どちらにとっての断罪か

 いよいよ始まる断罪。

 彼奴の恋人をこれ見よがしに隣に侍らす。

 彼女は顔を俯かせている。

 俺からはその顔から感情をうかがい知ることはできない。

 ただ、今日この場で何が行われるかはうすうす気が付いているのだろう。

 おびえる気持ちを抑えるように自分の身体をただひたすらに抱きしめ続けている。

 「後夜祭を前に、個人的にこの場を借りて俺を裏切った恋人とその相手である間男を断罪させてほしい!」

 いよいよ始まった。

 彼奴の隣には、俺の今の恋人である彼女が立っている。

 彼女が、俺が彼奴の恋人と浮気をしていると証言する手はずになっている。

 何せ、俺が彼女に頼んで彼奴の恋人との浮気現場の写真(二人でラブホテルに入るところ)や学校の空き教室や部室で行為にふけるところを動画で撮影させたのだから。

 まあ、隣にいる彼奴の恋人はそんな写真や動画があるだなんて思いもしないだろうけどな。

 さて、俺も彼奴の妹とその親友によって手に入れた彼奴の過去を暴露してやろうじゃないか。

 スマートフォンを制服のポケットから取り出し、動画を学内サーバーへアップし始める。

 これが公開されれば、彼奴が今まで築き上げてきた「人当たりのいい高校生」という仮面が剥がれ落ち、誰一人近づかない凶悪な犯罪者になり果てるだろう。

 彼奴も、裏で何があったか知っていた彼奴の両親もこれで破滅だ。

 彼奴の妹やその親友は何も知らないし、無実なのは間違いないことだが、俺の復讐のために強姦され弄ばれた2年間とこれから訪れる地獄、どちらがより幸せだったと感じるだろうな。

 今更情を抱くだなんて笑える話だ。

 復讐のために情はどぶに捨てたというのに……。

 「皆、これを見てくれ。これが浮気の証拠だ」

 講堂のスクリーンに動画が映し出される。

 彼奴が俺を見て、ニヤリと嘲笑を浮かべる。

 ば~か、知らないってことは幸せだよな。

 彼奴にとっては、俺と自分の彼女のあられもない淫らな行為の画像だと思っていることだろうさ。

 「え!?嘘……」

 「お、おい、あれって……」

 「ありえないだろう……」

 「いやぁぁ……」

 「ひでぇ……」

 「あいつ、あんなことしてたなんて……、もう信じねぇ」

 講堂内にいる全校生徒が動画に忌避感を滲ませながらも見入っている。

 隣にいる彼奴の恋人も顔を真っ青にしてスクリーンに見入っている。

 彼奴は勝ち誇ったように勝利宣言をする。

 「これで分かっただろう。俺は彼奴を断罪する」

 ふふふ、あははははははは……。

 腹の底から笑いが込み上げてくる。

 実際、声をあげて笑っているのかもしれない。

 周りの生徒が俺のことを忌諱な顔をして、見ていたのだから。

 彼奴は俺を断罪したつもりになっている。

 だが、スクリーンに映し出されたものを見れば、断罪されるべきはお前なんだよ。

 次から次へと動画が変わっていく。

 全校生徒のスマートフォンには次から次へと彼奴の犯罪を実証する動画が送り付けられている。

 いや、全校生徒だけじゃない。

 全世界に向かって動画が送り付けられている。

 唯一、俺が謝るべきは動画に映っている女性だけだ。

 どんなに顔にモザイクをかけたところで、いずれは分かってしまうだろう。

 動画の中で、彼奴に辱めを受け、それでも必死に抵抗を続ける女性。

 それでも、無勢に多勢。

 抵抗も徐々に弱まり、何十人という男たちに蹂躙され続ける女性。

 女性にとってその悪夢はその日だけでは終わらなかった。

 毎日毎日、彼奴を含めた複数の男達に学校の空き教室で、図書室で、部室で、トイレで蹂躙され続けた。

 そして自宅でさえも安住の地ではなかった。

 俺が気が付いたときは、すべてが遅すぎた。

 今でも思う。

 あの時、1ヵ月間の特別留学などに行っていなければ、こんなことにならなかったのではないかと……。

 いつも一緒だったのに……。

 彼奴が女性に邪な思いを抱いているのも知っていたのに。

 だから、万全に対策をとっていたのに裏切られた。

 身も心もボロボロの女性が、あの時留学から戻ってきた俺の前で唯一願ったこと。

 それは、たった一晩の想い出だけだった。

 朝、俺が目覚めたときには、女性は微笑みをたたえながらあの世に旅立った後だった。

 だから、この動画は俺にとっても女性を守れなかった俺を断罪する証拠だ。

 講堂の舞台の上で、必死に事態の収束を図ろうとして右往左往している彼奴は、俺を憎しみのこもった眼で見ている。

 良いぜ、決着をつけようじゃないか。

 俺は一人講堂を後にする。

 


 

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