第二章 2

 ハムレットが謁見の間の前を通りかかりますと、中からは下品な笑い声と共に、周りの者の拍手が漏れてきます。誰も彼もが愉快そうに手を叩き、大いに盛り上がっているようでした。

 こっそり扉に近づいて耳を澄ませてみますと、

「天使のごォ~とき、わが偶像……」

「美々しき、オッ、フィーリアに……」

「ああ、愛しいオッ、フィ~~リアに……」

「白き胸に……、わが頬を寄せて……」

 何やら覚えのある文句を、わざと誇張して音読している声が漏れてきます。本人がいないのをいいことに、書いていない文句まで勝手に混ぜているのでした。明らかにポローニアスの声で、調子に乗ってあることないことを喋り散らします。

「今日もそろそろ、何とか殿がこのあたりを歩き回る時間でありますぞ。王様とお妃様は、差しさわりのないよう、ご退出された方がよろしいかと」

「よろしく頼んだぞ」

「お願いね」

 そう言って、二人は臣下たちを従えて、謁見の間から奥へと去りました。

 扉に耳を当て、唇を噛んでこらえていたハムレットの顔色は、赤くなったり青ざめたりしましたが、ここで聞き耳を立てているのも不自然に思われてしまいそうです。

 意を決して「たった今、通りがかったばかりだ」という表情で本を読むふりをして入りました。

 早速、気が付いたポローニアスがご機嫌を伺います。

「これはこれは、ハムレット殿下ではありませんか、ご機嫌はいかがでございましょう?」

 はらわたが煮えくり返っているハムレットでしたが、まさかこの場で罵り、痛めつける訳にもいきません。

「ああ、ご機嫌はそうだな、可もなく不可もなく、何でもなし」

「その本、いったい何をお読みで?」

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