第7話 提案をする
私は次の日から行進中は自分の状況を考えていました。
マスターの評価を護衛をしている暁の狼団の人に聞いているとかなり高評価をしていることがわかりました。
夜警の時も数匹のウルフ系などは1人で仕留めているらしいです。
他の人に気付かれずに行動している時も多々あって裏稼業でもやっていけるとまで言われていました。
でしたら、今の状態を説明できるのだったら私は故郷へ帰れる可能性があります。
マスターに付いてきて貰えば護衛も必要ないと思います。
奇襲とは言えオークハイの首を刎ねることができる腕前です。
ただマスターが金銭のやり取りで奴隷を買い上げたということを部分の利益を保証して、さらに上乗せする必要があるとは思いますが。
そして、あの落とされる瞬間にお父様の名前を言っていたことも思い出してきました。
お父様はユーマロス皇国から離れた南東のリーザ王国の元第5王子でした。
諸国の遊学中に当時第2皇女であったお母さまに一目惚れし熱烈に求愛したと聞いています。
お母さまの姉上がお体が弱かったため、お母さまが今代の女皇になりました。
その為、皇配としてユーマロス皇国に来た経緯があります。
お父様の子供はお母さまとの間に私と妹が、そしてお母さま公認の愛人の子供がいます。
皇配が愛人をもついのは珍しく、2例目だったと習いました。
そこから、もしかしたら・・・と考えます。
私達はユーマロスの成り立ちから皇家の役目をフォンリールの洗礼を受け6歳から習い始めます。
ユーマロス皇国は長子継承ではなく祭主として神事を行った場合の魔素の祓い具合で相続が変化します。
妹がどちらかというと継承を嫌がっていた感があります。
恋物語をよく読んでいて、素敵な恋がしたいと言っていました。
女皇になると、皇配も決まります。世界の為に子を繋ぐ以上そこには個人の意見は入り込めません・・・。
そうするとお父様ではなく、その愛人の方が主導して私達姉妹を亡き者としようとしていたら・・・。双方ともに他国出身者ですし。
情報が少なすぎて推測の域を出ないことばかりでの考えが、頭の中で堂々巡りをしています。
ちょっと色々と上の空だったのですが、マスターも何か考え込んでいるのがわかっているみたいで、そこまで干渉をしてきませんでした。
8日目にリコさんがマスターに、今回の私の訓練の教官に溢れた人の落ち込みが凄いので追加で1人前できないか?あと出来ればでいいからマーグリッド商会の人達ように3人分くらい頼めないか?とお願いしていました。
「金は払うからなんとかお願いできないか?」
「4人前も増える訳ですから。普段なら断るところですが・・・。」
と前置きをした上で。
「リコさんの頼みですし、面子もあるでしょうから今回は引き受けましょう。
ただ代金は結構ですよ。」
「代価を払うのは鉄則だ、只ってわけにはいかない。」
とそこは譲らないと言った感じです。
「ここでお金を貰うより、貸しを作っておいた方がいいと判断した結果ですので、お気になさらず。
マーグリッド商会に渡した分は、アーサーさんの性格上、1,2切れづつでも皆にいきわたる様にするでしょうし。
そういう時に感じて貰える恩は普段よりも大きくなることは判るでしょう?
最低限のリスクで最大限の見返りを受け取る、冒険者の在り方そのままだと思いますよ?」
「こりゃあ、高くつきそうだな。」
苦笑しながらリコさんがやれやれと言った感じで首を振っています。
「リコさんとアーサーさんには今度相談事があるときに、相談に乗ってもらえるだけでいいですよ。」
「乗るだけでいいんだったらいいけどな。無茶な要求はやめれくれよ。」
リコさんは判ったといった感じで追加のお皿を取りにいきました。
私はマスターに「貸しだとどう高くなるのですか?」と聞きました。
「ここで普通にお金で受け取るのは下策なのはわかるよね?
ここで貸しとしておくと、数年後でも問題ないわけだ。
で商会や暁の狼団を訪問する際に、あの時の貸しがあると相手に思われていた方が、訪ねて行った時に門前払いや突然の訪問の際も時間を取って貰いやすい。
さらに交渉事も楽にできるし。
損して得取れって事だね。僕の場合は突然の訪問に待たされたりするより、すぐ会って貰えるという時間に、今回は投資をしたと考えているからね」
「時間に投資というのがよくわかりません。」
「普通は突然に用事があるので会いたいと面会を申し込んでも、1日とか待たされたりするのが普通だから。
他所に行ってて不在という事でない限り、その日の内に時間を取って貰いやすくなる。1泊分の宿泊費と食費、自分の時間の自由度を考えるとかなり此方の利がある。」
「でも今後用事がなかったら、損じゃないですか?」
当たり前だと思う疑問を口にします。
「普通はそう、一般人はこの世界でもう1度会うかってのは運任せだろうけど。
僕らは冒険者だからね。色々な場所を訪れてるからこそ、逆にもう1度訪れる可能性が高い。その時に周辺の情報や注意事項を地元の人間に教えて貰えるだけでも価値がある。
情報ってのは玉石混淆だから、有益な情報を教えて貰えるだけで大きい。
特に僕の場合、不足物資の情報だけでも、儲けになる場合が多いからね。」
「なるほど、そうなんですね。」
マスターの行動理念に通じる部分の情報だと思うと有益です。
やはり考えを纏めて相談してみるのが良い気がします。
最終日である9日目の夜、私は最後の訓練を終えてから
マスターに相談があると持ち掛けました。
まぁ、マスターは私の覚悟の話だと半分思っていたようですが・・・・。
食事の後片付けの後にテント内で話をすることになりました。
私は竈の方の手伝いをしました。種火だけ残す様に灰をかけて埋めておきます。
そしてその後先に体を拭かせてもらってから、マスターと向き合って座って話をしました。
まずと前置きしてマスターに個人的な依頼として受けて欲しいと切り出しました。
自信の身の上を話すこと、そして考えられる最悪の事態について話をしたいと。
マスターは「わかった。」と一言言って聞く体制になってくれました。
そこから私は自身がサニスティ・レタ・マリア・ユーマロス=フォンリールという本名であること、
成人の儀としてフォンリール大聖堂に向かう途中で殺されかけたこと、
そこから奇跡的に助かったけど山賊に奴隷として売られたこと、
そうしてマスターに買われたこと、要点のみをできるだけ簡潔に話しました。
マスターは目を閉じて考えている感じでしたが、あまり驚きはなさそうでした。
そうして本題である依頼の話を始めました。
突き落された時の台詞から、自分の父親に不信感を抱いていること、
自身の妹が祭主と女皇になるために企んだのだとしたら、まだ救いがあるが
父親とその愛人が共謀して妹も抹殺しようと考えているのなら
ユーマロス=フォンリールの血筋が絶たれると世界的な厄災が起きる可能性があり、それを防ぎたいこと、
その為に証拠などを手に入れたいこと、
妹を排除しようとするなら今回と同じ状況でする可能性が高いことから妹の成人を迎える2年後までに調べたいこと、
これを依頼として伝えました。
マスターは少し考えて「理由としては理解できるが、自分にはメリットがない。」と言い切りました。
それも想定しています。
なので依頼完了時にできる限りの報酬と国宝となっている品も出来る限り融通する事を伝えました。
しかしマスターの答えは
「成功報酬が空手形、机上の物でしかない。全く魅力を感じないな。」
との拒絶の意でした。
そこで私は逆に尋ねてみました。
「もし依頼を受けて貰ったとして、全ての痕跡を残さず証拠を集めたり証言を聞いたりと言ったことは可能ですか?」
「それは問題なくできる。」
はっきりと断言します。
ならマスターが受けてくれる条件を自分が提示すればいいと考えました。
「依頼達成後は私の配偶者として過ごせるというのはどうでしょう?それに私の体も好きにして貰って構いません。」
そう言ったところ
「権力には興味がないし、そもそも最初の契約で体を好きにしてもいいという事だっただろ?
それにその様子だと依頼達成したら皇女に戻るという事じゃないか。
サーニャには最初に540万リール、大金貨2枚と金貨8枚の投資をしている。
2年間でそれを手放すというのはその後の報酬を考えても割に合わないし、
さらに皇女が結婚前に純潔を失っていたというのは面倒事が大きい。
下手をすると自分の身が危険になる。
そんなリスクは取れない。」
「……依頼達成後もマスターと行動を一緒するということでどうでしょうか?私は今公的に行方不明になっていますから依頼後に正式に死亡したと告知すると問題がないと思います。」
「そもそも前提のこの先ずっと行動を一緒にするというのは、君を買った時に当然の権利としてある。
だから条件の積み上げにはならないし、報酬にもならないな」
確かに言われていることは正論だと思います。
私が黙って考え込んでいると、
「ならこの話はここまででいいかな?」
と言われました。
咄嗟に「待ってください。」と言い、発想を変えてマスターに提案します。
「私はマスターとこの先も一緒に行動します。でもこの依頼を受けてくれたらマスターが自由にできないものまで手に入ると言ったらどうでしょうか?」
案の定マスターは面白そうに続きを促してきます。
「依頼達成後には、私がマスターを愛すると言ったらどうですか?
マスターでも私の心までは従わせる事はできないでしょう?」
少し挑戦的に言い、一度言葉を切り考えます。
ここで10年や20年の期限付きで提案しても多分乗ってきません。
私は間を溜めて寸時で考えたことを言います。
「期間は死が2人を分かつまで。」
マスターは龍が降りて来て道を尋ねたよう<鳩が豆鉄砲を食ったよう>な顔をして、そして面白そうに言いました。
「10年20年後の気持ちなんて自分にもわからないのに、それを
その言い回しはどの女神の聖句でも見たことがない。
今考えたか?
確かにそれなら一考の価値がある。」
そうして
「だが気持ちは表面だけじゃわからないから、そこはどうするつもりだ?」
そう問いかけてきます。
「神名契約を結ぶというのはどうでしょう?
神の名に於いて契約するので、契約違反について神から違反項目に則った神罰が与えられます。
私が契約違反をした時にマスターが指定した罰を与えてられますし、、神の判断になるので契約の公平性は保たれると思います。」
「費用はかかるが、それなら公正になるか・・・。」
そう言ってマスターは考えます。
「ただ違反したときの罰については、サーニャ本人ではなく血縁者に払って貰おう。
本人だと違反して神罰を受けて死ぬような目にあったとしても、僕としては面白くない。
その点、話を聞いている感じサーニャの身内が酷い目に合う方が抑止力が大きそうだ。」
私は「それは・・・・。」と言葉を濁す様にいうと
「そもそもサーニャがちゃんと履行すればいいだけなのだから、問題はないだろ?
それとも契約違反前提での契約を結ぶ気だったの?」
そう言われると何も言えません。
確かに無理なお願いとして、この依頼をしているのです。
「神名契約の紙は聖別されたものを使うから原案になるけど、先に作ろうか。
夜も更けて来たから体を拭いたらいいよ。出来たものを見て条件を追加したりしよう。」
そう言ってマスターは反対を向いてどこから取り出したのか紙に色々書き込んでいきます。
私も体を拭き、髪の毛簡単に拭くようにして汚れを落とします。
着替えも終わったのでマスターに声をかけました。
「サーニャからの条件の追加はあるか見て貰えるかな?違反規約については双方にあるべきだと思うから書き込んで欲しい。そう言って薄い板の上に置いた紙とペンも渡されました。」
そう言われたので色々と考えながら条件を書きました。
甲乙という名称ですが、乙が私の名前になると思いますので確認をしました。
そうして内容を見て血の気が引いていきます。
甲と乙は下記の契約を結ぶこととする
甲は乙は本契約の内容について真摯に対応を行わなければならない。
乙は甲に対して下記の項目の十二分な成果を求める。
・乙本人の害された殺人未遂に関する証拠または犯人もしくは実行犯の確保。
・乙が害された殺人未遂事に対して実父が関与していない場合、その証拠もしくは証人の確保
・乙の実母及び実妹に対する害意ある計画の有無、また実行されるとされる計画がある場合の証拠保全もしくは犯人、証人の確保。
・甲は乙に対し知りえた事柄に関して隠し事なく全て伝えなければならない。
甲は乙に対し乙の実妹が15歳である成人を迎える年明けまでに契約条件を全て報告しなければならない。
達成されなかった場合、甲は乙の下記要求を了承するものとする。
・乙の身柄の解放。
・乙に甲が支払った全ての費用や経費について乙に請求をしないこと。
・乙のその後の人生に不干渉とすること。また乙の要請なく乙と面会をしないこと。
甲は乙の要求する項目全てを履行した場合下記を正当な報酬として請求できるものとする。
・乙は履行後に直ちに甲を自身が死するまで愛すること、また甲の元より逃亡しないこと
・乙は履行後は祖国の身分を捨てること、
・乙は甲と同じ時に死することに同意すること
・乙は自身の寿命について甲に異議を唱えないこと
・乙は甲との間に子が出来た場合もどうようの愛を注ぎ子を育てること
甲は乙が報酬を払わなかった場合には契約を違反したとして下記を神罰として要求するものとする
・ユーマロス皇国の女皇及び皇女は第3国の貧民若しくはそれに近い平民を父とする子を設けること、また姉妹がある場合は父は同一人物ではないこと。
・上記女皇及び皇女は今代のみならず以降未来永劫とすること。
・乙に対し呪紋を行使し、生涯にわたり子を設けることができないようにすること
ただし甲が乙に対し理不尽な要求或いは暴力を行使し、甲が生命や精神の危険を感じた場合の報酬の不払いについては神罰の適用外とする。
最後の神罰が自分に関係のないところで母や妹などの運命に関与しているので、もう少し変更できないか聞いてみましたが、
「違反しなけりゃ問題ないでしょ?、
一番嫌われると思われることを神罰としているつもりだし、人でなしと言われても仕方がないことだと思ってるけど。」
そう言われました。
そうです私が覚悟を決めればいいだけです。
元々皇女として結婚しなければならないこともわかっていました。またどの様な殿方かわからないけれど、皇女として子を設けなければならないことも覚悟していました。
それがマスターになっただけです。
そう考えればまだ時間的にも猶予があります。ただ確認だけしようと思いマスターに聞きました。
「あの……愛するって燃え上がるような恋愛本みたいな愛ではなく、好きと言う愛情みたいな家族愛に近いものでもいいのでしょうか?…」
今更みたいな質問です。
「いいんじゃない?
それに理不尽だと思うようなことや不満とかは言ってくれればいいし。
一方的ってのも面白くないからね。確実に裏切らない存在は大きいぞ。」
そう言いました。
「それと同じ時に死ぬことってのは、マスターに殺されるって事でしょうか?
それが寿命の長さに異議を唱えないって事ですか?
それだと最後の部分に違反するような気がします。」
もう1つの疑問を聞きます。
「いや、殺しはしないよ。
もし100年や200年も生きれるなら、まぁなんだ1人で生きると寂しいだろう?
だからその時はサーニャも同じ時間を生きて貰わないといけないからね。
死ぬときも同じで1人で死ぬと寂しいからね。
僕がこの世界に飽きたとき、一緒に眠る様に死ぬことになると思うよ。」
ただ、世の中知らないことが多すぎるから飽きるまでかなり時間がかかりそうだけどね。とぽそりと独り言ちてました。
「なんにせよ、まずは計画的に2年もかけずにサーニャの依頼をこなさいと、報酬も何もないからね。
失敗したらサーニャは自由になるし、条件としては対等だと思ってるけど?」
そう問いかけてきます。
「そうですね。確かに依頼がきっちりと達成されるなら、
対価として自分が望むものを差し出すのは当然だと思います。
それが時間であったとしても。」
そう返答し、この内容で良いことを了承します。
寝る前に契約内容をもう一度考えていました。
あんな条件をつける以上マスターは失敗する気がないということ、
マスターは裏切りというのが今日までの言葉や契約事項的に嫌いだということ、
マスターが依頼を達成したら私はマスターを好きになっていないと、契約違反になること、
私はその夜覚悟を決めました。
容姿以外の部分で好きになればいいのです!
気遣いはこの旅で度々見せてくれていました。
性格が悪くなければいい、ゆっくりで良いから好きになろう、愛そう。
その思いを胸に眠りに落ちました。
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