第一章 5
静まり返った真夜中のエルシノア城の最上階、夜空には星がちらちらとまたたいています。冷たく鋭い風が、胸壁の通路を吹きすぎていきます。
そこへ現れた影が、今夜は三つ。マーセラス、ホレイショ―、そしてハムレットです。
ハムレットは半信半疑の表情で、
「本当に出るのだろうな?」
ホレイショ―に問いますと、
「確かにこの目で、見届けましたが……、はっきりとお姿は見えますものの、声は届かない。こちらからも、あちらからも。いかにも、それがもどかしいようなお顔でした」
マーセラスは、顔をしかめて震えています。
「寒いのやら、怖いのやら……、自分にはそれがもどかしい」
いきなり大砲の音が二発、夜の城内を揺るがし、闇に轟きました。
ホレイショ―はいぶかしむように、
「あの音は何でしょう、ハムレット様?」
「夜が更けるまで大勢で騒ぎ、王が葡萄酒を飲み干しては、ああやって大砲を打ってみせるのが楽しいらしい。なくてよい、いやむしろ、ない方がよい習慣だが……」
するとそこへ、待ちわびたかのように揺らめきながら、亡霊が現れました。そして、ハムレットだけに向かって「来い」とばかりに手招きします。
「父上よ、デンマークの王、ハムレット王! いったいなぜここに? 何を告げるために? それとも、人心を惑わすため? 謎を投げかけようとして?」
「昨夜と違い、ハムレット様には、や、優しいご様子で……、ど、ど、どこかへお招きされているようで」
「行ってはなりません、ハムレット殿下!」
「いや、ここでは話せないらしいではないか」
「なりません、危険です」
「危険? 今さら、枯葉ひとつの重さもない命。すでに何もかもを失っているようなものだ。たとえあれが悪魔の化身だとしても」
「お止めください!」
「運命が手招きしているようなもの、あのお姿は確かにわが父上。身も心も燃えてくるようだ、これ以上は止めれば斬るぞ」
ハムレットは剣を抜き、
「帰れ!」
と牽制しながら、亡霊を追って階段へと走ってゆきました。
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