第18話 盗賊は湧いてくるものらしいです
精神的に疲れた次の日、ゆっくりめに出発するので気分を変えたりするのにちょうどいいです。
色々衝撃的なことが判明してしまいましたが、強くなる分には良いと考えましょう冒険者的に。
出発してからは御者をしているジャックさんから色々と聞かれました。
昨日ハイヒールを使ったことを特に聞かれましたが、マスターと昨晩打ち合わせを行っていた修行を真摯にしていたところ最近になって使えるようになった。
使えるけれど1日に1回くらい使うとかなり疲れてしまうので大変なんです。
という事を言います。
神聖魔法が使える人間が冒険者としてやっているのは珍しいから興味は尽きないようです。
そんな感じで4つ目の村まで食事時間などは質問をされて、答えていました。
そんな感じで旅を続け4つ目の村に到着しました。
フォレストウルフの襲撃も数回ありましたが、全く問題になりませんでした。
4つ目の村でも村長に話をして臨時の奉仕活動を行っていました。
集会場のような神殿の前で調子が悪い方にヒール等をかけるだけです。
この村では特に問題もなく珍しさも手伝って殆どの方が見に来ていました。
子供が転んで作った擦り傷も直していたので皆好意的でした。
依頼の最後の村を出発すれば明日の昼過ぎにはヒッペアストルムに帰れます。
何事もないといいなぁと思いながら村を出発します。
ジャックさんはいつもよりかなり多く仕入れができたことにホクホクした感じです。
仕入れが多すぎて馬に負担をかけないようにと私達と一緒に歩いて移動しました。
3の鐘でお昼を食べて馬を休憩させて出発し少し経つと、マスターが私に寄って来て言いました。
「どうも500ツリール先に盗賊が15人いるけどどうする?」
「今日朝何事もないようにとお祈りしたのですが…。」
「それはフラグってやつだな。起きて欲しくないことほど起きる確率があがる。」
「私盗賊や山賊にはいい思い出がないのですがどうしたら良いと思いますか?」
「サーニャが倒すっていうなら倒すし、迂回するの手だけどあまり好ましくはないな。ちなみに山賊も盗賊の一部だと思うぞ。
あれは魔物や魔獣と一緒でいくらでも湧いてくる害虫…、いや災害の一種だ。」
害虫は分からないので分かるように言い換えてくれたみたいです。
「この世界虫がいないからな~。分かるはずがない…。
まぁそんな事より盗賊だ。どうする?」
「15人に勝てますか?」
「余裕だな。というか盗賊は捕まえて生きて街で引き渡せば奴隷として売却したお金が入るから是非捕まえたい。」
「…作戦を立てて、ジャックさんにも相談しましょう。」
「作戦はサーニャが馬車と一緒に進んで話し合いをする感じで出来るだけ時間稼ぎをしている間に。僕が伏兵を気絶させて、本体の後ろから襲い掛かる感じかな。
多分威圧で10人くらいと対峙することになると思う。」
「…怖いですけど、時間稼ぎだけなら出来ると思います。」
ジャックさんに言って馬車を止めて相談を始めます。
「ここから約500ツリールの辺りに15人の盗賊がいます。私達はこれを斃したいと考えていますがジャックさんの意見も聞かせて貰っても良いですか?」
「15人もいるのは…、流石に2人だと厳しい…と思いますが?」
すかさずマスターが畳み掛ける様に喋ります。
「15人など物の数ではないので大丈夫です。作戦もありますから。」
「具体的にはどうするんですか?」
「ジャックさんとリーダーであるサーニャがこのまま進んで盗賊と対峙します。
役割として口上を述べたり、相手の話を聞いたりして時間稼ぎをします。
その間に自分が付近に伏せている盗賊を狩って後ろから強襲します。」
「そう上手くいきますかね?」
「待ち伏せをされていると思われるところは左側は森がなく、右側のみに森があるところですから左右からの挟撃でないので隠れている敵も楽に倒せます。」
「この先の…あの辺りですか。盗賊がいるという情報は回ってなかったのですが…。」
「他所から来たのかもしれません。計画的にはこんな感じですがどうしますか?
リーダーのサーニャは強いですよ。馬車と馬、ジャックさんを守りながら時間稼ぎは十二分にできる実力があります。」
「そこまで言われるのでしたら……やりましょう。」
ハイヒールを使えるのを知られていますからね。
マスターが変に持ち上げるのはやめて欲しいです。恥ずかしいです。
「あと殺してない盗賊はこれで手を拘束するからサーニャは見て覚えて。」
マスターが手枷より小型の手枷みたいなものをだしてきます。
「この円の部分が閉まる様になってる親指を拘束する手錠なんだ」
一度締まるとギザギザ部分が返しになってて外れないんだ。
締めるのは親指の関節の下側。こんな感じになるから。」
そう言って自分の片手で実演してくれます。
私も渡されて試してみます。
「外すときの鍵は共通だから。これで後ろ手に拘束するからね。」
そう言って拘束の練習もしました。
打ち合わせを終えると私達は少しゆっくりめに進んで行きます。
盗賊がいると教えられてても、静かな森の様子に本当に盗賊がいるのか疑いたくなります。
マスターが言っていた左側に森がない場所に近づくとわらわらと前の森から10人の盗賊が出てきました。私達は馬車を停止させます、距離にして30ツリールくらいです。
皆手に剣を持っていて人相が悪い人ばかりです。
どうして盗賊ってこういう人ばかりなのでしょう。嫌な思い出が
盗賊の頭らしき女性が少し前にでて「あんたら大人しく金を渡せば通してやるよ。」と言ってきました。
見えてる中で唯一の女性ですね。
「お金を払えばってどういう事ですか?盗賊行為は禁止されているはずです。」
打ち合わせ通りに会話して時間稼ぎをします。
「禁止も何もあんたらがここを通ったのがわるい。なぁ」
後ろに顔を向けて他の盗賊を見回します、盗賊達は「ちげぇねえ。」「さっさと出しやがれ」など言ってきます。
「大体護衛が1人だけで、あたしらに挑もうとか頭がおかしいんじゃないか?
大人しく金を出せば商人は見逃してやるよ。荷物も半分貰うだけで許してやるさ。」
「そういう事が許されると思ってるのですが?」
「許されるも何もここじゃあたしらが全て決めるんだ。
あんたは教会の所属だろうが関係ないね。この後ろの連中の相手をあいつ等が飽きるまでしてやってくれよ。」
「私にも選ぶ権利はあると思いますのでお断りです。それに護衛対象の商人が身ぐるみ剝がされるような行為をただ見てるとでも?」
「この人数差で何言ってるのさ。もう一度言うがここじゃあたし等が決めたことが法律なんだよ。
あんたは慰み者になるしかないし、後ろの商人は金と荷物をおいて街に戻ればいいんだ。
命を奪わないだけ優しいだろ。」
私を慰み者にしようとかマスターが聞いてたら大変な事になると思うのですが、この前聞いた地雷を踏みぬくっていう言葉が丁度良さそうな感じだなぁと思いました。
できるだけ間を開けながら言い淀んでいる感じに話を続けます。
「……やはり、その要求を呑むのは難しいと言わざるを得ないですね。」
言っている途中でマスターの姿が盗賊の後ろ側に見えました。
「じゃぁしょうがないね。死なない程度に手加減してやるよ。」
「ではこちらも受けて立つ以外なさそうです。」
「やっちまいな。」
そういって前列の盗賊5人がこちらに向かってきました。
すかさずウォークライを使います。
相手がひるんでいる隙に私は一番右側の盗賊から武器を持つ手を思いっきりメイスで殴ります。腕が変に曲がっています。構わず今度は防具のない太もも部分を殴ります。
マスターも後ろから襲い掛かっているようですが、鞘を付けたまま短剣で殴ってるみたいです。
女頭目が「森から狙い襲うんだよ。」といち早く立ち直って指示をだしています。
ですが森の中から弓は飛んできません。
形勢が不利だと思って逃げようとしている盗賊がいますがマスターと挟撃しているので逃げることもできません。
私はバトルソングを歌いながら女頭目に思いっきり右からスイングしました。
女頭目は盾で受け止めましたが受けきれず、それたメイスが思いっきり顔のほほの辺りに当たりました。
そうして倒れて動かなくなります。
ここでマスターがあと4人程残ってる盗賊に、
「武器を捨てて、その場にうつ伏せになって頭の上で手を組め、両足は肩幅以上に広げろ。」
そう言いました。
1人がさっと逃げ出したのでマスターが思いっきり蹴って吹っ飛ばしていました。
残りの盗賊は言われた通りうつ伏せになります。
「うつ伏せになってる盗賊をこれで拘束するから、手伝って。
サーニャは気絶しているやつを頼む。」
先ほど渡された親指の手錠をベルトのポーチから取り出し付けていきます。
そうして全員に付け終わるとうつ伏せにさせて一ヶ所に集めます。
気絶している人間は足を引きずって集めました。
「サーニャメイスを貸してね。」
そうマスターに言われて手渡します。
先ほど逃げようとして蹴られた人間の足を4の字の形にして曲げている方の足首を指の手錠と縄で縛ってから、真っすぐ伸びている脚の脛を思いっきり殴り折っています。
気絶していましたが脚がおられて痛みで起きています。
引きずったりして意識を取り戻した盗賊達に向かって
「逃げ出したりしたら容赦なく脚を折る。そして移動は折った脚を馬車に括って引きずっていくからな。」
そう脅しています。
そうして今度は盗賊の頭の女の両足をメイスで殴って折っています。
逃げられないようにでしょうか…。
女頭目が気が付いて「何しやがる。」と言っています。
「お前らアジトがあるだろ。大人しく教えれば手荒なことはしない。」
「教える訳がないだろ。」
「そうか。…しょうがないな。」
マスターが面倒くさそうに小刀をだして左手の親指を根元から切り落としています。
そして、「言う気になったか?」と聞いています。
「誰が言うもんか。」
返答を聞くと今度は右手の親指、中指を落とし左手の中指まで落としました。
見ているこっちが怖くなるくらいです、それをマスターは淡々と
「言う、言うからやめてくれ。」
「別に言わなくてもいいよ。」
そうして別の指を持って切ろうとした時に
「教えさせてくださいお願いします。」
女頭目が泣きながらそう言いました。
マスターが大瓶のポーションを取り出して傷口にかけます。
大瓶ってことは粗悪品なので血が止まる程度しか効果がありません。
「んじゃアジトの場所まで抱えていくからな。途中で忘れても思い出せるようにしてやるから安心しろ。まだ指に歯に目選り取り見取りだぞ。」
「案内するから!教えるから、どうしてここまで非道な事をするんだい。」
「お前が言ってたじゃないか、ここじゃ自分たちが法律だって。だから同じことをするだけだ。」
女頭目はうっうっっと泣いています。
それを目に入れずにマスターに問います。
「ここで待っているのですか?」
「いや今日の野営地に進まないと到着が遅くなるから出発しよう。」
そういって盗賊達を馬車から縄で首を13人結んでいきます。
盗賊もいやいや結ばれています。
1人は馬車に脚を括りつけて引きずっていくようです。
マスターがジャックさんへ「それじゃ出発してみてください。」と言います。
馬車が出発しても盗賊は歩こうとしません。
そうすると馬車から盗賊の首にかかってる縄がピンと張りました。
そうすると一番前の盗賊が苦しそうにし始めます。
そうして段々顔が赤くなり紫ぽくなってきて「頼む止まってくれ。」と言います。
マスターに停車するように言われて馬車を止めます。
しかし一番前の盗賊の顔色は変わりません。
「こんな感じで馬車と同じ速度であるかないと首が締まるからな。
ちなみに他の2人は緩めかたを知らないから締まったらそのままだぞ。
もし死んだら胴体と頭を切り落として連れて行くからな。」
そう言って再度出発しました。
今度は盗賊も大人しく歩いています。
そうして逃げようとした男は骨折した脚を引きずられてかなり痛そうに呻いています。
私とジャックさんがちょっと気まずそうにしていると、マスターにこちらを向いて
「それじゃちょっとアジトまで行ってきます。
サーニャ、後ろが何を言っても聞く必要はないからな。
小便がしたいだの言っても垂れ流させればいいから。
あと首がしまって死んだ奴が出たときには胴体と頭を落とせるようにショートソード渡しとくから。」
そう言って女頭目を担いでアジトへ向かっていきました。
ジャックさんがその様子を見ながら
「結構容赦がないんですね…。」
「私も盗賊に対しての対応は初めて見たので…。」
と答えます。
私達は後ろのうめき声や恨み節などは耳に入れないように進みました。
途中馬の為に休憩をしていた時にマスターが帰ってきました。
こちらに近づいてくると、
「かなり色んな物をため込んでたぞ。金貨や銀貨がそれなりにあったので後で山分けしましょう。」
そう言って出発するように促します。
担いでいた頭目は生気がない感じでした。
途中でごねて更に何かをされたのだろうなと思います、
そうして5の鐘を過ぎて夕方近くになってやっと今日の野営地に着きます。
野営の準備をする前に盗賊の首の縄を解いてうつ伏せにさせ脚を4の字にさせて足首と手首を縄で縛ります。
頭目も含め全員その格好にしてからマスターが言いました。
「言っとくけど逃げようとしたら、明日街に着くまで馬車で引っ張るからな。
今日引きずられて奴をみてたと思うが、ああなりたい奴は是非逃げてくれ。」
今日ずっと引きずられていた盗賊は声を出す気力もないようで虚ろな目をしています。
そうして一ヶ所に盗賊を纏めて置いておいて。
野営の準備をしました。
盗賊は放っておいて食事を食べます。
ジャックさんもここまで多くの盗賊を引き連れてという経験がないので不安そうにしています。
「今日は2人でテントではなくこの場所で夜警をして夜を明かしますから安心してください。」
マスターがそう言っています。
依頼者の不安を払拭するためと、多分ですが私が聞きたいことがあるだろうと思ってくれたのだろうと感じます。
食事が終わると、マスターが盗賊には食事はやらなくてもいいけど、水だけ飲まさないと死ぬから飲ませようと言います。
私は水桶に水を入れて持っていきます。マスターが塩を少し水の中に入れていました。
水分しか取らさない時には必要らしいです。
ジョッキ半分ほどの水を全員に飲ませました。要らないという人は1人もいませんでした。
マスターがここでも
「用はその場で垂れ流しになるからな。再度言うけど逃げると明日半日は引きずられるぞ。」
そう言って私達はその場を去りました。
そうして、ボロ布の上に2人で座ってマスターに尋ねました。
「あの…今日のマスターの対応がちょっと怖かったので…どうしてそういう事をしたのか聞きたいのですが…。」
本当はちょっとどころでは無く怖くてたまりませんでした。
自分が同じ目に遭う可能性があったらと思うと恐ろしくてたまりません。
「盗賊なんて交渉するだけ無駄だし、酷いことをされてる見せしめを2,3人作れば他の奴はあいつよりマシって待遇であろうとするから。
今日でいうと、あの引きずった奴と頭目と、首が締まって死にそうになってた奴。
最後脅したのも、万が一にも逃げようとして捕まったらどうなるかを実際に今日見せてるから、逃げようと言う気を無くさせるのが一番の目的だったんだよ。」
見せしめというにはやり過ぎと言う感は否めません。
「頭目に対して見せしめと言うだけではないような気がしましたけど…。」
「あぁ~、あれはサーニャを慰み者にするとかふざけた事を言ってたからね。私怨と言われればそうなんだけど…。
という事はかなり怖いと思った?。」
「正直に言えば…、自分がされたらと思うとかなり怖いです。」
「いやいや、サーニャに酷い事するわけないじゃん。逃げたりしたら別だけど。」
「逃げる気はありませんけれど…。不義をするつもりもないですし。
ただ余りにも淡々とやっていたのが恐ろしかったです。」
「なるほどね~。これは多分盗賊を相手にしてきた場数の差だと思う。
あれは魔獣と一緒でいくらでも湧いてくるものだから討伐しないとダメな存在と思えばいいんだよ。
ただ言葉を話すだけの魔獣。
実際今日あの盗賊団を捕えれなかったら、酷い目に遭ってたのはサーニャだったからね。」
「…そうですね。私も慣れないとダメなんですよね。」
魔物とか魔獣ではなく人をその内殺さなくてはならない日がくると思います。
ですが、多分私はその覚悟が足りないのだと思います。
今回捕縛すると言ってくれたのはマスターの優しさだった気がします。
残忍な部分を見ましたけど、それが多分大なり小なり当たり前の事なのだと思います。
いつかこういう事になれる日がくるのでしょうか?
夜空を見上げながら私は自問自答していました。
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