第3話 しっかりしよう
その後マスターが契約書を持って帰ってきました。
そこにはアーサーさんも一緒に居て、大金貨を受け取ったからか心持ウキウキしています。
そこへ丁度リコさんも来て
「装備や馬車、全て確認が終わった。すぐに出発できる。」
簡潔にアーサーさんへ報告して商隊は出発しました。
アーサーさんは、この馬車の御者台にいるようです。マスターとの話し声が聞こえてきました。
「折角オークの死体を持って貰っても、このままだと査定で時間がかかり、マトースツゥヤを明日発つのは難しそうですね。」
「マトースツゥヤの次はどちらへ?」
「店のあるヒッペアストルムに帰えります。マトースツゥヤで知り合いの店に顔をだして、いい奴隷がいれば仕入れますが。」
「でしたらヒッペアストルムまでご一緒させて頂いていいですか?たしか1万人以上の大都市だったと記憶してますし。武具もいいものがあると思いますので」
「えぇ。構いませんが。しかし冒険者の方にしては言葉遣いが・・・」
「そうだな。冒険者らしくないな。そんなんじゃ舐められて仕方ないだろ」
急にリコさんが話に割って入ります。
「基本ソロでやってますし、臨時パーティでは斥候やポーターですからね。舐められてる位で丁度いいんですよ。ランクだって3スターですし」
マスターが答えています。この喋り方は癖みたいですね。
「3スターがオークハイの首を刎ねたのか!?」
リコさんはかなり驚いてるようです。
「まぁ、舐めてこのマジックバックを奪おうとした人達は許しませんでしたけど」
とマスターは何の気なしな感じで話しています。
「とりあえず俺たち暁の狼団の連中には言っとくよ。手をだすとやべぇってな」
リコさんは何か感じるものがあったのかそう答えています。
何事もなく、マトースツゥヤへ着き。通行税を払って街へ入ります。
今晩泊まる宿に着き、宿泊の手続きをし奴隷を4人部屋などへ護衛の方が案内します。
その後リコさんが
「今日の夜警番以外は夕食で1杯飲んでいいぞ。今日晩非番のものは遊んでこい」
と言って非番らしき人達へお金を渡しています。
マスターも宿泊手続きをしたようでこちらに戻ってきます。
「これから夕食まで忙しいぞ、とりあえずこっちだ」
と言って私の手を掴んで引っ張っていきます。
そうして最初に着いたのはレイラール神の教会でした。
ここは主に商人などの信者が多い神として記憶しています。
この世界の金属とお金を司り、金属を奉納すると金貨などが祭壇に現れるとされています。
「どこの教会でもいいが、ここが一番近かったからな」
そういって教会の中へ入っていきます。
そして見習いと思われる修道女へ
「奴隷契約の解除をお願いしたい、司祭様はおられるか?」
と問いかけます。
私は奴隷契約の解除という事に吃驚しました。
買われてから今までの流れで奴隷契約を解除するという話が全くなかったからです。
修道女が「こちらへ」と司祭様の元へ案内し、私は目を白黒させてついて行きました。
祭壇のある小さな部屋へ案内され、司祭がマスターと話をして奴隷契約に含まれる全てを解除して欲しいと話しています。
そして司祭が祭壇へ向かい手を広げ儀式を始めました。
「おぉ、我らが金なる神レイラールよ、この者の奴隷となりし契約は全てここに終了しせり、大いなる神の祝福を」
その言葉のあとに祭壇から金色の光が広がり、手にあった奴隷紋が消えていきます。
同時に奴隷契約書が浮き上がり空中で真ん中から燃えて灰も残らず消えてしまいました。
「司祭様とレイラール神へ感謝を」
そうマスターが言い、司祭へ「心ばかりですが」と数枚の金貨を渡しています。
その後に初めに案内してくれた修道女が教会入り口まで、もう一度案内してくれました。
「よし、次だ」
そう言ってマスターがまた私を引っ張っていきます。
そうして着いた先は冒険者ギルドでした。
中へ入ると強面の冒険者と思われる方が多々いました。
その中を迷いもなく引っ張って連れて行かれた先には納品カウンターと書かれていました。
「採取クエストの納品をしたい、これで間違いないことを確認してくれ」
と言って背負っていた背嚢をおろして中から依頼品をカウンターへおいていきます。
あれはマジックバックと言ってましたけどどうなっているのでしょうか?と軽い疑問を感じつつ、確認作業を待っていました。
「この後で冒険者登録だけしておく、そしてパーティだけ組んだ状態にする、正式な
パーティ登録なんかは次の街でいいからな。正式なパーティだと名前が必要なんだ」
そうマスターが説明してくれます。
ギルド職員の確認が終わったのか、依頼書に完了印をもらってクエストカウンターへ行きました。
「報酬はカードへ」
マスターはそう言って銀色のカードを青色の板の上に置き、端を触っています。
一瞬カードが虹色になったと思ったら直ぐに収まりました。
「ありがとう」
そういうと登録カウンターへ私を引っ張っていきます。
「冒険者登録を頼む」
そう言って登録用紙を受け取り
「とりあえず名前だけでいい。他は空欄で問題ない」
そんな事を言われても本名はこの3ヵ月間書くことも話すことも出来ませんでした。
でもマスターは私を買った人です。奴隷契約を解除したのでこの後どうなるかはわかりませんが、多分普通に開放されないとは思います。
私はお母さまや妹から言われていた愛称の「サーニャ」の名前を書き込みました。
書き終えて少し悩んでいると、ひょいっと登録用紙を取られて
「これで登録を頼む」
と職員に手渡されました。
そしてマスターが先ほど持っていたカードを青い板の上におきます。
「これのこの部分の端に指先を置いてください」
ギルド職員の方が言うのでその通りにします
するとカードが虹色に光始めました。
「その板の上でそこに触ると魔力が流れるんだ。個人個人で魔力は微妙に違うからギルドカードは偽造ができない。なくすと再発行に金貨1枚とられるぞ。お金がなかったらギルドが貸してくれるがクエストの旅に一定量のお金を返済するまで取られる。」
マスターがギルドカードの説明をしてくれます。
職員がカードに枠を置いてサーニャと名前の部分に活字を置いていきます。
そして上から1つ1つハンマーで叩きました。
吃驚していると
「ギルドカードは神珍鉄で出来ているから、魔力を流した状態だと文字を打刻したりできるんだ。まぁ普通無くさない限りランクアップとこの時しか見ることがない光景だな」
マスターが教えてくれます。
作業が終わったのか
「説明ありがとうございます。それで規約はどうしましょう?」
とギルド職員が聞いてきます。
「こちらで教えておくので大丈夫だ、それより臨時のパーティ登録を頼む」
マスターはそういうとギルドカードを渡しました。
ギルド職員が少し大きめの銀色の板を取り出して2人分のギルドカードを置きます。
「パーティ登録に異議がないならギルドカードのここへ指を置いてください」
そう言われて私は指を置きます。
また一瞬虹色になってカードは元の銀色に戻りました。
そうして職員がギルドカードを渡してくれます。
「登録おめでとうございます、冒険者ギルドは貴方を歓迎します」
そう聞くや否や「ありがとう」と言ってマスターがまた私の手を引いて早足で歩いていきます。
「カードの一番上の7芒星がランク、その下が名前、そして一番下にパーティメンバーの名前がある。サーニャは登録したばかりだから1スターだね。」
初めて名前を呼ばれてビックリしました。
今まで名前を聞かなかったのはどうしてでしょうか?
そしてその後武器屋へ行きマスターから「切ったり、血が噴き出るのを見ても大丈夫か?」と確認され、今まで自分がそういう事をしてこなかったので「苦手」だと答えると片手棍を渡されました。
「ウーツ鋼のメイスだから、鉄製より丈夫だし錆びないから丈夫だぞ」
と言われました。
その後防具屋に行きましたが
「鎧とかはなぁ・・・、ヒッペアストルムの方がありそうだから、盾だけ買おう」
そう言って
ウーツ鋼の板を張ったバックラーを購入した。
その後靴屋で昼用の靴を2足と夜用を1足、着替えの服を購入して宿に帰ってきた。
宿へ戻るとマスターは鍵を受け取り、一緒の部屋へ入ると・・・
ベッドは1つしかなかった・・・
軽くやっぱりという絶望を感じていると
皮鎧を脱ぎながらマスターが
「ベッドに座って、食事まで時間がないから色々な条件を話したい」
そう言われました。
身を強張らせてベッドに座ると
鎧と帽子を脱いだマスターが椅子に座り話始めました。
「とりあえず僕は君をまだ信用していない。奴隷契約は解除したけど代わりに呪紋による契約をしてもらう。とは言ってもそこまで厳しい条件は付けないつもりだが」
そういうと条件を並べてきました。
・逃走防止のために呪紋を刻むこと
・今後パーティとして活動すること
・使う武器、覚える魔法、ステータス、スキル取得に文句を言わないこと
・他パーティとの野営以外は裸で寝ること、また夜伽も含まれること
と基本的な4つを上げてきました。
「とは言っても夜伽なんかは覚悟も必要だろうし、ヒッペアストルムに着くまでに心の準備をしてくれればいい、まぁ道中10日はかかるからそれ以降だな」
と言われました。
今日晩からと言われないだけよかったです。結論が先延ばしになっただけの感じを受けますが一安心です。
あと意味の分からないステータスとかスキルとかの言葉がありますが、まず
「あの・・・呪紋とはなんでしょうか?聞いたことないのですが?」
私は疑問に思ってる事を聞きます。
「逃走防止用の保険だな、子宮、、、子袋に呪いでもって紋を刻むって事だね。試したことはないけど多分絶対大丈夫。ただ刻むときにかなり痛いと思うので覚悟しておいてね」
と親指を立てたサムズアップをされ、
これがいいねという意味のサインだと知ったのはかなり後になってだった。
私が一瞬何を言われているか理解できないでいると
「まぁやると言っても寝る前だな。食べたものを吐き出すとかはないので晩御飯はきっちり食べておくように」
と追加で言われたので、慌てて
「・・・・逃走すると子宮がどうにかなるのでしょうか?」
恐る恐る聞いてみる。
「術者の任意のタイミングで痛みを与える、子宮を潰すことも出来るらしい。もちろんポーションや回復魔法では治らないみたいだな」
と自分で行うのに効果がよくわかってないようです。
私はかなりの恐怖で心臓がすくみ上ります。
「逃げなけりゃ問題ないし、そもそも逃げれるはずもないと思うから心配するだけ無駄無駄」
と手を振りながら言います。
「でこちらの条件は飲める感じかな?どうしてもダメならどこかの上級娼館にでも売り捌くけど」
と腕を組みながら軽ーい感じで聞いてきます。
私にとって本当に一生に一度の決心と同じなのに・・・と思いつつ考えます。
多分これを断るとダメな気がします。
なので覚悟を決めて言いました。
「冒険者として私を使い潰したり、囮にしたり、酷いことをしないのであれば条件を呑みます」
私がそう言うと
「あ~、逃走防止というのがそういう風に捉えられたか。それは言葉が足りず悪かった。今言われたことはしない。折角ゼロから育成できるのに殺すようなことはしないよ」
マスターは腕を組んで首を縦に振ってうんうんと言っています。
そうして何かメモの束みたいなものを取り出し横線を引いていきます。
私は不思議に思い
「それは何ですか?」
と尋ねます。
「ん?な~に、これは死ぬまでにやりたい事リストってやつだ」
マスターの声が弾んで聞こえます。
私が呑んだ要求の中に死ぬまでにやりたいことがあったのでしょう。
気になりますが聞いてはいけない気がします。というか知りたくないと思います。
知ってしまうとなんか気持ち悪くなりそうです。
「そろそろご飯だ、食堂へ行こう」
そう言ってメモの束をどこかへ仕舞ってマスターが立ち上がります。
私も自分自身でした初めての決断を胸にベッドから立ち上がりマスターの後を追いました。
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