第三章 4
城の地下には、表向きは動物劇団のため、実際は三蔵とその弟子たちのために用意された部屋がありました。
夜が深まり、こっそりハムレットが訪れますと、寝台には僧服を脱いで横たわる孫悟空の姿があります。その傍らには膝をついて祈る、三蔵の背中が見えております。一心にお経を唱えているようでした。
ハムレットが声をひそめて、
「まるで全身の関節が外れてしまったかのよう……、起き上がる気配もないではないか?」
問いかけますと、沙悟浄も小声で応じます。
「ああ、ここへ運んできてからずっと、ぴくりともしない。目を開いても弱々しい意志しか感じられない。こんな状態のあにきは初めて見た」
悟空はまるで、毛が生えた干し芋です。体がひと回りも縮んで、萎んでしまったようでした。
「このまま消えてしまうようではないか?」
「まさか、あにきに限ってそんなことはあるまい」
「あの、怪しげな霧のせいだろうか?」
「おそらく、あの大臣が何かを撒いたのでしょう。クローディアスと妃を見ていたから気づかなかったのですが、いったんあの粉を大きく吸い込んでから、フーッと吹き返していた」
「確かにそうだった、この私を守ろうとして……」
「その時に、毒が全身に回ったに違いない」
「申し訳ない……」
芝居の中止とその後の混乱、そして身代わりになったかのような悟空の憔悴ぶりに、ハムレットの気持ちは深く、地の底まで沈むようでした。つい昨夜に交わしたばかりの会話のやり取り、「よろしく頼むぞ」「任せておきなって」というその声は、まだ耳に残っています。
思い起こすと、涙がこぼれ落ちてしまいそうでした。
ふと目をやると、普段の悟空が身に着けている僧服が畳まれており、頭に嵌められていた金の輪が載っています。
このとき、沈んでばかりいたハムレットの心は、突如として羽が生えたように軽くなって上を向きました。なぜか愉快に、快活に、浮き浮きと、心も体も軽やかに。
ひょいと手を伸ばして僧服と金輪を手にすると、足取りもまた軽やかに、鼻歌を歌いたくなるのを我慢しながら部屋を後にしたのです。
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