第三章 1
(謁見の間、クローディアス、ポローニアスの二人のみ)
クローディアス あの男の真意を知るために、つい先ほど、あの二人から報告を受けていたのだ。
ポローニアス あの二人とは?
クローディアス 幼なじみとかいう二人組。しかし、これが実にどうも、雲をつかむようで少しもはっきりしない。
ポローニアス 探りを入れて釣ろうにも、餌が肝心でしてな。イーッヒッヒ! 今日はちょうどお日柄もよく、通りすがりにわが娘を放してみましょう。
クローディアス そうだな、今ならガートルードもその他の者も席を外しておるので、ちょうどいい。
ポローニアス おい、入ってきなさい。
オフィーリア はい。
クローディアス もうすぐ、あの男がこの前を通りかかるところなのだ。
ポローニアス ハムレット殿が気落ちされているようだが、そのことで陛下は心配されているのだぞ。
オフィーリア 出て行って、何を話せばよいのですか。
ポローニアス 何も実のある話などなくてよい、いつもの通りでよいのだ。意味があるような、ないような、そして冷たくし過ぎないよう、後で恨まれると怖いからな。
クローディアス 甘くし過ぎないよう、勘ぐられないようにな。
ポローニアス それ、この廊下の向こう側から来ますぞ。ささ、衝立と、扉の影に隠れて聞いていましょう。
(ハムレットが本を読みながら歩いてくる)
オフィーリア まあ、ハムレット様。ご機嫌はいかがでございましょう。
ハムレット こんなところで、急に現れるとは意外だな。
オフィーリア 明日のお芝居、楽しみにしております。
ハムレット そうそう、明日の打ち合わせをこれからするところだ、そのために少し急いでいるのだが……。気のせいだろうか、まるで待ち伏せされていたかのよう。
オフィーリア そんなことはありません、私もちょうどあちらへ。
ハムレット どうやらすっかり頭の具合がおかしくなっていてな、始終どこかから声が聞こえる。内側から聞こえてくるのか、それとも外側から聞こえてくるのか、それが問題だ。
オフィーリア いったい、どんなお声が?
ハムレット 「あいつの話をこっそり聞いてやろう」「あいつの考えが筒抜けになるような人物を近づけてみよう」とな。
オフィーリア まあ、怖ろしい声。それは、もしかすると気のせいではありませんか。
ハムレット 仕方がないので、本ばかり読んでいる。声も考えも消すために、闇夜の底で消される怖れも消すために。
オフィーリア その本には、どんなことが書いてありますの。
ハムレット そうだな、たとえば次のような……「深い森のみどりにだかれ / 今日も風の唄に しみじみ嘆く / 悲しくて 悲しくて / とてもやりきれない」。
オフィーリア まあ、深い悲しみの底にいらっしゃるのね。
ハムレット 「胸にしみる空のかがやき / 今日も遠くながめ 涙をながす / 悲しくて 悲しくて / とてもやりきれない / このやるせない モヤモヤを / だれかに 告げようか」。
オフィーリア 私でよろしければ、どうぞ告げてください。
ハムレット 「もう手紙を寄越すな」「会うのもいけない」と禁じられているのではなかったか? 壁に耳あり、城壁に目ありのこの城の中で。
オフィーリア ああ、それでもハムレット様のことが心配でなりません。
ハムレット この城は危険すぎるのだ、何を見ても聞いても知らないふりをするのが最善の知恵だとは、いったいこうなる前に知恵の使い道がなかったものか。嘘の使い道には限りがないというのに。
オフィーリア そう、確かにその通り、何が嘘で、誰が嘘つきで、どこからが嘘で、どこまでが嘘なのか、見分けることができませんもの。
ハムレット その甲高い声が頭痛の種なのだ。
オフィーリア 何ですって。
ハムレット その上また「あいつの話をこっそり聞いてやろう」という声が頭に響くぞ。
オフィーリア やはり、ずっと頭の具合がよくならないのね。
ハムレット 大声を出されると、かえって頭痛が酷くなる。そもそもお前のことなど、何とも思っていないのだ、たかが恋の文句の練習台ではないか。それを禁ずるだの、会うなだの、心配だの何だのと。
オフィーリア それが本当の、本当の本当に、心からのお気持ちなのですか。
ハムレット 煩わしい、お前などいっそのこと西天へ行け、天竺へと向かう取経の旅へ出るがよい。馬に乗って、お伴に大猿や大豚を従わせてな。
行く手は厳しいだろうが、この城よりはずっとましだ。
たとえ野垂れ死にしたとて、それでもずっと素晴らしい生き方だったと、微塵の後悔もなく、すがすがしく死んでいけるだろう。
(言い捨てるようにして、ハムレットは去る)
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