第24話 私の選択、私の覚悟
色々な依頼を受けている内に季節が変わり初秋の月に入りました。
小さな商店の仕入れの護衛任務のついで村々のオークを討伐クエストをこなしたり。
ウルフやブラッドバッファローもかなりの数を納品しました。
そしていつものように仕事の翌日の休日をゆったりと過ごしていると、マスターから今後の計画についての話があると言われました。
マスターと出会って3ヶ月しか経ってないのというのにかなり長く一緒に居た感じを受けます。
机の上に地図を広げて説明をしています。
地図と言ってもざっくりとした形と大きな都市のみが書いてあります。
「計画というか、予定なんだけど。
まずサーニャの移動をおさらいすると、大陸中央のユーマロス皇国からこの河を流されて東にあるバイロン大森林に流されて盗賊と言うか山賊に捉えられて売られたってことだけど、多分このアーツェスト帝国の北部のこの辺りの街で売られて南側に進みながら色々な奴隷商人に売られていったと思う。
で、ヒッペアストルムの北東のマトースツゥヤの近くで僕と出会ってそこから南のマトースツゥヤに居る訳だ。」
指で私が移動してきたと思われるルートを説明してくれます。
「それでここからユーマロス行くルートなんだけど、
1つ目は北西へ行って山脈越えをしてトルバチェス帝国へ行き、ユーマロスへ行くルート。
2つ目は、南西へ行きイダン共和国を経由して西に進み、トルバチェス帝国に入ってそこからユーマロスへ行くルートがある。」
そう言って1つ目と2つ目の予定ルートを指さしながらなぞっていきます。
私は移動するルートを確認しながら説明を受けます。
「1つ目のルートの山脈越えはレッドワイバーン等の竜種と出会う可能性が高いから避けたいと思う。
道もないような場所だし。
竜はまだいいけど龍の守る場所に入ってしまうとかなりと言うか、面倒くさすぎるから会いたくない。」
マスターが腕を組みながら難しそうな顔で言います。
竜は魔素溜まりから生み出される魔物になります。
竜とは違い龍は世界に5種類しかいません。
白龍、青龍、赤龍、緑龍、黄龍になります。
女神達が自身の手で作りこの世界を守護するよう指名を与えられたとされています。魔素溜まりから人の手に負えない魔物が現れた際に魔物を殺す存在です。
普段は眠っているとも見えないほど高く空を飛び世界を見回っているとも言われており、
自分たちの禁則地としている場所に立ち入られるのを嫌って、禁を犯した者は等しく死ぬと言われています。
確かに1つ目のルートは危険度という意味で避けるのは分かります。
私は納得した感じで「確かに避けた方がいいですね」と返事をします。
「そうすると、必然的に南回りの2つ目のルートになってしまう。
安全度は高いけど遠回りになるから日数がかかってしまうのが難点かな。
ふた月ほどは余計に掛かると思う。」
ですが、確実性を取るならこちらのルートでしょう。
「サーニャがどうしても急ぐと言うなら1つ目のルートを使うのもありだと思うけど、どっちがいい?」
マスターが依頼の件をきっちりと考えてくれていたのが分かったので多少周り道をしても確実にユーマロスに向かうのがよいと思いました。
「2つ目の南回りで大丈夫です。」
「そうすると、出発は早めがいいから明日街に行って必要な品を買ってから出発しようか。
長距離移動になるから、準備も必要だし。
何より季節が変わってきてるからね。」
「明日買い物をしたら移動ですか!?」
私は急に移動になるので吃驚しました。
「サーニャのレベルも上がって必要なスキルも最低限押さえるべきところが揃ったからね。」
「それは…私に合わせて移動をしていなかったという事ですか?」
「最悪の事態が死ぬことだから、それを避けて
今なら道中で僕が想定する一番酷い事態が起きても大丈夫だと思う。
それにある程度は路銀の心配がないというのもある。」
死ぬような一番最悪な想定ってなんなのかが気になりますが。
もしかして…1つ目のルートで無理に向かう事を考えていたのかもしれません。
そう考えると希望を聞こうとしてくれてたんだと思えます。
確実にユーマロスに帰って自分が何で殺されそうになったのかを調べて貰える事に嬉しくなります。
そうして慌ただしく長期的な旅の準備を始めました。
その日の内に必要なもののリストを作ります。
特に女性が必要なものはマスターは分からないので自分で必要だと思う品を書き込んでいきます。
普段使っているものでマスターが錬金で作らないとダメなものもあります。
錬金作業は追々でも良いとしても材料だけは買っておかないといけないのでリストに書き忘れがないかを2度3度と確かめました。
次の日にヒッペアストルムで旅立つ前の最後の買い物をしていきます。
リストの上から買ったものは横線を引いて消していきます。
リストの買い物が全て終了すると野菜などの品を買っていきます。
お肉は在庫がかなりあるので大丈夫ですが新鮮な野菜は必要です。
そうして全て買い物が終わると買い忘れがないかもう1度チェックをしてから南西へ向けて出発します。
イダン共和国へ行くのに速くいくためには、半月ほど南西に行ったオリージャあるペレレンカ川を下る船に乗って下って行き、途中のホーアンで降りるのが歩くよりも早いです。
イダン共和国までは寄り道をせずに行くとマスターが言っていたので主要街道を進んで行きます。途中で商団などと何度かすれ違いました。
しかし途中で街はに寄らずに旅を急ぐようにし、道中は魔獣が絡んできた場合のみ戦闘を行い進んで行きます。
明日オリージャに着くという場所まで来て、いつもの様にテントで過ごします。
私はずっと考えていたことをマスターに話すために夕食の後に時間を取ってほしい旨を伝えました。
特に問題なく了承されて時間を取ってくれます。
夕食を取った後で
1口2口、口をつけてから話を始めます。
「それで話って何かな?」
「私の気持ちや考えていることをマスターに一度きっちりと話をしたいと思いました。少し支離滅裂なところもあるかもしれませんが聞いて欲しいです。」
「ふむ、なるほど。途中で何も言わずに聞くよ。」
「ありがとうございます。…まず今最終的にユーマロスに行くために移動をしています。
もちろん私達が神名契約までした私からの依頼をマスターが調べてくれるためだという事は理解しています。」
まずきっちりと状況を擦り合わせておきます。
「依頼が失敗した時に私に二度と関わらないという条件があったと思いますが、この数ヵ月一緒に過ごしてみて私を手放す気がないと感じています。」
結構
何よりパーティだけの秘密だと思われることも教えてくれています。
「そこで私が不安になったのは、マスターがユーマロスについて色々な事を調べ終わるまでに、私がマスターを愛せなかった場合の罰則がいつから有効になるかです。
マスターが調べ終わった瞬間なのか、私に報告をした瞬間なのか、それとも数日後なのか、数ヵ月くらい猶予があるのか。」
罰則の発動については何時というのは決めてありません。
「その場合、女神の罰により私達ユーマロス皇家は自分で選んだ人ではなく、知らない人の子を身籠らなければなりません。」
唇を噛み締めるように言います。お母様は違いましたが、皇家とは言え政略的な婚姻の部分は否定できませんが、基本的に候補が数名は用意されてお茶会などを通して人柄をある程度は知ったうえで私達が選ぶことができます。
しかし女神の罰が行使された後はその選択肢もなくなるという事です。
「私は自分で選ぶことが出来ないという事に物凄い恐怖を感じました。
私の家族や子孫の立場が自分だった場合を想像したら耐えられない程の不安で心が潰れそうになります。」
マスターは私を見つめたまま黙って話を聞いてくれています。
「ここで話は飛びますが、私がマスターと出会ったマーグリッド奴隷商会で、マスターは私に聞いてきました『高級娼館へ売られるか、自分の奴隷として買われるか選べ』と。」
正確に言われた言葉と同じか覚えていませんが意味合いとしては合っていると思っています。
「私はたまたま処女で高く売れた為に運よくそれまで乱暴をされませんでしたが、娼館へ行くと違います。知らない人に買われ、日に何人もの人を相手にする事もあります。
私はそれが嫌でした。自分で相手さえ決めることが出来ずに体を許すしかない状況というのが。
だからマスター1人の相手だけで済むなら、そちらの方がまだ良いと思ったのでマスターに買われる選択をしました。
もちろんそこには好意と言うものは全くありませんでした。」
上手く説明できているかは分かりませんが出来る限りわかり易く言っています。
言いながら自分の感情を整理している部分もあります。
「この数ヶ月ずっとマスターと一緒に過ごして来ましたが、外面的な容姿に関してやっぱり好意を持つこと、好きになるという事が出来ないと思いました。」
マスターが「うっ」っと右手で胸を押さえて左手を上に伸ばしてテーブルにばたっと倒れました。ショックを受けている表現のようです。
「判っているんだ。モテる容姿じゃ無いって。自分で決めてるから判ってはいるけど言われるとダメージという現実が。」とおぅおぅおぅと泣きまねの様な事をしています。
でも正直に言っておかないとダメだと思っています。
背は私より少し低いくらいですけどガニ股で歩くので、普段は私が見下ろす様な感じになっています。
寸胴でお多福顔で口が横に大きいですし、その割に目はまん丸みたいな丸目です。
私の髪型には拘りを見せるのに自分の髪型は伸びると適当に手に持ってナイフで切っています。その為マッシュルームみたいな髪型になっていますし。
普段は飛行帽と呼んでいる皮の帽子をかぶっているので目立たないですが…。
いい意味で言えば愛嬌がある顔や姿だと思いますが、私の好みかと言われると…。
「でもマスターは私への依頼達成時の報酬として”死ぬまでずっと愛し続けること”という条件を付けていました。
なので私は恋愛小説の様に燃え盛る恋心に油を注いでさらに燃え上がるような好きという感情ではなく、
竈にある種火のように弱くてもずっと燃え続けて消して消えることがないじんわりとした感情で好きになって愛していきたいと思っています。
マスターは私のこの考えをどう思いますか?」
「…サーニャが僕を裏切らずに、好意をもってくれるのであれば。その考えでもいいと思うよ。」
マスターから了承を貰うことができたので一安心です。
ここからは自分で自分の心を騙すことになったとしても。
思い込むことで自分の感情を騙してでも愛していくために言葉を紡いでいきます。
「容姿以外だと好ましいと思うところは結構ありますよ。
錬金術でポーション等を作ったりすることも出来るので、この先もし冒険者をやめないといけない状況になっても、お金を稼ぐ手段を持ってますし。
美味しい料理を作ってくれますし。
マッサージも上手いですし。あっこれでもお店が開けると思います。
それに……。」
マスターの良いところを思い出しながら1つ1つ指折りあげていきます。
「現金に思うかもしれませんが…その…将来子供も…欲しいって事ですから…。
そうすると育てるのに安定した収入を考えてしまう…というのはあると思いますし…。」
ちょっと子供ができるという事を想像してしまい、恥ずかしくなってしまいます。
思った理由もしっかり説明しておかないと誤解を招くのが一番よくありません。
冒険者になって護衛依頼で村々を回って回復魔法の熟練度稼ぎの時に、村で恋愛結婚ではなく、村同士のやり取りとして男女の交換で嫁に来たり。婿に来たりした人に話を聞いてどうやって愛情を育んだのか
街だと人口が多いからか恋愛結婚者が圧倒的に多かったので参考になる意見が少なかったのです。
その中で愛する努力が必要だと言われました
・良い点を見つける努力をする
・自分の嫌いな部分を相手に言って貰うこと、逆に自分が嫌いな点ははっきりと相手に伝えてみる。癖だった場合気付いてない可能性がある。
・他愛ない会話で幸せを感じること
・夜の営みの相性
等々…
「それで…あの…報酬の前払いではないですけど……。」
歯切れが悪い感じになっていますが、これは恥ずかしさと言うのに覚悟がいるためです。
「…愛を育むためにマスターが前に言っていた夜の営みを今日晩から始めたいと思います。」
マスターがこれを予想できていなかったのか〇型に口をあけてぽかんとしています。
「え?いや…確かに前に言ったけど?」
「これが私の覚悟です。」
私はきっぱりと言い切ります。
「そりゃぁ…サーニャがいいならいいけど。」
「ただ最初は優しくして貰えると嬉しいです…。」
色々聞いたので
そうして長い話し合いは終わり、
私はいつもより念入りに体を綺麗にしました。
こうして私は初めての睦事を終えたのです。
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