第30話 森を突っ切って

オークに感知されない位置で練習をしていたので少し歩いてオークに近づいていきます。

今回はマスターが私のサポートに付く感じで動いてくれるので1人で2匹の相手をする感じです。


木々の隙間からオークが見えたので此処からは小走りで向かっていきます。

オークも気が付いたのか木の間から体を覗けて私を見るとその巨体をさらけ出してきます。

オークが左手で殴ってきますが、それをしゃがむ様にして躱して、メイスで両手で膝の皿の部分に振り下ろしました。

痛みでオークが前のめりに私の方に身を屈めてきたので、一歩後ろに飛ぶようにして下がり今度は頭に向かって両手で振り下ろします。

少し後ろ足が滑るような感覚がありましたが振り下ろしには問題がありませんでした。

まずは1匹止めを刺します。


森の中のこの辺りは木々の隙間が狭いためメイスを左右に振り回すのが難しいです。

どうしても振り下ろす攻撃や突きしかできないなと思って、今度は2匹目の方を見ます。


折れたのか折った木を棍棒の様に両手に持って振り上げて、こっちに向かって来ていました。

私はバックラーの取っ手の部分をしっかりと握りました。

振り下ろしてきたそれを、中腰になるように腰を落としてバックラーで急な角度の

斜めで攻撃を受け流す様にしていきます。

大振りだったため木が大きな音をたて思いっきり地面を叩きました。


すぐに振りかぶることができないので今度はこちらから殴りにいきます。

オークの頭が低い位置にあったため、頭を殴ろうをして一歩バックステップしてさっきと同じように殴ろうとに左足に体重をかけた瞬間に踵が丁度木の根元の部分だったようで思いっきり滑りました。

左足がつるっと前に滑って脚を開く様になったのでバランスが崩れて背中から後ろに倒れました。

背中を木の幹で打ち、滑って落下して尻もちをつきます。

私が思っているよりも遅くに背中を打ち付けた痛みを感じました。

同時に背中を打ったことによる息苦しさも感じます。

とっさに頭を前に曲げて木に打たないように出来たくらいです。

このままじゃ殴られると思ってバックラーを顔の前に構えて防御姿勢を取っていました。


数瞬くらいの時間しか経っていないと思いますが、「ずん」っとオークの巨体が倒れる音がしました。

私は手を退けて前の視界を確保します。

さっきのオークが私の反対側に木のもたれかかる様にして息絶えていました。



安心していると、マスターが右手で私の右手を掴んで引っ張ってくれようとしていました。

さっき身を庇おうとメイスは放していたので私も握り返して引っ張って貰って起き上がります。


「ありがとうございます。気を付けていたのですが失敗してしまいました。」


1匹目は問題なさそうだったのに、2匹目で失敗してしましました。

ちょっと落ち込んで自分の服などに着いた汚れを取り合えず手で払いながらそう言うと、


「最初から上手くなんて出来ないから問題ないよ。」


そう言いながら私にクリーンをかけてくれます。練習の時に付いた汚れも含めて綺麗になります。

その後に斃したオークを手早く収納していきます。


「まぁ一番の目的である森の奥地での戦闘の難しさが分かったってだけで十二分に意味があったと思うし。何事も体験大事だよ本当。」


「そうなのですか…?実際に不思議だったのは、背中を打った瞬間でなく一瞬遅れて痛みを感じたり息苦しくなったりした事ですかね。」


「あれもちゃんと名称があってタキサイキア現象って名前が実はあったりするんだけどね。

名称とか難しいこと置いといて、訓練の時よりも実践の方が知覚認識が上がってるから特に感じたんだろうね。」


私は話を聞きながら聞いたこともない現象名に少し首を傾げながら、落としてしまったメイスを回収します。


「ここから近いところにクサユリ茸が群生しているから採集して進んで行こう」


そう言いながら群生地の方向を指さして案内してくれます。

トコトコと付いて行きますが、私の心は少し腫れません。

やっぱり失敗したって事は尾を引きます。はぁ。



「ここだ」ってマスターが案内してくれた木の裏の根元の部分にクサユリ茸が群生していました。

日の光が遮られている所で50個くらいのキノコが見えます。

私は座り込んで採集用のハサミでキノコの根元より少し上の部分を切って採集していきます。

せっせと切って地面に置いて集めていきます。

こういう何も考えない作業というのは頭が空っぽになって一心不乱にできます。

私は頑張って20個ほどのキノコを切ることができました、

10個ほどのキノコは残しておいて採集を終え出発しました。


私は朝からの採集の感想をぼそっとですが口に出します。

「やっぱりクサユリ茸の採集が一番楽な気がします。」


「クサユリ茸は纏まってるからそう思うけど、そもそも一番見つけ難い素材なんだよ。

ギルドの買取価格も一番高いよ。」


「でも…、マスターってその群生地の場所も分かりますよね?

……だったらやっぱり私には一番向いてる素材かもしれません。」


探すのが難しいと言われても、マスターと一緒に採集するなら精神的に一番楽ですし、数も多く取れるので楽です。

何より達成感が違います。

ジーカンナとビャクイカの枝って基本は1本や2本くらいしか一ヶ所から採れないので手間のわりに大変さの方が勝っている感じを受けます。


「…その群生地や素材の場所、魔物の位置は僕が斥候スカウトとしてスキルを持っているから判るだけで、普通の採集パーティを組んでる人たちはもっと苦労してるからね。」


そう言われるとそうなのかもと思います。

…でもこれってマスターがいないと出来ない事なんでしょうか?

順調に色々な意味で取り込まれている感じですか?



その後は本日の野営地まで歩きながらジーカンナとビャクイカを探しましたが、3本見つけることが出来ただけでした。

やっぱり沢山採集できる方が楽しいのでクサユリ茸の方がいいです。



森の奥にも関わらず少し開けた場所にテントを取り出して設置していきます。

テントの中に入るとやっと一息付けます。

ブーツを脱ぐと今日はブーツの手入れから始めます。

今日転んだりしたので、ブーツ自体に破損があったり縫っている糸が切れていないかもチェニックしながら布で擦って汚れを落として、皮を保護するために油を塗っていきます。

集中してしていればいい匂いがしてご飯の時間がきました。


チェインシャツを着たままだったので鎧架けに装備を脱いで架けてから、お風呂場にある洗面台で石鹸で手を洗ってうがいをしてから食卓につきます。

他所では手を洗ったりすることに神経質に言われなかったのですが、

マスターはかなりこの部分に拘りが強いので、事ある毎に抜き打ちでのチェックをしてきます。

この部分に関してはかなり変な人だと思っています。できるならと鼻の中も水で洗うとか言われた時には流石に全力で拒否しました。

あんな痛いことは出来ません。


兎も角食卓に着くと今日は蒸し野菜のサラダと真っ赤なスープとふわっとロールパンでした。

この前食べた真っ赤な料理は少し辛かったはずです。

それよりも表面色合いが本当の意味で真っ赤です。

恐る恐るマスターに尋ねます。


「あのこれって前食べた辛い料理ですか?」


「似たようなものだけど、この後お風呂にも入るから汗をかいても問題ないと思ったし、

今日の様な少し湿度が高い場所で過ごしてると汗をかいた方が気分的にもいいと思って試作品として作ったんだ。」


「いえ、そういう意味ではなくて色が真っ赤なので、かなり辛いのではないかと思ったのですけど…。」


「あぁ~。見た目の赤さほど辛くはないよ。前買ったレッドペッパーを使ってるけど、量はかなり抑えてるし。

最後に色は赤いけど辛くないラー油を入れたから見た目的には辛そうに見える?…かな?

でも味を利いてそんなに辛くない事は確かめてるから。」


「だったら大丈夫?」


今まで変な味の料理は出されたことがないのですが、一様警戒はしておきます。


「本当は水煮肉片って料理を作ろうと思ってたけど、調味料が圧倒的に足りなくて。

なんちゃって風の水煮肉片になったから見た目だけ近づけようとしたんだよ。」


「あの…水煮っていいました?

これ赤いですし、私が思ってる水煮と違うような気がしますけど…。」


「いや、料理名が水煮肉片スイヂューロウピェンってだけだから。

ちゃんと水で肉は煮てるから。」


いつもの様にお祈りをしてからマスターが言う水煮のお肉を恐る恐る食べてみます。

味わってみると、この前の魚料理よりも辛くないかもしれません。

ついでにスープも飲んでみます。

こちらは味が複雑になっているように感じました。


「確かに見た目ほど辛くないですね。あの魚料理よりも辛くないかもしれません。」


「やぁ良かった。辛さ的にはもう少し辛い方がいい?」


「う~ん、私はあまり辛い物を食べたことがないのでこの位の辛さの方がいいかもしれません。」


「なるほど、なるほど。もし辛かった時のために今日は温野菜のサラダで箸休めできるようにしてたけど良かった。」


今日の温野菜のサラダは辛かった時の為に作ってくれていたみたいですね。

でもスープは少し油っこい感じもするので、あっさりした料理でよかったとは思います。


「スープは少し油っこいところもあるので、あっさりしているから良いと思いますよ。」


そう感想を述べながら食べます。


「そう言えばなんで今日はこんな珍しい料理にしたんですか?」


「いや、今日サーニャが失敗したって落ち込んでたから、そういう時は後悔とか反省なんて汗と一緒に流してしまった方がいいんじゃないかと思ってね。」


なるほど、マスターなりに気を使ってくれていたようです。

あのあとクサユリ茸取りをしてましたし、テントで一息ついてからはブーツの手入れで、そんな事を考える時間はなかったですが、1人でお風呂とか入っていると思い出してしまうと思います。


「…気の使い方が少し分かりづらいです。でもそうですね、1人であれこれ考えるより言われた方がすっきりして良かったのかもしれません。」


「似たようなシチュエーションは今後あるかもしれないけど、全く同じことなんて起きないから。

こういう事に今後は注意しようって思ったら忘れて良いと思うんだよね。」


「そんなものでしょうか?」


「失敗して記憶に残ってる注意しようって部分は年月が経っても忘れ難いけど、どうせ考えて注意しようって思ったことって忘れるだろうし。

僕は忘れる自信があるね。」


「それは自信を持って言う事ですか?」


「仕方ないじゃない、忘れちゃうから。」


この位気楽に考えた方がいいのだろうかなと思わせる話術を聞きながらご飯を食べ終わります。

少し汗ばんでお風呂に入りたいですが、先に聞きたいことを聞いておかないとダメな気がして質問します。


「あの、そう言えば今はどこへいるんですか?

私現在地というかどういう風に進んでいるかもよく分かってないのですが。」


「えっとそうだね。ちょっと待ってて。」


そう言いながら例のギルドで書き写した地図を持ってきました。


「今いるのが街道の南側の森の大体この辺り」


机の上に広げた地図で指差して今のいる位置を教えてくれます。

ここからこういう感じでここの街に行こうと思ってる訳だ。

ルート自体は決まっているのか地図を指でなぞりながら街まで動かしていきました。


「ルートも決まっているなら、安心しました。

今日オーク2匹倒しましたけど森の奥ってこんなに魔物がいないのですが?」


「そんな事はないよ。適当にいるはずなのにいないから逆に怪しんでいるくらいで。とは言えサーニャが気にする部分じゃないかな。」


そこの部分はお任せして大丈夫というか、お任せする部分なので私は余計な口出しなんかはするつもりもありません。

今日擦ったスカプラリオに綻びがないかとかミスリルチェインシャツなどの武具のメンテナンスをしてからお風呂へ入りました。

自分では気づいてない打ち身があったので、自分にヒールをかけてゆっくりとお風呂に入ってからその日は寝ました。

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