第五章 2

ホレイショ―  使いの者が来て、どうやらレイアーティーズから賭け試合を申し込まれたようです。しかも、王はハムレット殿に大金を賭けているとのこと。

ハムレット  おいおい、レイアーティーズの剣技の腕前は有名なのだぞ。それをいきなり賭け試合などと、怪しいお誘いだ。

ホレイショ―  腕前に差があるからと、十二番勝負でハムレット殿はあらかじめ三本先取しているものとして始めるのだという条件もあります。

ハムレット  つまり、こちらが実力では六対三の負けとしても、六対六の引き分けとして扱われるのか。

ホレイショ―  大金を賭けて、しかもハンデが用意されてあるのもかえって疑わしいもの。孫悟空殿は寝込んだまま、おとうと弟子の猪八戒、沙悟浄殿も戻ってこられない、今しばらく待ちましょう。不可解な手紙も気になりますし、オフィーリア様のご遺体も見つからず。

ハムレット  確かにその通りだ、皆が順々に消え失せてしまうよう。やがて、この城には誰もいなくなってしまうぞ。


   (沙悟浄がオフィーリアを背負って、入ってくる)


ハムレット  おお、何と! 無事だったのか。

ホレイショ―  いったい、ことの真相は?

オフィーリア  ええ、川で足を滑らせて落ちたのは本当、頭がどうかしてしまったようで。そして、溺れて死にかけたところを助けていただきましたの。

沙悟浄  わしら一行がハムレット殿の協力者であること、お話しましたが、前から薄々はご承知だったようです。

ハムレット  よかった、本当によかった、そして何よりの吉報だ。

オフィーリア  こちらこそご迷惑をおかけして。話が見えなくて心配していたのよ。

ハムレット  どうしても危険な目には遭わせたくなかったのだ。それなのにこんなことになるとは、心配をかけて済まなかった。


   (猪八戒が入ってくる)


猪八戒  いま戻ったよ。

ハムレット  あの二人はどうした?

猪八戒  ああ、あの手紙の指示の通り、きっとどこかへ連れ去られただろう。おいらは四つん這いになって、イギリスから船に紛れ込んでこの国まで戻ろうとしたら、海賊船に襲われたよ。

ホレイショ― あの辺りは物騒だからな。

猪八戒  海賊船に拾われて、奴隷みたいにこき使われそうになったから逃げてきたよ。船にある食い物をほとんど食べて、泳いで帰ってきた。

ハムレット  よかった、八戒殿がご無事で何より。

ホレイショ―  しかも、元のように丸々と、艶々と。

ハムレット  どうだろう、レイアーティーズとの賭け試合を先方の意向通り、受けてみては?

オフィーリア  お兄様と? 賭け試合ですって?

ハムレット  その通り、表向きは「手合わせを願いたい」と言ってはいるが、噂では父と妹の仇を討つためと、向こうから挑まれているのだ。

ホレイショ―  きっぱりとお断りするべきです。明らかに、何かの罠が仕掛けてあるはず。

ハムレット  この試合にどれほど卑怯な罠が仕掛けてあるにせよ、いきなり何かを起こすような真似はするまい。それにレイアーティーズを憎いと思ってる訳でもないのだ。それでは真の敵を見失ってしまう。

ホレイショ―  すると何か、お考えが?

ハムレット  ああ、レイアーティーズと激しく剣を交わしているその最中に、沙悟浄殿がオフィーリアを背負って登場してみてはどうだろう、いかにも「たった今、戻ってきた」という体裁で。

ホレイショ―  こちらから想定外の事態を仕掛けるのですか。

オフィーリア  そうなったらお兄様は、賭け試合に見せかけた決闘をする理由が半分はなくなるわ。あたしからも「こんな怖いことはおやめになって」と、お願いします。

ホレイショ― つまり、この試合は途中で取りやめ、とする目論見で。

ハムレット  ああ、そういう風になるだろう。この試合は中断として、見物の者たちの膨れ上がった期待を、今度はクローディアスと自分の決闘へと持ち込みたいのだ。皆の協力を得られるのであれば、そのように仕向けてみたい。

 正々堂々と、その場で父殺しの罪を告発し、卑怯者呼ばわりをしてやる。「今こそ決闘してみせよ」「まさか逃げるまい」と持ちかける。いかに悪辣な鼬であろうと、これなら逃れられまい。

ホレイショ―  それなら明日の夜に、賭け試合を受けると伝えておきましょう。

ハムレット  それまでは決して人の目につかないよう、オフィーリアは身を隠しておくことだ。

オフィーリア ええ、わかりました。

猪八戒  おいらたちも協力するよ。

沙悟浄  飲み込めたぞ、任せておいてくれ。

ハムレット  有難い、よろしく頼んだぞ。

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