第4話 自分の事なのに勝手に決まっていく
食堂へ降りると皆先に食事を始めていた。
忙しく動き回ってる宿の看板娘(?)にマスターが皆と同じメニューをあのテーブルに頼むというと、リコさんとアーサーさんと同じテーブルに近づき相席が良いか確認を求めていた。
「ええ、もちろんです」とアーサーさん言われてたけど
もし断られたらどうするつもりだったんだろう・・・。
私も席を勧められ席につく。
最初は当たり障りのない話題に興じていると食事が来た。
メニューは黒パン、ぶつ切りオーク肉と葉野菜の炒め物、デーコと燻製オーク肉のマトースツゥヤ風スープ。ただ量は結構多い。
皆が奴隷含めて同じ食事をアーサーさんも食べているのは彼の気遣いだろうか。
そんな事を考えていたら食事の前のお祈りを忘れるところだった。
「土の女神フォンリールの豊かな恵みに感謝し、この食事に祝福を与え給え」
そう言って私が食べ始めたら
「いただきます」と言ってマスターが食べ始めた。
初めて聞いたお祈りにちょっとだけ戸惑って私も食べ始めた。
そうすると手の甲が見えるのでアーサーさんから
「こちらに着いて慌ただしく出て行かれていましたが、奴隷契約の解除をしたのですか?」
驚いたように聞いてくる。
「えぇ、色々と思うところもありましたので」
と、さもいい話の様にしています。
でもマスターは奴隷契約の解除をしても呪紋を刻むのであれば結局奴隷と変わらないですよね
と私は声を出して嫌味のように言いたかったが我慢した。
ここで変なことを言わない方が良いと感じる。
「さて、マーグリッド商会長、明日の出発と行進日程に変更は無いようですか?
こちらは善意の同行者という事で食料や野営道具は自分たちで用意しますし、そのつもりです。勿論夜警もさせてもらいます。」
居ずまいを正してマスターがアーサーさんに問いかけています。
「はい、今日話を付けて手付金も支払っているので1の鐘が鳴った後に必要な食糧等を馬車へ搬入し、2の鐘で出発します。食料搬入している間、私は知人の奴隷商のとこへ行き、新しく買った奴隷を連れてから物資を積み込んでいる馬車へ合流予定です。
そのあとヒッペアストルムまでは天気が崩れなければ10日の日程になりますな。
先ほどコーラリール神殿に人をやって確認したところ10日程は雨が降らないので大丈夫でしょう。
野営する宿泊地も決まっていますし、そう問題は起こらないでしょう」
過不足なく準備を終えている様子のアーサーさんにリコさんも同意します。
「俺たちが奴隷商館への送り迎えに半分、もう半分は搬入の手伝いと量の確認をする手筈になってる。物資はマーグリッド商会の行者2人が納品と実物の量の契約書に間違いがないか確認、俺たちは武威をみせるためにいるようなもんで、許可が出た荷物を馬車へ積んでいくのが仕事だな」
「なるほど。それなら問題も起こらなそうですね。」
何か1人納得している雰囲気をだしています。
そして徐に
「アーサーさん、リコさん達暁の狼団の皆さんを旅の途中少し借りてもいいですか?
具体的には1人を野営地に到着してから食事の準備が終わるまでの間ですね」
リコさんが不思議そうに
「何をさせるんだ?」
と聞いてきます。
「このサーニャにバックラーとメイスの使い方を教えて貰いたいと考えまして。
自分は基本ショートソードやダガーを使うので、受け流しは教えられるのですが、盾はさっぱりなので。
報酬は金銭ではなく、この炒め物の皿の大きさ大のオーク肉のステーキ2枚を、教えて貰った晩の夕食に振る舞う形でどうでしょうか?」
「この嬢ちゃん、サーニャって言うのか!?」
リコさんにとっては私の名前の方が驚きが大きかったようです。
確かに奴隷となってから本名が喋れなかったので名前を聞かれても答えることができませんでした。
そのため青赤髪の子と呼ばれていましたし。
あ、アーサーさんも目を見開いて驚いてます。
「やはり警戒して頑なに名前を教えてくれなかったのですかね」
ちょっと気落ちした感じでアーサーさんが呟きました。
マスターはそんな雰囲気に関係なく交渉を再開しています。
「で教えて貰う事ってできます?報酬とかも交渉しますか?」
「旅の途中で新鮮な食い物は貴重だからな~。」
リコさんは腕を組んで真剣に考えています。
確かにこの数ヵ月、私も馬車の旅の食事は辛いものがありました。
何日もたつと固焼きパンと干し肉と乾燥野菜の塩味のスープ、スープが作れないお昼などは固焼きパンと酢漬け野菜とその酢を混ぜた水。
しかもそれが毎日・・・。食べたくなくても食べないといけない。
水でふやかした固焼きパンの味は・・・正直あまり進んで食べないとも思えません。
そういう意味では報酬を金銭でなく食事の提供としてるマスターは、なかなか強かだと感じます。
「いいだろう。ただ条件を追加させくれ。食事はその日の晩では無く、好きな日の晩に食わせて欲しい。しかも1日1枚づつの2日間でだ。」
「それだと後半の日に集中して全員同じ日という事も考えられませんか?」
「なら1日3人分でどうだ?どうしても行進後半に普通の飯が食いたいのは誰しも同じだからな」
「まぁそうですね。その位が落としどころだと思ってたので交渉成立ですね。」
アーサーさんも護衛の仕事に支障が出ないようなので口を出してきません。
仕方ないって思ってるのでしょうね。
「でだ、1日目は俺が受け持つから、6と8日目の夜に飯を頼むぞ。
それで盾と棍どっちを優先する?
9日しかないからな、教える時間も1鐘分もないだろうし」
「盾を優先ですが、できれば盾と棍を交互に教えて貰う感じで」
「それだと本当に使い方くらいしか教えれないがいいのか?」
「あとは実践とギルドの講習を受けさせようと思ってますから」
「なるほどな」
交渉がまとまったようです。
しかし私の事なのに勝手に予定が立っています。
「あっ、アーサーさん。
サーニャが行進の途中でへばったら、すいませんが行者台に乗せて貰えますか?
十中八九どこがでへばると思うんですよね。」
「慣れてないならそうなるだろうな。」
リコさんも同意しています。
「俺たちの誰かを降ろしてでも乗せればいいだろ。」
アーサーさんに聞いてましたけど、護衛等の配置はリコさんに全権を任せてるので問題ないようです。
そこからは他愛のない雑談をして、
リコさんはこういう旅の途中ではお酒を飲んだりせずに過ごして、団の他のメンバーに譲って事とか色々気を使っていることを教えて貰いました。
ちなみにぶつ切りオーク肉と葉野菜の炒め物はちょっと油濃かったけど美味しかったです。デーコと燻製オーク肉のマトースツゥヤ風スープはさっぱりとしたデーコと少し辛めのスープでした。少し辛いのは、この辺りの特産の香辛料なのでしょう。
でも量が多くて全部は食べきれませんでした。
残った料理をみて、マスターが食べないなら貰うよっと言って残りを食べていましたが、
マスターって私より小柄なのにどれだけ食べるんでしょうか。
お腹一杯になって部屋に帰ると
マスターが出て行ってお湯の桶を2つ持って帰ってきました。
「生活魔法のクリーンで済ましてもいいけど、
何日も体を拭いてないし、お湯を使いたいだろうと思ったんだが?」
恥ずかしかったら外にでてるけど、手伝った方がいいか?」
マスターなりの気遣いみたいです。
どうせ裸は見られるので、諦めて自分が楽な方を選びます。
「手伝って貰えると助かります。」
「でも前は自分でやってね」
と言うと石鹸なんかを準備し始めました。
その間に私はワンピースを脱いでいきます。
皇宮では誰かに手伝って貰ったりするのが普通でしたね。
裸になると、私は前側、マスターが後ろの部分をお湯で拭いていきます。
体を拭いてさっぱりしていると
「髪を洗うからしゃがんで」と言われ石鹸で髪を洗われました。
その後髪に香油を塗られ、最後使ってないお湯で髪をすすいで水気を切った後
「ホットウォーム」と唱え、髪を乾かしてくれました。
「生活魔法のレベル3でクリーンやホットウォームを覚えるから、使えるだけで貴族家のメイドになれるぞ」
とマスターが教えてくれましたが、そもそもレベルと言うのがよく分からないのですが?
そう疑問を口にしようとする前に
「呪紋を刻むからベッドに横になって」
と言われ、横に寝ころびした。恥ずかしいので薄い布団を掛けていると
「下腹部が見えてないとダメだから」と言われ
下腹部辺りまでシーツを布団をめくられてしまいました。
私は恥ずかしさで慌てて胸を隠しましたが、マスターは何も見ていなさそうにして
私の下腹部に右手を置いてきました。
そして空中を見ているかと思うと、「こうやるのか?、呪紋起動」
と独り言を言い終わると、下腹部が熱い感じになってきます。
そしてそれは直ぐに痛みに変わりました。
お腹のを思いっきり握られたような痛みが襲ってきます。
私は反射的に両手でマスターの右手を払おうとしたが、
左手で両手を押さえつけらた。
「そんなに時間はかからないはずなんだが・・・」と言いながらマスターは空中を見たままだった。
そして痛みが激しくなっていき、声が出るのを我慢できなくなりそうな時に
私は痛みによって意識を手放した。
はっっとして飛び起きると、マスターが身支度をしている。
窓の外が明るい。
「もう少ししたら起こさないとダメかと思ってたけど目が覚めたか」
私は挨拶もせず自分の下腹部を確認する
そこには左右に黒い@のマークの様な入れ墨があるだけだった。
「昨日は痛い思いをさせて悪かった。あのスキルを使うのは初めてで色々判らないことが多くてね。正直すまんかった。
とりあえずこれが肌着と着替えなんで着替えてね。」
そう言われたので、謝罪は受け取ることにします。
立場的には奴隷と同じだと思っています。
そして受け取った肌着をみると・・・
胸の部分は昨日買ったので問題ないのです、ですが渡された下の部分は丁字の見たことのない物でした。そして5本指の長い筒。
とりあえず上だけ身に着けて質問します。
「あのこの丁字の物はどうつけるのですか?あと長い筒は足に履くのですか?」
「その丁字のは越中ふんどしって言って細いひもの部分を腰で蝶々結びにして、そこへ太い布、前垂れを股にくぐらせて紐下に挟んで前へ垂らして履いて、5本指の方は軍足と言って靴下の紐が太いやつ、前に作った試作品だから踵の部分はないから。」
「あの・・・女性の下着としてこれは・・・、」
私の知っているどの常識にも当てはまりません。
恥ずかしいのをかなり我慢して普段と同じ感じで言います。
「だけど他のは今ないよ?他の荷物は全部持ってるから準備が出来たら早めに降りて朝食を食べて、そこで待機しておいて」
そう言ってマスターは部屋を出ていきます。
「はぁ・・・。」
私は深いため息をついて諦めて思考を変えます。
言われた通りに肌着を履いて足部分だけのズボンをガータベルトに結び、昨日買ったブーツを履いて上に木綿色のチェニックを着て腰の部分に紐を括ります。
髪を手櫛で何度かといて食堂へおります。
もう皆出払ってようで、誰もいません。朝食1人分が用意してあるテーブルで食事をし、井戸で顔を洗って食堂で座って待っていると、マスターが帰ってきてフード付きのマントを手渡してきましす。
「2の鐘より早いけど準備が整ったから出発する。」
そう言って手を掴んで宿屋を出て馬車がある方へ向かっていきます。
1の鐘に気付かない程疲れていたみたいです、いえ痛みのせいかもしれません。
「配置は3台めの馬車の後ろを付いて行く。今日は兎に角歩いて野営地まで行くことが目標だな。」
そう言って掴んでいた腕を軽く叩かれます。
商隊はもう準備が出来ていたようでマスターとリコさんが少し会話しリコさんがアーサーさんと軽く打ち合わせをしてからリコさんが声を張り上げました。
「よし出発だ!」
流されるような感じで私の旅が始まりました。
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