第8話 ヒッペアストルムでの打ち合わせ

ヒッペアストルムには今日のお昼過ぎには着く予定です。

出来るだけマスターの邪魔にならないように片付けなどをしていきます。

初日に比べれば結構体力が付いてきたと感じています。

少し話しながら歩けるほどの余裕がでてきました。

マスターからは「レベルが上がった成果が実感できていいでしょ」と言われましたが


朝野営地を出発後すぐにゴブリン5匹とゴブリンハイ2匹の集団に

これも予測済みだったので、私が出る間もありませんでした。

倒したことになっているゴブリンハイは討伐証明部位と魔石、錬金材料の素材を回収の練習という事で私がやります。

駆け出しの冒険者でも余裕で出来る作業と言われると意地でもやらないと、という感じになります。

その後の見た目が悪くなった死体は近くの森の木の根元へ向かって投げます。

他のゴブリンの死骸なども同じようにし積み重ねたら、商隊はまた出発しました。


「ああやって置いておくと時間が経つと死体が魔素になるんだ。

できるだけ重ねているのは、ここを後で通る奴らに、この場所でこの編成の襲撃を受けたから注意しろって警笛の意味もある。

この世界には魔獣や魔物を食べる動物がいない。

だから消滅するまで警笛の役目ができるんだろうけど。」


「しない時もあるのですか?」


「その倒した魔獣や魔物の全てが素材になりそうだと、全部持って帰るから何も残らないな。

魔獣の数が普段と違って多かったり、魔物が多いと感じたらギルドに一報は入れるくらいかな。

そこから先はギルドの責任であってこっちには責任がないからね。

悪い言い方だけど割り切らないとやっていけない。」


そう言ってくれているので過去そういう体験をしたのかもしれません、

自分と他人で命の価値が変わるのは判りたくないけど判っています。


そんな感じで街の城壁が近いので普通なら襲撃されない状態なのでのんびりと進んでいき、ヒッペアストルムに到着しました。

ヒッペアストルムは人口が5万人ほどの大都市でこの地方の領都であり、

周辺に大きな森が3か所あり、商隊が多く行き交うことからギルドの仕事は護衛関係が多いという話を聞きました。

お昼より前の到着したので皆早く帰りたいっていう気持ちもあったのかもと思います。

マスターがアーサーさんへ「冒険者ギルド」へは後でいくのか聞いていました。

アーサーさんは「依頼者側からの依頼達成報告があるで、皆さんと一緒に行くのがよいでしょう。」と言っていました。


「道中の獲物は一度アーサーさんの口座に入れてから分配が一番いいかな?」


「そうだな、依頼主が全額とりあえず受け取り、そこから分配してもらった方が俺たちの評判にもいい。」


2人はアーサーさんを買い取りカウンターへ連れて行って、アーサーさんからの買取依頼であるとの書類を作成しています。

納品に関しては納品係の男性職員とリコさんが揉めています。

「手前のこんなトレーじゃ足りねぇ。オーク2匹分まるまるだぞ、あとフォレストウルフも結構な数がある。」

そう言っていますが、ギルド職員の「忙しいんでここのトレーに全部置いてくだい」と言われてお終いです。

マスターは慣れている感じで、背負ってる袋からそのトレーに解体後のオーク肉を積んでいきます、1匹全部出さないうちにトレーに山盛りで積めなくなったので、隙間にウルフの肉と皮を置いていきます。

見るからにもうおけない4,5人でやっと持っていけるかな?くらい積んで「次のトレーどこに置きます?」と職員に聞いて、職員が目を丸くして「あの解体室の端の部分へ置いていただくという事は可能ですか?」とかなり腰が低い感じで聞いてきます。

「おいおい、こっちはトレーじゃ足りねぇって言ったのに置けって言っておいて、今度は

部屋の中に出せかよ。」

リコさんが半分揶揄うように言います。

「忙しいとは思うがちゃんと言ってることは今度から聞こうな」

と腕をカウンターに置いて言っています。


お昼なので冒険者はそこまで多くいませんでしたが、それでもそこそこの人数がいました。小声の感じで言ってますが「やはり暁の狼は堅実だな」「商隊護衛の副収入で羨ましいぜ」と聞こえてきます。

耳をそばだてて聞いてると暁の狼団って堅実に依頼をこなす評判のいい中堅という位置みたいです。


解体室にはリコさんとマスター、私が入っていきました。

指定された場所に解体済みの肉、毛皮、討伐部位をマスターが手際よく置いていきます。

リコさんが

「こっちの左側はマーグリッド奴隷商会に査定額と討伐報奨金を報告してくれ、右側は別口なんでそっちは別で頼む。」

そう言ってマスターを親指で指さす様にして職員に言います。


マスターも慣れたものでギルドカードを見せて、査定が終わったら尋ねるという旨を伝えています。

解体室から外へでると、アーサーさんも手続きを終えたようで、待っていました。

リコさんとアーサーさんとは、ここで別れることになります。

マスターとリコさん、アーサーさんが握手をして

「また今度一緒に仕事をすることがあればよろしく頼む」

「何かお役に立てそうであれば訪ねてきてください」

と言葉を交わしてから、私達は冒険者ギルドをでました。


その後リコさんがお勧めしてくれた宿にチェックインしておきます。

マスター曰く、大都市ほど宿は早く抑えないと宿泊できなかったり、最悪馬小屋で寝ることになると教えて貰いました。

宿の人に鍵を預ける時に、お昼に行く地区のおススメの食事処を聞いて出かけます。



食事処へ着くと4の鐘が近いからか空席がありました。

その日のおまかせ定食を頼んでから

マスターが午後の予定を話し始めました。

「食事を終えたら、リコさんから聞いた腕のいい防具屋に行ってみよう。

その後で火の女神のシャンラール神殿に行き、神名契約をしようと思う。

ついでにサーニャにはシャンラールの信者認定を受けて貰おうと思ってて、明日から神殿で信者認定のための奉仕活動をさせて貰えるように頼もうと思ってるんだ。」

そう言いました。


私は寝耳に水のことで目を見開いてビックリしました。

「私は・・・」

立ち上がって大声で言ってしまい、他の人の注目を集めてしまいました。

座って今度は小さめの声で

「私はフォンリール様の使途です。

他の神の信者になろうものならフォンリール様からの祝福がなくなると思いますが・・・・。」

普通は15歳を機に自分の信仰している神がある場合はお布施などを行い信徒になります。勿論任意なので生涯どの神の信徒にならない人もいます。

信者は信徒のなかでも信仰心が高いと認められ洗礼を受けた人になります。

その際に洗礼名も女神様から貰うため、名前にその洗礼名を入れて名乗ることになります。

今まで信者以上になった方が別の神殿で同じように洗礼を受け信者になったという話は聞いたことがありません。

逆に信仰心を疑われるような行為だと一般的には思われる行為です。


マスターは腕を組みながら不思議そうに

「でも女神様から禁止してるって聞いてないし、

どの女神の神殿でも祭ってある女神以外の別の女神へ供物を捧げても苦情を受けたこともない。

だから祝福や加護がなくなることはないはずなんだけど。」

と言ってきました。

まるで女神様とあったことがあるような感じに聞こえるのは気のせいでしょうか?

それより本当に、こんな事をさせるなんてあり得ないと思います。


「それにこれはちゃんと考えた結果だぞ?

神名契約をして色々調べるとしてだ。

ユーマロス皇国に近くづくにつれ、サーニャの姿を知っている人間が増えることになる。

そんな時に別の女神の信者であると一目でわかるとすれば、皆他人の空似かと思われる可能性が高い。

今サーニャが言っていたように普通は他の女神の信者になることなんてないからね。

ついでに覚えて欲しい神聖呪文が女神シャンラールの信者以上でないと覚えることができないってのがある。」

と理由も説明してくれました。


「あの…神聖魔法は神殿で真摯に修行した方しか使えないはずですが……。」


「そこも任せておいて、クリアできてないのは条件だけから。」

そう自信満々に言って首を縦に振っています。


そう話をしてると2人前の定食を持って店員が来ました。

一旦会話をやめて、食事をしながら話を続けます。


「サーニャには今後神聖魔法が使えるパーティのリーダーとして、

癒しの乙女としてのイメージを作っていきたい。

何故、目立つように活動するかというと普通殺し損ねた相手が堂々と目立つような活動はしないという思い込みを利用しようと思う。

名前だって新しい洗礼名と冒険者ギルドで登録した名前を使えば身元がバレることはないと思う。」

という感じの考えている計画をマスターが話してくれました。


「確かに言われてることは判りますが…。」

デメリットだってあまりありません。私が別の女神様の信者として認定されるのと目立つこと以外には・・・。

「あのパーティリーダーが私ということはマスターはどうされるのですか?」


「表向きの部分の交渉をサーニャが担当するから、裏方だな。

基本登録もポーター扱いにするけど、ギルドでの依頼の選定とか実務的なことを受け持つ感じでやろうと思う。」

色々動き回れるポジションが便利であるということですね。

あと細かい事を色々担当して貰えると言っていました。


食事がすんだのでリコさんに紹介された防具屋にいきます。

マトースツゥヤよりも品がよいものが多く置いてあります。

マトースツゥヤは5千人程の街ですから規模が大きいのも納得がいきます。

きょろきょろと店内を見渡してると注意書きがあり、読むと【品物を手に取ってみる際には、ギルドカードを店員にわたすこと】と書いてあります。

盗難防止と身元確認用なのだとマスターが教えてくれます。

カウンターが凹型になっていて、壁に皮系の防具や脛当てなども置いてあります。

店の中央部分に台座を固定された鎧が飾ってあります。輝きからミスリルぽいかなと思いました。

マスターがガタイのいい店員にチェインシャツが店の奥にあるか聞いていました。

試着もさせて欲しいから中に入れてくれと交渉し、ギルドカードを見せ私を指さしながら話をしています。

ガタイが良いだけかと思ってましたが50近い年と思いました。

目つきがもなんか悪いというか怖いです。

利き腕と思われる右腕は私の太ももよりかなり太い感じです。


「暁の狼のリコさんの紹介で来たんだ。店主は偏屈な頑固親父だと聞いてるぞ。

チェインシャツを探してるんだが在庫はあるか?あの娘がきるんだが。」

そう言ってギルドカードを渡しています。


無言で店の奥へ入っていていきます、そうしてガチャガチャと音がすると木箱を両手で抱えて戻ってきました。


「この辺りがそうだな。」

店主なのに物凄いぶっきらぼうな言い方です。

私も近寄って箱の中を覗き込みます。


「鉄のやつはダメだな。重量的に重すぎる。他には……。

を、ミスリルのがあるじゃないか。」

そう言ってミスリルのチェインシャツを取り出します。

両手で広げると両手首まであるタイプのシャツです。

マスターは少し悩んだあと箱の中へ戻し、別のを探します。

もう1つあったのか、また取り出して広げます。

もう1つは肘より短いくらいで袖口がヒラヒラしているタイプでした。


「バタフライスリープタイプとは…。見栄えは良さそうだが…売れるのか?」


「…ワンオフで注文を受けて作ったんだが、いらんと言われてな。

材料費は払って貰ったが、売れてはないな。

ここにあるからな。」

少し皮肉気に言います。


「10年以上前に作ったが、ミスリルできっちり手入れをしてるから作り立てみたいだろ。」


「確かにな。試着はさせてもらっても?」


「あぁ、いいぜ。」


マスターに言われて今着ているチェニックの上に着ます。

裾は腰くらいで、ヒラヒラした腕の部分は肘よりも短いです。

その状態で指示された通りに腕の上下や腰を回したり色々な動きをします。


「これじゃあ確かに普通の冒険者は買わないだろ。ミスリルだと値段がはるし。

動かしにくいところや引っかかる部分はあるか?」

そう聞かれたので、ないと答えます。


「買ってもいいが、正直いくらだ?」

「500万だな。」

「大金貨2枚とは吹っ掛けてないか?」

「ミスリルを細い棒に加工してリングを作る手間を考えてみろ。妥当な値段だ。」

「確かに手間はかかるな。だが材料費はないだろ?」

「材料費抜いて500万だ。2ヵ月は製作にかかりきりになったんだぞ。」

「それでこの値段なら絶対売れないだろ。この機会に売り切るのが賢くないか?」

「自分の技術料が500万だ、これ以上は値引く気もない」

店主は腕を組んで言い切ります。数舜にらみ合ったような感じになりますが、

「うん、技術料なら仕方ないな。じゃあ代金だ。」

そう言って背負ってたバック抱えて中から大金貨2枚をカウンターに置きます。

「スリースターのくせに金払いがいいじゃないか。もっとごねるかと思ってたが」

「職人に敬意を払うのはその道具に命を預ける者なら当然だろ?

値引きはしないと言ったかところから値引こうだなんて職人を馬鹿にする行為だからな。

態度からびた一文負ける気がないのもわかったしな。

あと…ミスリルのインゴットはあるか?半分の大きさでもいい」


「三分の一にくらいのが倉庫にあるが・・・」


「頭の防具も見ようと思ってたんだが、これを買ったから手持ちは素寒貧すかんぴんでな。折角のミスリルシャツに合わせる形にしたいんで彫金での防具にしようと思ってな。」


「インゴットだけでも100万リールだぞ?」


「ならギリギリ足りそうだな。」

そう言って金貨20枚をさらに取り出します。

思いっきりの良さに関心したのか、店の奥から三分の一程度の大きさのミスリル院ゴッドを持ってきました。


「シャツのメンテが必要になったら、この街に間はここに来い。」

そう言っている店主に背を向けて右手を上げて掌をヒラヒラさせならが出ていきます。

私はお辞儀をしてマスターの後を追いかけました。


私はマスターに追いつくと先ほどの言葉の意味を聞きました。

「素寒貧と言ってましたが大乗ですか?」


「予定よりも安かったし、そのチェインシャツも未来への投資と考えてるから大丈夫だぞ。

さっきの買い物で懐が寒いのは本当だから、嘘は言ってないし。

ただ昨日オークとオークハイ、ウルフの素材の買取、それとマーグリッド奴隷商会のオークとウルフの素材の運送代で手間賃が入るから2,3日後にはそこそこのお金が入るから大丈夫だ。

当面の生活は心配しなくていいし、ギルドカードにもちゃんと貯蓄はしてるよ。」

そう言って説明してくれました。



そこからシャンラール神殿に向かいました。

案内の神女見習いに神名契約をしたい旨を伝えると、声をかけた神女見習いが鈴チリチリチリンを鳴らして案内してくれました。交代の神女見習いが来ているのが見えたので、この神殿での合図でしょう。

祭壇のある大き目の別室に通されます。

机と椅子もあり、少し待つ様に言われて神女見習いが聖別された紙を2枚持ってきました。

同じ内容で2枚紙に書くように、また神名契約には金貨10枚の寄進を求めている内容が説明されます。

また内容があまりにも不公平だと女神が感じる場合には紙が煤として残るが、その場合にも寄進は返せないという注意もされます。

マスターは昨日双方が同意した内容の紙を取り出し、書き写していきます。

2枚とも同じ内容であることを確認し、マスターと私がサインをしてると司祭が木の箱とワインをガラスの小さめのグラスに入れて持ってきました。


「内容に双方が納得しているならサインと血判をしてください。」

そう司祭がいいました。

「…サインはされているようですね。でしたら血判をお願いします。」

木の箱を開け銀の針を取り出し、ワインに浸けます。

そして針を親指にさして血判を押す様に言われます。

司祭は契約書の内容には興味が無い様子で、血判が終わるのを待っています。

マスターが2枚血判を押したので私の番です。

またワインに針を浸けて針を渡されます。


「ちょっとチクっとするくらい刺したらいいから、深く刺しすぎないように。」

とマスターに言われます。

私はチクっとするくらいで刺したら浅かったのか、血が出てくるのが少なったです。

司祭に親指の腹を別の手の指で左右から押すように言われて、血を絞る様に2枚に血判を押しました。


司祭は契約書2枚と針を浸けたワインのグラスを普段は供物を捧げる祭壇へ置き、祈り始めました。

「女神シャンラールよ、神の名に於いて、この契約を結ぶことを許し給へ。」

言い終わると契約書2枚が蒼い炎に包まれて跡形もなく消えました、ワインも空になっています。

司祭はそれを確認すると私達の方へ向き直り、

「神の名に於いて契約がなされました。1枚は女神が、もう1枚は創造新へと捧げられました。契約を破るとそれが当事者に神の力ですぐに分かる様になっています。

神の怒りも同時に当事者に降り注ぎます。ゆめゆめ破ることのないように。」

と言いました。


そして私達はお礼をいいました。その際マスターが司祭に「申し訳ないですが」と前置きして、私がシャンラールの信者になりたいので、ここで浄財をさせて貰って、神へ奉仕をさせて欲しいとお願いしています。

信者へは一定の寄付と奉仕を神殿を通して神に行うことで誰でもなれます。

司祭はニコニコしながら「感心な事です、我々は歓迎します。」と言っています。

マスターは「明日からお願いします」と言いました。



そうして宿屋へ帰りました。

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