♰Chapter 45:悲鳴
神宮寺、水瀬、琴坂の三人は八神たちの隣りの部屋――と言っても一室一室が大部屋のため、そこそこの距離はあるが――を探索していた。
こちらの部屋も間取りは八神たちが探索している部屋と些細な違いはあれど、概ねの造りは同じだ。
「そういえばまだここのモデルとなったお城がどこか言っていませんでしたね」
他愛の雑談を投げ掛けられた水瀬はまず、琴坂の顔を見る。
「……私には分からない。ドイツのお城に似てるかとも思ったけど少し違う気がする」
「琴坂さんはドイツに行ったことがあるんですか?」
「うん。小さい頃は、ドイツで育ったから。こっちに来たのは中学生くらいから」
「私も家族旅行でドイツには行ったことがあります。素敵な場所ですよね。なんというのでしょうか。御伽噺のような、ファンタジーな美しい街並みが広がっていて、そこにいるだけで別世界にいるような楽しみがあります」
琴坂は口元を小さく緩ませる。
自分の育った国や街並みを褒められて気分の悪い人はいない。
「水瀬さんはどうですか?」
「私はルーマニアのお城じゃないかと思っているわ。見た感じだけだとブラン城かしら」
国だけでなく固有名詞まで用いたその答えに神宮寺は目を丸くする。
「正解です。これは驚きましたね。ここは千四百年ごろに築城されたルーマニアのブラン城を再現したものになります。実物を再現したとは言いましたがそれは七割ほどで、三割はオマージュなんですよ。どうして分かったんですか?」
「私は本――特に洋書を読むことが好きだから、ブラム・ストーカーの著作も読んだことがあるの。それをきっかけに少し調べたことがあったのよ」
「なるほど。吸血鬼――いえ屍者の件を知ってから調べたわけではないのですね」
「それは違うわよ。確かに思い出しはしたけどね」
手を動かしながら部屋を物色していく。
口も動いているが手も動いている。
それは神宮寺も例外ではない。
「話は変わるけれど神宮寺さんは宝がどこに眠っているのかは知らないの?」
「毎日ランダムで置かれることになっているので私も把握していないんです。なので少し浮ついているかもしれません。こうして無邪気に宝探しを楽しめる時間というのは貴重ですから」
その言葉にはどこか影が付きまとっていた。
「……優香、神宮寺さん」
そこで琴坂が部屋の外周部を歩き回り、見回して首をかしげる。
「どうかしたの、律?」
「……部屋の間取りに違和感がある。八神くん達の部屋は軽くだけど見た。その隣に位置するのがこの部屋。でも二つの部屋の間には無視できない隙間があると思う。どうしても歩幅が合わない」
器用なことに琴坂は廊下を歩いた歩数と室内の歩数を確認していたらしい。
「隙間……神宮寺さんはこのお城のマップも知らないのよね?」
「うろ覚えでよければ多少は覚えていますよ。ですが記憶の限りではそんな場所は無かったはずですが……」
疑問を抱く神宮寺だったが一つの結論に辿り着く。
「わたしの勘違い、あるいは隠し通路や隠し部屋を後付けした可能性も捨てきれません。しかしどうやってそこに行くのでしょう」
部屋から廊下に出る扉はあっても琴坂の指摘する謎の空間に繋がるような扉は見当たらない。
その時だった。
少女の悲鳴が遠くで響いた。
「……⁉ 姫咲さんの声!」
「私にも聞こえたわ!」
「急いで戻りましょう!」
三人が隣の部屋に辿り着いたとき、そこに部屋は存在しなかった。
「なっ……⁉」
「……!」
「嘘……」
正しくは床上のものが全てなくなっていたというべきか。
部屋の入口から地下を見下ろしてみるが底は見えない。
元々薄暗い地下城ではあるが、さらなる地下があるということだ。
「神宮寺さん、貴方の思い出せる範囲でいいわ。地下まで行ける道はある?」
それに神宮寺は首を横に振る。
「そもそも地下城にさらに地下を作るなんて構想はありませんでした。見えている階層だけが全てで地下なんてあるわけが……!」
そこで水瀬は気付いた。
壁面に鎖が突き刺さっているのだ。
「律、神宮寺さん! 引き上げるのを手伝って!」
通常なら女子三人で八神と姫咲を持ち上げることは不可能だが、水瀬と琴坂は密かに身体能力を向上させる魔法をかける。
やがて鎖が一巻、二巻、三巻……と古城の床にとぐろを巻いていく。
それを繰り返すとようやく人影が見えてきた。
「八神くん! 楓! 聞こえたら返事をして!」
「オレ達は大丈夫だ! そのまま鎖を引っ張り上げてくれ!」
「分かったわ! しっかり掴まっていて!」
やがて二人ともが引き上げられるのだった。
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