第五章 1

   (墓場に墓堀人二人と、レイアーティーズ、クローディアスのみ)


墓堀り人1  えっほ、えっほ、もう少しですぞ。

墓堀り人2  えいほ、えいほ、二人分を掘るのですからな、少し時間がかかります。

レイア―ティーズ  ああ、父を殺され、今度は妹まで……。

クローディアス  驚きと悲しみのあまり、ガートルードは寝込んでしまった。申し訳ないが、ここは極秘のうちに葬儀を行うしかあるまい。

レイア―ティーズ  名も無い者のような形だけの葬儀、つい数日前までは考えもしなかった。まさか、このような仕打ちを受けるとは……。

クローディアス  何ということか、言葉もない。

レイア―ティーズ  しかも遺体は見つからず、理由も判然とせず。さらに、怪しげな噂の数々がまた尾ひれをつけて広まってゆくばかり。


   (ハムレットが登場)


ハムレット  ここ掘れワン、ワン!

レイアーティーズ  貴様、よくも抜け抜けと、ここにやって来られたな!

クローディアス  気を付けるのだ、相手が相手だけに。

ハムレット  よう、相変わらず馬鹿か? いい大人がよ、遺体もないのに葬式ごっこして、楽しいのか?

レイアーティーズ  いったいどの面を下げてここに来たのだ!

クローディアス  もうイギリスから戻ってきたのか。

ハムレット  イーッヒッヒ! どうしたよ、さっきから幽霊でも見たような顔だぞ。ということはだ、死んで戻ってくるとでも思ってたのか? 

クローディアス  え、う……(言葉に詰まっている)。

ハムレット  え? まさか図星か? ええ? おい、何とか言ってみろよ、この正直爺さんがよ!

レイアーティーズ  許さぬぞ、(剣を抜きかけて)貴様のおかげで、父上も妹も……。

クローディアス  (小声で)相手にするな、気が触れておるのだ。

ハムレット  で、穴から金貨でもザクザクと、湧いて出てきたか?

クローディアス  まったく先の読めない男だ。

レイアーティーズ  噂では、父の殺害に関与しているのはお前だというぞ。

ハムレット  そうそう、あんなことされた日にゃ、そりゃ普通なら死ぬだろうよねえ。足首をつかまれて、振り回されて投げ飛ばされてりゃあさ。

クローディアス  まるで見てきたかのよう、誰が誰を投げ飛ばしたというのだ、何か訳を知っているような口ぶりではないか。

レイアーティーズ  妹の行方も知っているのではないのか。

ハムレット  どうだかねえ、間抜けなお坊ちゃんの妹のことなんか、知りたくもねえよ。

クローディアス  知るはずのないことを知っているだの、そして今度は知らないだのと。

レイアーティーズ  妹に恋文を寄越した挙句、近寄るなと言われたことを逆恨みし、とうとう腹いせに、川へと突き落としたのではないか。

ハムレット  イーッヒッヒ、川だって? どうせ川のほとりで馬の糞でも踏んで、滑って転んで、水草の先っちょに頭でもぶつけたんだろうよ。生まれつきのおっちょこちょいだから、死ぬまでおっちょこちょいなんだろうな。

レイアーティーズ  無礼者、今すぐこの場で決闘しても構わないのだぞ!

クローディアス  落ち着け、それは相手の思う壺、あることもないことも喋り散らすのがいつもの手口なのだ。

ハムレット   アーッハッハ! 憎みたければ憎むがいい、憎しみ合って殺し合い、親が子を殺め、子が親を殺めるような国になるがいい、王も王妃も仮面の陰で好きなだけ舌を出すがいいや。

 どうせ老い先の短いその命、やがてこの国が滅びてしまうまで、ふんぞり返っているがいい。あちらこちらの国へと手紙を送り、くだらぬ戴冠式で大騒ぎの挙句、そろそろ周囲の国からも見限られている始末。

レイアーティーズ  断じて許せん、もはや貴様は王子でも人でもない。

クローディアス  狂った獣か、悪魔の化身ではないのか。確か、ポローニアスもあんな笑い方をしていたぞ。

ハムレット   イーッヒッヒ、図星じゃないか、馬鹿もたまにはまぐれ当たりってのがあるからな、せいぜいお互いに気をつけましょうぜ。じゃあな、腐った遺体でも見つかる日まで、せいぜい間抜け面を晒してやがれ!


   (ハムレット、嬉々として退場)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る