第二章 6(続き)

ハムレット  先回りか、明日の芝居は先回りしながら遠回しに、偽りの毒蛇を告発するのだ。こちらは何もかもお見通しなのだと。

孫悟空  変なことを口走って、こっちが怪しまれたらことだぜ。

ハムレット  そこで言葉のない、黙劇を奴の前で披露してみたい。信頼できる者どもには、あらかじめ誓いを立てさせてある。突飛なことが起きようと、戯れ言を口にしようと、見ても聞いても知らぬように振る舞い、口外してもいけないと。

孫悟空  この城にゃ、信頼できる者がそうまで多くいるとは思えないね。王子様だって、森でそう言ってたじゃないか。

ハムレット  初めはこの二人と思っていた、それがいつの間にか三人、五人、八人、と増えているのだ。すれ違いざまに「僭越ながら、私もご協力いたします」と囁く声もある。

孫悟空  そいつらは数に入れておかない方がいいぜ。

ハムレット  それは承知の上、よくよく考えて、遠回しに伝えてある。本当のことは伏せて。

孫悟空  本当も噓も、口は同じように言いふらすからな。「聞き分ける」とは言うが、「言い分ける」ことはありゃしない。

ハムレット  それにしても、何かを命じることのできる力、権力とは恐ろしいものだ。皆が誓いを立てるのだ、私が直々に頼めばなおさらのこと「嫌だ」「断る」とは言えない。

 しかも、それを知りつつ頼んでいる自分とは、まことに図々しい、白々しいもの。「お願いする」とは言いながら、独りよがりの、身分を笠に着ての、わが身かわいさ。

孫悟空  身分なんかなくたって、皆がそんなことばっかりしてらあ。

ハムレット  権力を持つ者も、それに従う者も、一種の芝居のようではないか。悪事を暴こうとするのに、まるで悪事を隠す人間のような要請を、皆々にしているのだ。必死になればなるほど慎重に、臆病になり、悪の色に染められて憂鬱になるばかり。

孫悟空  毎日のように芝居をしてるなら、芝居の中で芝居をしたら本物ってことになっちゃうぜ。

ハムレット  それが目当てなのだ、それこそがただ一縷の望みとすらいえよう。しかし演技の真意とはいつもどこか、通じていないように思われもするのだ。

孫悟空  そう悩むなら、いっそのことみんな忘れて、旅に出てしまえばいいや。

ハムレット  いざとなれば、流浪の王子として、国の再興を目指しながらの旅もまた、良いかもしれない。宿のない荒地を歩くのは骨だが。

孫悟空  心配する必要はないね。雨風をしのぐ小屋なんざ、あっという間に建ててみせらあな。

ハムレット それは頼もしい、それもまた生きる道。明日の昼はどう転ぶことやら分からないが、よろしく頼むぞ。

孫悟空  任せておきなって。

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