日の様子なのかしら?

魔女   これが運命そのもの。このまま行けば、間違いなく明晩はこの光景が、この城で……、やがては広く世に知られる運命で。

ガートルード  このまま行けば?  

魔女   災難を避けるには、ちょっとだけ手を入れればいいんだよ。

ガートルード  あんなもの絶対に飲みやしないわ。でも、どうすればもっと確実に避けられるのかしら。

魔女   簡単なこと、大きな運命を変えるのは、この小さな蝋燭。これを七本ほど立てておくんだ。賭け試合の場を囲むように灯しておけばいいんだよ。

ガートルード  そうすると、運命が変わるのね。

魔女   この蝋燭の光と匂いが、人の心を狂わせるのさ。

ガートルード  どんな風に?

魔女   まともな判断ができなくなるほど怒り狂って、我を失ってどうしようもなくなるんだよ。

ガートルード  あたしたちは蝋燭から離れて、成り行きを見ていればいい?

魔女   そうだよ、何が起きても見たこともない、聞いたこともないとね……。

ガートルード  それなら慣れたこと、明日の晩までには蝋燭を取り替えておきましょう。

魔女  イーッヒッヒ、明日の晩が楽しみ、楽しみ。

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