第10話 パーティ名決めるの忘れてました

大聖堂に行きマスターと合流します。

マスターに「おめでとう」と言われ「お祝いがあるんだ」と布に包まれたものを渡されます。

「サーニャに似合う素敵な装備が出来たんだ。きっと気に入って貰えると思うよ」


私は布を開いてみました。そこにはミスリルのカチューシャがあります。

左右対称に蜜の花の意匠が彫ってあります。

力を入れて開いても放すと元の形状に戻ります。

シンプルですがセンスは良いと思います。

私は付けてみてマスターに似合うか聞いてみます。

「似合うし可愛いぞ。」

そう言われるとやっぱり嬉しいです。自然と顔もほころびます。

「ありがとうございます。嬉しいです。」

素直にそう思っています。


「ただそのカチューシャの方が、鉄のフルヘルムよりも防御力があるんだよね。不思議だよね~。」


「ミスリルですから鉄よりも守りの力が強いのは当たり前では?顔に鉄の矢くらいを射られてもこれをけていたら弾くのは当然ですよ?」

マスターが当然のことを不思議そうにいいます。私の方がよく分からなくなって疑問形で答えてしまいます。


「そうなんだけど、僕的には納得がいかないんだよ」

そう言いながら腕を組んで唸っています。

一通り唸ったあと「まぁ、そんな事よりお昼を食べよう」と言います。

シャンラール神殿を後にして適当な食事処へ入りご飯を食べます。

シャンラール神殿での生活を色々聞かれたので答えていきます。

マスターはニコニコしながら聞いてくれます。

私は逆にマスターは何をしていたのか聞きました。

「片道5日くらいの場所への交易商隊の護衛を引き受けて11日街を離れてて、その後はテントの改造やらそのカチューシャを作ってたんだよ。」


「これはマスターが作ったのですか!」


「作るためにインゴッドを1/3買ったからね。なかなかいい出来でしょ。」

そういう意味で言ったのではないのですが…、ミスリルの加工はかなりの技術がいるはずです。

本業が冒険者で斥候をやってるのに彫金が出来ることに驚きを覚えていたのです。

そんな話をして食事を終わらせます。



食事後は前に泊まった宿に移動しました。

冒険者としての活動は明日からするとの事です。

井戸のある中庭部分で髪を切ると言われました。

宿で丸椅子を借りて中庭に移動します。椅子に座ると大きな布を体にかけて後ろで結んでいます。髪が服につかないようにしてくれているのでしょうか。

はさみも何種類か持っています。凹型が並んだ鋏なんて何に使うのでしょうか?初めて見ます。

「あの…、髪を切る必要ってありますか?」

私は意図がよく分かってないので聞きます。


「サーニャが心機一転冒険者になるっていう踏ん切りをつけると言う意味と、サーニャを過去に見たことがある人が気付かないようにだね。

髪型を変えると人って印象が変わるから、やっぱり顔を知ってる人に会う可能性があるからリスクは回避したいし。」

そう説明してくれます。


髪を切りながら明日からの行動について説明してくれます。

「基本的に土木の2日仕事したら、火の日は休みで、同じように水金に仕事をすると仮の日を休む感じで1週間が4日仕事で2日休みになって、護衛とかで4日仕事をしていたら街に戻ったら2日休息という事になるからね。」


「思ってたよりも休みが多いですね。」


「疲労は抜けないから休みは多いくらいが丁度いいよ。

無理をしないとダメな時は1日中休息も出来ない時があるからね。」


「そうなのですね。分かりました。」


「当然だけど、休みの日は収入から小遣いと言う形で使えるお金を渡すよ。

1人で買い物とかしたい時もあるだろうし、休みの日は自由にどんな事をしてもいいよ。」

そう言ってくれます。自由に行動していいと言われると楽しみです。

今まで1人で出歩いたりとかもありませんでしたし。


「装備品やそのメンテナンス、食費と宿代なんかの雑費はパーティとしての出費だから僕が管理することになるけどね。」

そこは問題ありません。私は了承しました。


「それでクエストだけど、この街は大都市だから周辺のジャッカロープやグラスウルフ狩りやポーション等の薬草祭主は常設であるんだけど、あまり稼ぎが良くないんだよ。

それで明日は常設クエストをこなして、クエストを見て商人や商隊護衛をうける感じで当面は進めたいんだけど。どうかな?」

そう言って同意を求めてきます。冒険者としての活動は全然わからないので、マスターにお任せするしかないのですが…。

そう思ってその事を伝えると、

「パーティとして活動するんだから、同意を取るのは当たり前だよ。

というか活動方針や報酬分配を言わない人は気を付けた方がいいよ。」

そう言ってくれます。


「そう言えばサーニャ、パーティ名は決めたの?」

突然話を変えられました。

「前に言っていたと思うけどパーティ名を考えてねって言ってなかったけ?

伝え忘れてたかな?」

確かに前に言われた気もします。すっかり忘れていました。


「髪を切った後、パーティ名の登録に冒険者ギルドへ行くつもりなんだけど。

それまでに決まってなかったら僕が決めるぞ。」

今から急いで考えても良い名前が考えられるか分かりませんが、考えないといけません。

そうして髪を切って貰っている間中名前を考えていました。



髪を切り終わって頭を洗って貰い、ウォームの生活魔法で乾かしてもらいました。

くしで髪を梳いて貰って、手鏡を渡されます。

きちんとした自分の顔がくっきりと映る鏡です、この大きさでも金貨5枚くらい、25万リールはすると聞いた記憶があります。

別のことに気を取られているとマスターが髪型について話し始めました。

「ロングハイレイヤーにしたけどどうかな?後ろは肩甲骨の下側に毛先がくる感じで、適度に梳き鋏で梳いるし今までと印象が結構変わったと思うけど。

かわいさが倍くらいになったと思う。」

聞いたことがない言葉があります、マスターは不思議な言葉をよく使うのでそこはスルーします。

確かに今までと比べてかなり印象が変わっています。同一人物と思えないくらい受ける印象が変わっています。

全体的にふんわりとしたと言えばいいのでしょうか?私は左右を手鏡で確認します。

「すごいですね。マスターって本当に器用です。」

そう誉めると嬉しそうにしながら手早く切った髪や布、踏み台を片付けていました。

そっと踏み台からは目をそらします。


「冒険者ギルドへ行こうか、名前は決まった?」

困りました、考えていましたがいい名前が浮かびません。

私は顔をフルフルと横へ振り、マスターに名前を任せることにしました。

「じゃぁ任された」と凄く演技くさいポーズをとります。格好いいとは思いませんでしたが、悪い予感が少ししました。

この後で当たることになりますが…。


散髪が終わったので冒険者ギルドにいきます。

道中もずっと考えていましたがいいアイデアが浮かびません。

ギルドに着くと今日は正式なパーティ名だからと言って登録用紙を貰ってきました。


ギルドの容姿に記入しながらマスターが仮パーティとの違いを教えてくれます。

「仮パーティだとパーティ名とパーティリーダーを決めなくても組めるんだが。

そのクエストだけというパーティになる、報酬を受け取って人数で頭割りして余ったお金をパーティでの推薦者かリーダーを務めていた人間が余りの報酬を貰うことになっている。」


「固定パーティだとパーティ自体の信頼度も上がっていくから、いい報酬の依頼が回ってくるし、色々と使える伝手も増える。

要はあのパーティに頼めば必ずクエスト達成する…となるとクエスト依頼を受けて貰うために報酬を上げざるを得ないって事。

だから殆どの場合固定パーティを組む方がメリットしかないから皆パーティを組んでる。

1人きりのソロだと危ないしな。」

固定パーティにイロハも教えてくれます。


「メンバー同士で揉めて脱退とか、パーティに合わなくて抜けるってのもあるけど、

元所属していたパーティの評価が高く、優秀な冒険者だとより良い条件のパーティに紹介してくれるサービスをギルドがしてくれるしね。

1パーティは最大6人だから、この前の暁の狼団は所属人数が多いからクエスト毎にメンバーを入れ替えてパーティを組んでるはずだよ。

ただ長く一緒にやってる方が連携が取りやすいから、中心人物数人は入れ替えないと思うけど。」

暁の狼団みたいな場合の説明もしてくれます。


「という訳で出来た。」そう言って記入済みの容姿を見せてくれます。

パーティ名:聖銀ミスリルの乙女

パーティリーダー:サーニャ

パーティメンバー:なし

その他:ポーター1名(ギルドカードでメンバー登録済み)


「どういう事ですか?」

私はマスターに問い詰めます。

「だって名前決めなかったから、いい感じの名前にしたんだけど……気に入らない?」

そういう意味ではなく、…そういう意味もありますが、それよりもメンバーです。

これでは私1人しかいないのにパーティを組んでるという頓珍漢とんちんかんな状況です。


「1人じゃないぞ、ちゃんと荷物持ちのポーターとして僕が同行するわけだし」

そう言って「他にないなら登録しよう」とカウンターへ歩いて行きます。

女性のギルド職員に書類を渡すと「あら、夢がある可愛い名前ですね。」と私を見ていいます。

そうして問題なさそうな感じで「ギルドカードをこちらに置いて魔力を流してくださいね」と言ってギルドカードへ打刻していきます。

マスターと2人分の打刻が終わると「終わりました。」とカードを渡され「ありがとうございます。」と反射的にお礼を言っていました。


あんなパーティ申請が通るのは私がおかしいのでしょうか?

私自身頭に?????と浮かんでいる状況でマスターに手を引かれて冒険者ギルドを後にしました。



宿に連れて帰えられてからも考えてみましたが…。

「やっぱり納得できません。おかしいと思います。」

そうマスターに訴えました。

「パーティ名が?」

「パーティ名もちょっと恥ずかしいですが、それよりあの内容です。」

あの場では他の事に驚きすぎてパーティ名につっこむ事を忘れていました。


「え~。でもギルド職員も問題ないって登録してくれているし。

書類の表記上は1名だけど戦闘要員として2名なのは変わらないよ?」


私は言葉に詰まります。ギルド職員も書類に不備がないから手続きをしてくれたので、マスターが言ってることは間違ってないのでしょう。


ちょっとだけもやもやしたものを感じていますが、流されてしまったので、この様な事になっています。

他に意見がないならと言われた時に、他の意見を言えばマスターは聞いてくれたと思います。

そこは反省です。ちゃんと意見は言える様になろうと心に決めました。


その後はいつも通り食事をし、寝る準備を終えました。

明日からはマスターと冒険者としての生活が始まります。

少しの楽しみとそれなりの不安を抱えながら眠りに落ちました。

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