第14話 護衛任務のための訓練

朝、すっきりとした気分で目を覚ましました。

今日は火の日、午前中は冒険者ギルドで対人戦の講習です。

護衛任務で盗賊に襲われた時の対処方法を学べます。

格安で受講できるので1度は皆受けることを推奨されています。

冒険者ギルドの福利厚生の1つですね。


いつもの装備を持って食事をして冒険者ギルドへ向かいます。

マスターは私が不在の時にポーション作りと買い出しをすると言っていました。

1人で行動するのは神殿以来です、あの時は神殿の中のみでしたが。

ギルドへ着き、本日の講習の受付をします。

受講料は格安ですが前払いなので参加しなくても戻ってきません。

まずギルド2階の1部屋を使って座学をするのでそちらへ行くように言われます。

部屋に行くと10人の講習者がいました。

2人は獣人であとは人族ですね。

適当に空いてる席に腰を下ろし、ちら獣人の人をみます。

獣人と言っても人間の耳の位置に人よりも大きな毛深い耳が付いています。

獣人の人は素早かったり、力が強い人が多く、耳も私達の何倍もよい人達です。

その一人の女の子と目が遭って話しかけられます。

「それを付けてるってことは神殿関係の人でしょ?修行の旅にでもでるの?」

スカプラリオを見て言ってきます。

普通神聖魔法を使える人が冒険者になることはかなり珍しいらしいです?

曖昧な記憶を探ると朧気おぼろげに聞いたするような気がします。

冒険者になる人は自身の信仰を高めるための修行として冒険者になることが多いと聞いた気がします。

「まだパーティとか決まってないなら私達のところへ来ない?神聖魔法が使えるんでしょ。大歓迎するよ。」

「私はもうパーティを組んでますので…。」

「そうか~残念。もしパーティを抜けたりしたら何時でも声をかけてね。」

そうウインクをしながら気怠そうに長机に突っ伏していした。



しばらく経つと1人の壮年を少し過ぎたくらいの男性が入ってきました。

手にリストを持っています。

「今回は欠員がいないみたいだな。俺はこの都市を中心に活動している5スターのスヴェインだ。

本日の教官を務める。よろしくな。」

自己紹介をしてくれます。

「さて時間は有限だからな。一番最初に重要な事を説明するからな。」

そう言って一番前にいた少年い尋ねます。

「護衛で盗賊に襲われた時に一番大事なことはなんだと思う?」

「盗賊を倒すことに決まってるじゃねーか。」

「他の者もそう思ってるか?」

見渡しながら言います。何人かは頷いています。

「残念だが違うな。

一番重要なのは依頼者の身の安全を確保することだ。

その為には降伏して通行料に金や物を取られたり、自分たちの評価が下がることもしなきゃならん。」

ここで一度言葉を切ってから、

「冒険者になりたての尻の青いやつらには、無謀に戦えばいいとか言うが、

勝てそうになかったら?勝ったとしても護衛の積み荷が無茶苦茶になったら?

目を離した隙に依頼主が殺されたら?

そういうリスクも考えて護衛をしなきゃならん。魔物とか魔獣とは違うんだ。

盗賊も無理やり奪おうとして死兵になった奴らなんて相手にしたくねぇんだよ。

だから適当な条件で折り合いをつけて、自分と依頼主の命を守ることが重要だ。」

そう言ってから

「とは言えそういう状況にならないようにするのが俺たちの役目だ。

今日は護衛の注意点や通常時フォーメーションのイロハを教えるからな。

しっかり叩き込んで帰れよ。

実際の護衛をする時には護衛リーダーの指示に従う事を忘れるな。」


そう言って黒板に絵を描いて少人数時のフォーメーションや大人数の場合

どういう地形で襲われやすいか等々1鐘分の時間を使って教えてくれました。

私はマスターから貰ったメモを取る紙の束に重要だと思われることなどをペンで書き込んでいきます。


3の鐘がなって説明を終えたスヴェインさんが

「よし退屈な座学はここまでだ。すぐにギルドの訓練場にいくぞ。」

そう言って皆で移動します。

訓練場はギルドの地下にあり、総レンガの天井まで3ツリールくらいで100ツリール四方の部屋でした。

壁に立てかけている木製の武器が置いてある剣立てから自分にあった武器を取る様に言われます。

「お前ら腹が減ってるかもしれんが、俺も減っている。

これから1対多数などの模擬戦をするから腹に食らうと吐くやつがいるってんで飯は抜く伝統になってるんだ。恨むなら先輩を恨めよ。」

そう言って笑っています。自分たちも通った道ということなのでしょう。


10人いるので多数対少数や同数の場合など色々な状況を想定して模擬戦をします。

途中スヴェインさんが護衛側の指揮を執って、的確な指示があるとどうなるのか等も教えてくれます。

皆冒険者になりたてだからなのか本気で打ち込んでくるので休む暇もありません。

汗も掻きますし息も上がります。

4の鐘が鳴ってさらに半鐘分くらい訓練してたでしょうか。

「よし時間だから訓練は終了だ。実際の護衛の時に今日の事を思い出して役に立ててくれ。解散。」

殆どの人がへばってその場にいます。私も服が汗だくです。

私はスヴェインさんに聞きました。

「あの…今日怪我をした人にヒーリングをかけてもいいでしょうか?」

そう聞きます。

実はこれはマスターから言われていたことです

「訓練が終わったら皆にヒーリングをして親切ぶって魔法の熟練度をあげる。熟練度上げは面倒だからコツコツしないと」

如何にも良いことを言ってると思ってたマスターを少し腹黒そうだと思ったのは内緒です。

「そりゃ構わないがいいのか?」

許可を貰って希望者のみという事でやりました。

スヴェインさんを含め全員が希望してきましたが。

スヴェインさんは神聖魔法を使える人が周りにいなかったので興味があったからですが、他の人は打ち身とかが治って感謝して貰いました。

あの2階の部屋で勧誘された獣人の娘にもう1度熱烈な勧誘を受けました。

そうして終わった後、手すきのギルド職員にこそっと結婚してどうやって相手を好きになったかを聞きます。

私の将来の為のリサーチです。

この手の話は皆好きなのか他の手すきの人も交じって少しの間雑談しました。

ただヒッペアストルムは大都市だけあって恋愛結婚の人が多いみたいです。

参考意見になるかはわからないですが色々な話を聞くことができました。


冒険者ギルドから宿へ帰ると受付でカギを受け取り着替えを持って宿の井戸を狩りて水浴びをします。

ちょうど宿の窓から視線が通らないように低木が植えてあります。

私は汗を掻いていたので少し肌がべたべたしていたので水を体にかけるとひんやりとして気持ちがいいです。

今日はこの後は何もすることがないので体も髪も洗い、服も新しく着替えます。

タオルで髪を拭いてから部屋に戻ると、ベッドへ思いっきり大の字に寝ころび目を瞑っていました。

今日は疲れたな・・・と思っていたらマスターが帰ってきました。

部屋に入ってきて私を見るなり、

「を、体とかも洗ったんだ丁度いい。」

と言ってきました。

そうして徐に何の脈絡もなく

「真っ裸になるんだ。」

と言ってきます

「!!!!?」

私は完全に思考が真っ白になってしまいました。

ちょっと間が過ぎ私は再度考えてみます。

マスターと行動してからこっち、マスターは此方が説明を聞いたことは詳細に答えてくれるのですが、そうでないことは時々説明なんか全部端折って結果だけを言ってくることがあります。

きちんと意図を確認しないといけません。

「あの…なんで真っ裸になるんでしょうか…?」

「そんなの決まってるじゃないか。明日から長期間仕事でしょ。で今日はギルドで講習を受けてるからサーニャの全身をオイルマッサージしようと思ってね。

疲労はポーションや魔法じゃ抜けないし。」

私は肩の力が抜けます。やっぱり変な意味じゃなかったみたいです。

私が怪訝そうな顔をしていたからでしょうか、さらに説明をしてくれます。

「全身オイルマッサージのオイルが何なのか気になってるんでしょ?

今日ポーションを作るときに香油を一緒に作ったからね。

ハーブティーにする前の生のハーブから作ったんで爽やかな香りだぞ。」

そういう事を聞きたいのではないのですが、と思いながら折角マッサージをしてくれると言ってるので受けます。

マッサージが始まってから、説明が言葉足らずだったせいで私がどう思ったかを言っておきます。

「マスター、いきなり服を脱いで真っ裸になれとか勘違いするのできっちりと説明をお願いします。」

「勘違いも何も変な意図はなかったけど?」

「私はいきなり真っ裸になれって言われてマッサージ以外の事を最初に考えました。」

「うん?そういう意味には取れないと思うんだけど?」

「いいえ、あれだと私にいかがわしい事をしようとして裸になれと言ったと殆どの人が思うと思います。」

「えぇ?噓でしょ?」

「私はマスターと最近一緒に過ごしていて、ある程度は説明が不足することを知っています。

だけど知らない人からしたら途中が分からないのに結果を言われている状態です。

今までも結論のみを言って誤解を受けたことはありませんでしたか?」

「結構…偶に…よくあるかな…?」

思い出しながら言っている感じです。

「今までは1人で活動してきたので良かったかもしれませんが、これからはパーティで活動するんです。

ちゃんと説明をしれくれれば私も分かりますし誤解も生まれないのでちゃんと意図を教えてください。」

「前向きに善処します…。」

「そこは変えるように努力してください。」

ちょっと強めに言います。

マスターの普段の行動や言動から無茶は言わないし、言えば改善してくれそうな雰囲気を感じています。

「確かにね~。理解できない時とかは言って貰えると助かるかな。」

「それは私も指摘したりするようにします。代わりに私が知らない事とかを教えてくださいね。」

やっぱり話せば分かって貰えます。こういう点は良いところだと感じます。



「ついでに聞くけど、最近何か気になってる事とかある?」

気になっていること…マスターの謎な行動や言動以外でと言う意味でしょう…。

マスター関連は都度都度聞いていった方が良いと思いますので別の事を考えます。

となるとあれでしょうか、女性の事情ですけど。

「気になっている事というか…、実は月のものが遅れています。この依頼任務中に始まると途中大変かもしれません。」

食事が満足に食べれなかったり、ストレスのせいで月のものが遅れたりするのは知られています。

マスターと一緒に護衛任務をするので情報共有はしておいた方がいいと思いました。

「あれ?生理はこないようにしたって言ってなかったけ?」

「初耳ですが?」

怒りがふつふつと沸いてきます。

「あれれ?呪紋を刻んだでしょ?呪紋の効果のなかに生理を止めることを選択できてね。冒険者をやってると大変かなと思ってたんだけど…?」

声が尻すぼみになっていきます。声音が怒っている感じに聞こえたに違いありません。

「そういう事は本当にきっちりと説明してくれないと困ります。

もし今知らずに数ヵ月経っていたら子供が出来たかもと思うかもしれません。

そうするとマスターに個人的に依頼している旅が出来なくなるかもとか、

予定を変更しないといけなくなるんじゃないかとか。

兎に角色々と不都合が起こる可能性が高いわけです。

それこそマスターに不貞を疑われる可能性だってあるわけです。

先ほども言いましたがマスターは圧倒的に説明が足りない時があると言うのを自覚してください!」

「そうだね。ごめんなさい。あの後女神に文句を言いに行ってすっかり忘れてたよ。」

反省してくれたらいいのです。

ですがちょっと不遜な言葉があったので聞きます。

「女神に文句を言いに行ったとは何です?」

「呪紋であんなに気絶するほどの痛みがあるとは聞いてなかったから、あの後神殿に忍び込んで祭壇に適当に奉納して女神達に会いに行ってきたんだ。

そこで呪紋に対する想定外の事に対して苦情を言ってきた。」

「女神様達にあったことがあるのですか?」

「あると言うか一定間隔で甘味とかを中心に奉納しろってお願いされてるからね。」

よくよく話を聞いてみたら奴隷契約には逃亡に関する罰則規定がなかったので、女神様達に呪紋を新しく作る様にお願いしたそうです。

その時に月のものの有無なども管理できるようにして貰ったそうです。

呪紋を刻むときは少し痛む程度でそこまで痛まない様にして貰ったはずなのに話が違うと文句を言いに行って、当分甘味を奉納しないと脅して謝罪を勝ち取ったのだとか。

女神様に会える立場な人だとは思いませんでした。

「女神に会えるからって態度を変える必要はないよ。あれって多分祭壇からきっちりとした奉納をすれば誰でも会えるはずだから。」

「そうなのですか?」

「今度サーニャが代わりにやってみれば証明できると思う。」

女神様に会えるならやってみたいと思います。

マスターの連絡不備に対する怒りがうやむやになっていることに気付いたのはマッサージを受けて布団に入って寝る前でした。

今から再度言うのも悪いですし、何より私がもう同じように怒れません。

しょうがないので、ゆっくりと休むことにします。

明日は護衛クエスト開始です。

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