第19話 盗賊の引き渡しとランクアップ

夜捕虜にしている盗賊は全く逃げ出したりしませんでした。

外で寝袋で半分寝ている目覚めているのかわからない中間の意識でいました。

朝私達はご飯を食べて盗賊に昨晩と同じく塩を入れた水を与えます。

おしっこを垂れ流しているので少し臭います。

そしてマスターが、昨日馬車に引きずられていた盗賊に、

「今日も昨日の様に地面と擦りあいながら移動するか?」

と聞いています。

あまり寝てもなさそうなその盗賊は「嫌です。歩かせてください。」と言います。

「昨日は歩きたくないから逃げたんだろ?、あれは間違っていました。」

「ふ~んそうか。」そう言って今度は頭目に向かって言います。

「今日はお前が馬車に引きずられる番だな。」

「あたしはあんたに昨日アジトの位置も隠している物も全部喋ったじゃないか。

これ以上何をさせようというんだよぉ」そう言って泣き始めます。

あ~これは私が見ていないところで何かやっているというのを感じます。

「今日昼過ぎにはヒッペアストルムに着くから、お前たちは憲兵に引き渡された後に罪状によって奴隷契約で労役何十年とか縛られるわけだが。それなのに歩いていきたいの?」

盗賊全員を見渡して言います。

「死にたいってやつは殺してやるのが優しさだ、最終的に死ねるから途中の色々な実験的な解体に協力してくれる奴はいないの?」

盗賊は全員頭をこちらに向けることなく無言です。

こんな事言われたら私なんて恐ろしさで腰が抜けると思います。

マスターがわざと言う言う感じで言ってるのでパフォーマンスだと思いますが。


「しょうがない馬の苦労もあるから全員歩くって事でいいか。」

わざとらしいため息とともに私の耳に小声で「骨折の盗賊はハイヒールをかけてやって」言われます。


出発の為にマスターが昨日の首が締まる結び方で結んでいます。

骨折させてた2人を治すとなんか泣かれました。

どういう意味か分からないのが怖いです。感極まったのでしょうか。

全員結んで盗賊15人の列で出発します。


前はジャックさんと私が歩いていて最後尾にマスターが歩いています。

盗賊を連ねて歩いているのでジャックさんがバルドー商店ではなくどこかの奴隷商のような感じに近い気がしますよと言っています。

今日は歩いていて盗賊が何もしゃべらず黙々とあるいています。昨日は途中でも色々恨み言や文句ばかり言っていたのに大違いです。


そうして進んで街まであと1鐘分くらいの所で同業の冒険者と出会いました。

ここでマスターが、悪いけど先に走って帰ってヒッペアストルムの衛兵隊に伝えて欲しいと要望します。その場で銀貨を前払い2枚しています。


盗賊も抵抗をあきらめたのか元気がなさそうなので私も後ろに下がって少しマスターと話をしました。

「朝のパフォーマンス的な脅しはいりましたか?」

「鋭いね、昨日うつ伏せと脚の自由が利かない、そんな状態でも逃げ出せないか色々やってたはずなんだ。

特に手は親指だけ不自由であとは普通なんだから外そうとしたり無駄な努力をかなりしたと思う。

そうしうて硬い地面での睡眠だ。

盗賊は満足に眠ることもできなかった。

ここまでが朝の状態だ。」

「あの姿勢って無駄に体力を奪うための姿勢だったのですね。」

「そして昨日のように馬で引いたりするの拷問を俺は平気だからやってみろよとか言えるような奴は残ってなかったんだ。

極めつけは頭目だな。昨日完全に心を折ったから今日はもう大人しいものだよ。

その状態でいう事に逆らったら死ぬまで拷問してやるから誰か出てこいって言われて誰が立候補なんてするかって話だよ。」

「普通の神経ならしませんね。」

「今日は何もするつもりなかったよ。本当に。到着時間が遅れる方が嫌だったからね。」

「ところで昨日心を折ったというのは?」

「聞かない方がいいと思うけど…・。」

「パーティのリーダーとして知っておく責任があると思います。」

「…ふむ、アジトに言って粗方回収しれもまだ隠し箱がある気配がしたんだ。

それを聞いても知らない、案内したじゃないかとかいうから。」

指の爪の間に鉄串をさして、それでも言わなさそうだったから

耳の中にその鉄串を回転させて入れるオモチャで入れてたら途中で観念して全て喋ったよ。」

「オモチャって事は実際は入らないのですか?」

「実演で回して1回転するとカチって音がするたびに鉄串が中に入っていく様子を見せてから始めたら、20回転くらいで降参してたね。」

「あの…えげつないですね。」

「彼奴はサーニャを無茶苦茶にしようとした事が僕の中では許せないから、そんなに酷くもなにもないぞ。」

「やっぱりそれは許してなかったのですね。」

「僕のお気に入りで育成までして可愛がっているのに、慰み者にするとか…。

頭目じゃなきゃ普通に殺してたよ。」

「そうなんですね。」


「サーニャもその内嫌でも人を殺さないといけない時が来る。

その時まではサーニャはそんな感じのぬるさでいいんじゃない?」


「今はまだ分からない感情や状況だと思いますが、その時までに感情の処理ができるようになっていればと思います。

…ちなみにあんな事を見たのにあまり動揺がないんですが、マスター何かしましたか?」

「人によっては寝れなくなったりするらしいからこっそり精神安定のスキルをLv10で取ってたんだ…。」

「それはありがとうございます。多分眠れなくなるくらい衝撃を受けていましたから。」

そうして一呼吸置いて。

「ただこれが私を心配してという事で、ちゃんと聞いて、不安そうに見えるからスキルを取ってもいい?と聞いてくれたら満点でした。」

「なるほどね~」

「私の場合はその方が嬉しかったというだけです。覚えておいて貰えると嬉しいです。」



そう言って会話が終わりましたが。精神安定Lv10ってもしかして血を浴びてもあまり動揺しなくなったりするのではないでしょうか?

冒険者なら返り血を浴びたりするので良いとは思います。

…やっぱりマスターは感情論でなく理性的に話をしたり持っていった方が良いみたいです。



そうしてヒッペアストルムから護送用の馬車が来てそちらに乗せ換えたので

盗賊輸送の任務は1鐘分だけでした。

あと半鐘あれば街に着きます。

10日間離れていたので今日はのんびり過ごせるな~と考えていました。

そこにマスターから

「もう気が抜けてるかもしれないけど、護衛任務は目的地に着くまで。

それに盗賊の金なんかの山分けが残ってるし。先に連れて行ってもらった盗賊の売却価格が出ていたなら妥当かどうか判断して報酬の受け取りサインもいる。

クエストの達成以来の報告、別クエストの完了処理とかやることが山積みになってるぞ。」

そう言われてパーティリーダーってこんな仕事もあるのかと気を引き締めます。




そうして半鐘後にヒッペアストルムに到着しました。

門の所で街に入るためのにギルドカードを提示し、馬車は通行税を払っています。

その手続きの序に、先ほどの盗賊の処遇を聞きました。

そうすると門番の衛兵が書類を持ってきて、死刑以外は犯罪奴隷とするので入金先のパーティ名若しくは個人名を記載するように促されます。

パーティ名を記載してから街へ入り、先に馬車置き場と馬小屋の所へ行き馬車を置き、馬を繋いで世話をお願いします。

そうしてバルドー商店の倉庫兼住居へ行きます。もちろん荷物はマスターがバッグに入れていました。

倉庫部分に入るとジャックさんの指示で荷物を置いていきます。

全部置き終わるとマスターが盗賊のため込んでたお金を取り出しました。

私は全員の目の前でお金を全部取り出して数えます。

全部で金貨30枚と銀貨42枚、銅貨147枚ありました。これを2等分として目の前で分けます。端数の銅貨1枚はこちらが貰いました。

「他の物に関してはどうしますか?」

私はジャックさんへ聞きます。

「こちらとしてはお金だけで十分ですよ。他の物はどうぞ。」

「先ほど衛兵の言っていた盗賊のお金も半分は商業ギルドのバルドー商店宛に届けますので後日確認してください。」

「ありがとうございます。普通は我々商人にお金を渡す冒険者は皆無なので本当に有難いです。」

そう言ってクエスト依頼書の評価を最良にして追加報酬を渡す様に書いてくれました。

私は依頼書を受け取りながら

「また機会がありましたらよろしくお願いします。」

「こちらこそ」

と言って別れます。


そうして冒険者ギルドへ行きました。

道中マスターになんで盗賊のため込んでたお金や奴隷とした際のお金を山分けにしたのか理由を聞きました。山分けはマスターの指示でしたが普通なら冒険者が多く取ると聞いていましたから。

「ああいう時に、少なく渡すと後から不満を持つ人間が一定数いるんだよ。

今回だと自分も歩いて盗賊を馬車に括りつけて運ぶというリスク襲われる危険があったから、表面はどうあれ内心は不満があったと思う。

だが、盗賊の溜めてたお金は半分、盗賊を売り飛ばしたお金も半分。

傍目に見ると公平に冒険者と商会で分けてるだろ?

彼は何もせずに、ただ怖い思いをしただけで金貨15枚以上貰ったわけだ。

商人は儲けが一番だから不満も何もお金を貰った瞬間吹き飛んでるさ。」

「前に言ってた損して得取れってことですか?」

「その通り、さらにさっき依頼書の評価も最良で追加報酬もくれるわけだ。

向こうからしたら只で金貨15枚貰ったから還元したって事もあるだろうけど。

それ以上にこっちのパーティ評価が上がるのが大きい。

それに人は良い目にあうと、それを他人に話さないではいられないだろうから、この事を奥さんにも言うだろうし、他の商人にも言うだろう。

その際絶対に大げさに言ってしまうのが商人の性ってやつさ。

最初の計画だと水樽を運んでくれるという事を口コミで広めるつもりだったんだ。

でも盗賊の件があったから更に噂は広まるだろう。

これで2人パーティにも関わらず護衛依頼が格段に受けやすくなる。宣伝費と考えれば安いもんだろ?自分のお金は全然使わないんだから。」

「そう考えると、盗賊とは出会う予定がなかった訳ですから、

山分けにしたところで私達の懐が潤うことは変わらないですものね。」


そうして冒険者ギルドに着くとクエストカウンターへ行き依頼が完了しているクエスト3個分の処理をお願いします。報酬は現金で受け取ることも伝えます。

処理をしてもらいながら、盗賊を捕えて来たのでそれのお金を届けて貰える旨を伝えます。

そうして商業ギルドへ入金をお願いしたい旨をいうと、入金手続きの書類を渡されました。

そこへ商業ギルドのバルドー商店へ半分の金額を入金して貰えるように記入します。端数はこちらで貰います。

ギルド職員がクエスト完了の処理が終わって報酬を持ってやってきました。

「金貨1枚の報酬を追加するようにかいてありましので」と言います。

奮発してますね…と思いながら先ほどの山分けの金額を考えるとそんなものかなと思いました。

お金はマスターが全部回収しています。

そう言えばサーニャさんはゴブリンの討伐で実績が溜まっているのでランクアップが可能ですがどうします?

「お願いします。」

加工代の上に載せて魔力を流して七芒星を打刻して貰います。

これで2スターにランクアップしました。

受けられるクエストの幅が広がるのはいいですね。

ただその前に明日から5日間連続で休暇を取ります。そう休みです。のんびりゆっくりしたいです。


冒険者ギルドをでると私はマスターにお願いをしてみます。

「あの…マスターお願いなんですけど、…明日からもテントで生活しませんか?」

「高い物や甘い物食べたいとかだと思ったら予想が外れた!」と驚いています。

私は食いしん坊じゃないと思うのですけれど。

「別にいいよ。ちょっと人通りが少ないところに野営するような感じにしようか。

食材と水を補充しよう。」


そう言って市場に行き香辛料、野菜、お肉、塩を買います。

そうして井戸へ行き、お金を払って水を汲ませてもらいます。

宿などを利用せずに水だけ欲しい場合は井戸の使用料金が必要なんですね。

普通は商隊が補充するので水樽単位でお金を払うことになります。


買い物が終わったらまた街の外へ出ていき人気ひとけがない場所にテントを設営して貰います。

実は私気付いてしまったんです。

宿屋のベッドよりテントのベッドの方が格段に寝心地が良いという事実に。

そして浸かれるお風呂があるので、お湯で体を拭くよりも良いという事に。

問題は私は食事が全く作れないので全部マスターに作って貰わないといけないって事だけでした。

マスターは嬉しそうに、凝った煮込み料理を作るぞ~と言っていたので問題なさそうです。

その日の晩はゆっくり入浴してから休みました。

明日から連休です、何をしましょうか。

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