第二章 1

  (城内、謁見の間)


クローディアス  ローゼンクランツとギルデンスターンよ、よく来てくれたな。早速だが二人とも名前が長い。言いにくいし覚えるのも面倒だからな、臣下はみな、クローディアスよりも短い名前にするがよいぞ。

ガートルード  そうそう、そうしなさい。

ローゼン はい、仰せの通り、そのように改名いたします。

ギルデン ただちに、即座にいたしますので。

クローディアス  さて、本題はここからなのだがな、君らはハムレットと幼なじみだというではないか。そこでだ、ローゼンとギルデンよ、このところ父王の死があったせいで、ハムレット王子の様子がおかしい。他の理由など、夢にも思いつかないのだ。

ガートルード  そうそう、何も思い当たらないのよ、何もね。

クローディアス  君らはぜひ、ハムレットの傍に行って何か悩みの種がないかどうか、それとなく探ってみてほしいのだ。何か原因が明らかになれば、愛をもって手を差しのべてあげたいと願っておるからな。

ガートルード  王子はお二人のこと、よく話していたし心から信頼していると思うのよね。

ローゼン はい、承知仕りました。さっそく機会を伺って探って参ります。

ギルデン この身を投げ打ち、身を粉にして務めて参ります。

クローディアス  ありがたい、礼を言うぞ。

ガートルード  そうそう、本当にありがたいこと。


  (ローゼンとギルデンは退場、ポローニアスが登場)


ポローニアス  ご機嫌うるわしく、イーッヒッヒッヒ!

クローディアス  どうしたのだ、その老婆のような声は。

ポローニアス  これはその、失礼、昨夜は少し飲み過ぎで声が嗄れましてな、ええ。単刀直入に申しまして、例の気がかりな王子様の件ですが。

クローディアス  いつも話が長いのに、やけに本題に入るのが早いな。

ガートルード   本当に、いつも何のお話だったのか見失いそうになるほど。

ポローニアス  ええ、新しい王様のため、世のため人のため。すっきりと明解に、簡潔にお伝えしますと、ハムレット様は頭のねじが何本か、緩くなられておりまして、また何本かは外れてございます。

クローディアス  やはりそうであったか。

ガートルード   まあ、そうだったの。

ポローニアス  わが娘あてに手紙を何通も送って寄越し、甘い言葉で誘惑しようというお考え。無論のこと、それをお断りするよう、そしてお会いするのも控えるよう、当然ながら私めが厳命しております。

クローディアス  それが原因であったか。

ガートルード   何ということ。

ポローニアス  ここに、これ、この恋文が動かぬ証拠でございます。お読みしますぞ。面白い部分だけをですが……。


  (急に大きな声で、わざとらしく節をつけて)


ポローニアス 「天使のごォ~とき、わが魂の偶像……、おお、おお! こよなく、美々しき! オッ、フィーリアに……、ああ、愛しいオッ、フィ~~リアに……、その妙なる、ん~白き胸に……、わが、頬を寄せてェ~……!」

クローディアス  わかった、わかった、そこまで「演劇を経験しております」風を吹かせて、大げさに大声で朗誦せずともよい。

ガートルード  よくわかりました。

ポローニアス  もちろんこのような世迷言、半分もまともに受け止めてはならぬ、ハムレット様とはそもそも生まれが違うものと、娘にはきつく言いつけてございます。イーッヒッヒッヒ! 

 あ、いやその、あの、かの落ち込みよう、憂鬱の底なし沼に沈み込み、ふらりとどこかへ出かけては、ため息をつきながら戻ってくる、そのような日々の後のお塞ぎよう、続いてのご乱心、みなその源はといえばこの恋文と、娘の態度にあるのでございましょう。

クローディアス 本当にそれだけの原因で? 確かなことか。

ガートルード  あのくらいの年頃だものねえ。

ポローニアス  この私めが、私めが、嘘をついたことなどございましょうか(言いながら、見えないように舌を出す)?

 もし、万が一、嘘ででもあれば、この身にお灸を据えて、舌を引っこ抜き、お好きな部分はどこもきれいに切断し、傷口に辛子でも塗っていただいて、三枚に下ろし、八つ裂きにし、ミンチにして丸めて、壁に投げつけていただいても結構でございますぞ?

クローディアス  わかったわかった、もうよい。

ガートルード   何だか気持ち悪くなってきましたよ。

ポローニアス  何しろ、あのように四六時中、短剣を腰にぶら下げて、うろつきまわっている危険人物。「何とかに刃物」と申すほどの、それはそれはもう、頭の向きが定まらない、ふらつき放題の酔っ払いのようなお方。

クローディアス  それはそうだが、真相を確かめるには何か決め手が必要だろう。

ガートルード   そうよねえ。

ポローニアス  近々、わが娘を城内に放流し、あ奴めがまんまと釣り上げたつもりで釣られて、そこでいったいどのような会話を交わすものか。こっそりと観察いたしましょう。万事はこのポローニアスにお任せください。

クローディアス  わかったわかった。

ガートルード  お魚と釣り人の関係なのね。

ポローニアス  今日もそろそろ、何とか殿がこのあたりを歩き回る時間でありますぞ。王様とお妃様は差しさわりのないよう、ご退出された方がよろしいかと。

クローディアス  よろしく頼んだぞ。

ガートルード  お願いね。

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