A9
結果発表前の最終全体コラボ。企画参加者8名+助っ人2名の計10名によるVALEXコラボに、界隈は大いに沸き上がっていた。同時視聴者数は10万を超え、最初の企画発表時に勝るとも劣らない賑わいを見せている。SNSでは既にトレンド入りを果たし、今なお拡散され続けている。
VALEXの基本的なルールは主に三つ。
一つ目は、二つの爆破ポイントを攻守に分かれて戦うということ。攻める側はポイントに爆弾を設置し爆発まで守りきる、もしくは敵の全滅が勝利条件である。対して守る側は時間制限までポイントを守りきる、もしくは敵の全滅が勝利条件である。
二つ目は、各キャラクターに役割があるということである。先陣を切って戦いを仕掛けるスパイカー、味方を支え守るブロッカー、試合の流れをコントロールするセッターなど役割は幾つもある。合計20以上のキャラクターの中から最終的に5名を選択し、その役割に応じて戦術を考えていかなければならない。メンバーやマップによっては構成が大きく変わり、シンプルなゲームとは思えない戦術の幅広さが売りの一つでもある。
三つ目は、13ラウンドを先取したチームの勝利ということである。前半12ラウンドに加えて、勝利チームが決まるまでの後半戦。また、延長戦として、取得ラウンド数が12-12になった場合には2ラウンド先取したチームの勝利となる。尚、攻守は前半終了と共に切り替わり、延長戦になった場合には1ラウンドごとに攻守が切り替わるシステムとなっている。
基本的なルールはこんなところだ。FPS経験がない者でも理解しやすく、それでいて見応えも十分なゲームということもあり、配信者界隈でもVALEXをメインに活動している者も少なくない。5期生である「朝寝むい」や「夢見るな」もその内の一人と言えるだろう。
ただし、今回の全体コラボにおいては幾つかの追加ルールがある。
その内の一つめが「BO3」形式を採用している点だ。BO3というのは、分かりやすく言えば「3回勝負で2本先取した方の勝ち」ということである。場合によっては2戦目で決着する場合もあれば、最終3戦目まで勝敗の行方が分からない場合もある。一回きりの「BO1」と異なって実力が出やすく、この手のイベントや大会で多く採用されている形式だ。
もう一つが、前半と後半の間に挟まれるハーフタイムと、各チーム1MAP2回まで取れるタイムアウトの存在だ。ハーフタイムは5分間、タイムアウトは2分間の休憩時間が設けられている。この時間をどう使うかはチームによって自由だが、主にはやはりどう戦っていくか話し合うために使われるだろう。
今回のVALEXコラボのチーム分けは以下の通りだ。
────────
【Aチーム】
①カナタ・ノミラーイ(リーダー)
②召巻イナム
③シュン・ショータ
④藤野紫咲
⑤朝寝むい(経験者兼助っ人)
【Bチーム】
①夢見るな(リーダー兼経験者)
②陽
③ベリムーサ・ベリベリ
④まみむ
⑤累々ルイ(助っ人、2期生)
────────
両チームのパワーバランスはほぼ互角だと言っていい。唯一の懸念は、るなさんがリーダーとして戦いの
VALEXというゲームの仕様上、コンマ一秒の差でさえ致命的な隙になりかねない。しかも、相手に「朝寝むい」というライバルがいるなら猶更だ。それが原因かどうかはさておき、1MAP目は相手に取られてしまった。次取られたら負けという試合で、スナイパーを持ったるなさんや、助っ人として参戦してくれたルイさんの活躍もあって何とか2MAP目を取ることが出来た。
そして迎えた3MAP目。泣いても笑っても最後の一戦。お互いに負けられない状況の中、僕たちBチームは8-4というラウンド数で前半戦を終えていた。
『8-4って、まみむたちが勝ってるんだよね?』
「ラウンド数で言えば、確かにそうですね」
『微妙な物言いですね、陽くん』
『まー、攻めマやしなぁ』
ベリさんの指摘に、ルイさんが独特な訛りで答える。VALEXに限らず、この手のFPSゲームにはマップによって攻めが有利な場合もあれば守りが有利な場合もある。俗に「攻めマップ」「守りマップ」と言われるのだが、今プレイしているマップはかなりの攻めマップとして有名だ。そして、Bチームはこれから防衛側。ラウンド数だけであれば前半で8本と中々の好成績だが、むしろこのマップで防衛側に4本も取られてしまったことの方が大きい。
しかし、たった5分のハーフタイムを浪費する余裕はウチにはない。今は一秒でも長く後半に向けて話し合い、皆の気持ちを一つにする必要がある────のだが。
『…………ごめん、私がもっと敵を倒せてたら』
るなさんの悲痛そうな声色に、まみむちゃんらが慰めの言葉をかける。ここに来て、るなさんの疲労がピークに達していた。肉体的な疲れか、精神的な疲れかはさておき、経験者枠としてのプレッシャーと指示役としてのタスク量の多さに限界が来たのだろう。それは試合中のエイムの乱れとして誰の目から見ても明らかな程はっきりと表れていた。
それを責めることは出来ない。この試合で誰よりも真剣で、誰よりも努力していたのが誰なのか、少なくともチームメンバーは分かっている。とはいえ、このまま行けば試合に負けてしまうことは目に見えていた。あちらのチームには経験者のむいさんがいる。それに何よりあのカナタがいる。このままでは後半戦、彼らの勢いままに成す術なく蹂躙されてしまうかもしれない。
しかし、るなさん以上の経験者はいない。辛うじて中級者と呼べるのが二人。しかもその内の一人は「ベストカップルGP」の参加者ではない助っ人に過ぎない。それを分かっているからこそ、ルイさんも必要以上に前に出てこないのだろう。であれば、誰がやらなければならないかは明白だった。
「後半、僕がオーダーしてもいいですか?」
『……で、でも』
「任せてください。2MAPやって、何となくコツは掴みましたから。それに、ゲームIQの高さは五期生ふたりのお墨付きですよ?」
『それは頼もしい』
『まみむは何でもいいよ!』
『ま、それしかないかぁ~』
『…………分かりました、オーダーは任せます。その代わり敵を倒すのは任せてください』
「それはもちろん。大いにアテにさせてもらいますから」
るなさんの声にやっと生気が戻り始めた。他のみんなも2MAP以上やって疲れているだろうに、その声は活気に満ちている。やはりリーダーに元気があるのとないのとでは部下の士気がまるで違う。
「では、後半の戦い方についてですが────エリアひとつ捨てちゃいましょう」
◇
012を語るスレ ×××ちゃんねる目
214 名無しのリスナー ID:XxXxXxxx
うおおおおおおおお遂に最終全体コラボだあああああああああ
215 名無しのリスナー ID:xxXXxxxx
この前始まったばっか気がするのに、もう明日には結果発表でおしまいなのか……
216 名無しのリスナー ID:XxxXxxxx
終わってほしくないはずなのに、終わりをしっかり見届けたい!
217 名無しのリスナー ID:xxXxXxxx
>216
その気持ち分かるわ。
まだまだ続いてほしいけど、この物語の結末がどうなるのか気になる
218 名無しのリスナー ID:xxxxxXxX
最後はVALEXコラボか……
219 名無しのリスナー ID:XxXxxxxx
チーム分けどりゃっ
【Aチーム】
・カナタ・ノミラーイ(リーダー)
・召巻イナム
・シュン・ショータ
・藤野紫咲
・朝寝むい(経験者兼助っ人)
【Bチーム】
・夢見るな(リーダー兼経験者)
・陽
・ベリムーサ・ベリベリ
・まみむ
・累々ルイ(助っ人、2期生)
220 名無しのリスナー ID:xXxXxxxx
何度見ても豪華なメンツやな
221 名無しのリスナー ID:xxXxxxXx
1戦目から同接めっちゃおるな
222 名無しのリスナー ID:XxXxXxxx
最近この界隈も結構人増えてきてるけど、それでも10万越えは稀
223 名無しのリスナー ID:XxxxXxxx
最大手の合同企画とかでたまに見るかなってレベル
224 名無しのリスナー ID:xXXxxxxx
012も大きくなったなぁ
225 名無しのリスナー ID:XxXxxxxx
VALEXはどっちが優勢?
226 名無しのリスナー ID:xxXXxxxx
>225
今のところ互角って感じ
227 名無しのリスナー ID:xxxxxxXX
>225
個人的にはAチーム優勢やと思う
やったら分かるけど、オーダーしながらエイムにも集中するのまじで難しいんよ
るなちゃんがどこまで持つかーって感じな気がする
228 名無しのリスナー ID:XxXxxxxx
>227
初心者もおるからオーダー大変そうやしなぁ
229 名無しのリスナー ID:xxXxXxxx
るなちゃん頑張れええええ!!!!
230 名無しのリスナー ID:XxxXxxxx
俺はどっちを応援すりゃいいんだ!?
231 名無しのリスナー ID:xxXXxxxx
>230
どっちも応援すりゃええ
232 名無しのリスナー ID:XxXxXxxx
あっ
233 名無しのリスナー ID:xxxxxXxX
結構いいとこまで食いついたけど、1マップ目はAチームの勝ちか
234 名無しのリスナー ID:xxXxxxXx
端から見てても、るなちゃんの負担すごそう
235 名無しのリスナー ID:xXxXxxxx
最後1vs1も外してたしな
236 名無しのリスナー ID:XxXxxxxx
かといって他にオーダーできそうなのもおらんしなぁ
237 名無しのリスナー ID:xxXXxxxx
むしろ中級者なのにオーダーしてるカナタが凄いわ
238 名無しのリスナー ID:XxXxXxxx
むいちゃんのサブオーダーがあるってのも大きそう
239 名無しのリスナー ID:XxxxXxxx
Bチームは後がねえな
240 名無しのリスナー ID:xXXxxxxx
2マップ目もるなちゃんがオーダーするっぽい
241 名無しのリスナー ID:xxXxXxxx
大丈夫なんか?
242 名無しのリスナー ID:xxxxxXxX
うおおおおお、るなちゃんのスナイパー覚醒しとる!
243 名無しのリスナー ID:XxXxxxxx
四人キルすげええ! あと一人で「ヒーロー」やったやん!
244 名無しのリスナー ID:xxXXxxxx
>243
ヒーローってなんぞ?
245 名無しのリスナー ID:XxxXxxxx
>244
1ラウンドで5人倒して勝つとヒーローって言われるんや
246 名無しのリスナー ID:xxXxXxxx
助っ人のルイがめっちゃ頑張ってる!w
247 名無しのリスナー ID:xXxXxxxx
最終マップまで行ってくれ~!!
248 名無しのリスナー ID:xxxxxXxX
うおおおおお!
2マップ目はBチームが取った!
249 名無しのリスナー ID:XxXxxxxx
るなちゃんのスナイパーから勢いで持ってったな
250 名無しのリスナー ID:XxXxXxxx
でもやっぱりるなちゃんのエイムにいつものキレがないように感じるわ
251 名無しのリスナー ID:XxxxXxxx
2マップ目は初心者組も頑張ってて良かった
252 名無しのリスナー ID:xXXxxxxx
まみむのダブルキルは痺れたわ
253 名無しのリスナー ID:XxXxxxxx
最終マップきた!
しかもMycraftで五期生が作ってたとこやん!エモ!
254 名無しのリスナー ID:xxXxxxXx
ついに最終マップ……!
まじでどっちが勝つんや
255 名無しのリスナー ID:xxxxXxXx
>254
Aチーム予想。
さすがにるなちゃんの体力が持たんと思う
256 名無しのリスナー ID:XxXxxxxx
はるのゆめ推しとしてはBチームに頑張って欲しい
257 名無しのリスナー ID:xxXXxxxx
みんな真剣やな
258 名無しのリスナー ID:XxXxXxxx
>257
紫咲姉さんとか、ベリさんとか、こんな熱くなってるの初めて見た
259 名無しのリスナー ID:xxXxXxxx
推しの新しい姿を見るもよし。
ベストカップルGPってちゃんと良い企画やったんやなぁ
260 名無しのリスナー ID:xxxxxXxX
俺たちも最後まで応援しようぜ!
261 名無しのリスナー ID:xXxXxxxx
るなちゃん、まじで調子悪そうやな
262 名無しのリスナー ID:XxxXxxxx
ルイくんと陽くんの方が成績良いもんな
263 名無しのリスナー ID:xxXXxxxx
>262
それくらいオーダーとエイムの両立が難しいんよ
264 名無しのリスナー ID:xxXxXxxx
>261
前半終わって8-4ならそこまで悪くなくね?
265 名無しのリスナー ID:XxXxxxxx
>264
このマップが圧倒的に攻撃側有利のマップなんよ
むしろ4ラウンドも守られたのが問題
266 名無しのリスナー ID:xxXxxxXx
るなちゃんがいつもの調子だったら10-2くらいには出来ただろうに
267 名無しのリスナー ID:xXXxxxxx
お、後半は陽がオーダーすんのか
268 名無しのリスナー ID:XxXxxxxx
>267
マ? でも陽ってこのゲームそんなやってなくね?
269 名無しのリスナー ID:XxXxXxxx
>267
いや、正直今のるなちゃんがやるくらいなら、陽に任せた方が勝率は高いと思う
270 名無しのリスナー ID:xxXXxxxx
陽「任せてください。ゲームIQの高さは五期生ふたりのお墨付きですよ」
夢「オーダーは任せます。その代わり敵を倒すのは任せてください」
ま「みんなで勝と~!」
ベ「ここまで来たら勝ってやりましょう」
累「やっちゃろうや!」
271 名無しのリスナー ID:xxxxxXxX
>270
Bチームのみんなが温かくて泣きそう
272 名無しのリスナー ID:XxxXxxxx
>271
Aチームだって負けてねえから!
カ「オーダーしんどいわ!」
朝「あはは、変わろっか?」
イ「むいちゃん甘やかしちゃだめだよ」
紫「まあ確かに。ここまで来たら最後まで頑張ってもらいたいわね」
シ「僕、カナタ先輩のオーダーで勝ちたい!」
カ「っ! しゃーねえなぁ! お前らみたいなの纏められるの俺くらいしかいねーしな! 勝とうぜ、みんな!」
イ「もし勝てたらデートしてあげよっか?」
カ「急に勝ちたくなくなってきたわ」
朝「私と陽さんのためにも勝たせてくださいね!」
273 名無しのリスナー ID:xxXxxxXx
>272
Aチームは楽しそうだなw
274 名無しのリスナー ID:XxXxXxxx
陽のオーダーまじか
275 名無しのリスナー ID:xxXXxxxx
ん? これってどういうこと?
276 名無しのリスナー ID:XxxXxxxx
VALEXは基本的にαとβの爆破ポイントを守らなきゃなんだが、陽はひとつのポイントを全員で守って、もう一つを捨てて戦ってる
277 名無しのリスナー ID:xxXxXxxx
>276
それって作戦的にどうなん?
278 名無しのリスナー ID:xxxxxXxX
>276
基本的には良くない。ただ
・圧倒的に攻撃有利マップ
・初心者組が多い
ことを考えると、案外悪くないかもしれん
279 名無しのリスナー ID:XxXxxxxx
このマップは初心者が一人でどうにか出来るとこじゃないからな
280 名無しのリスナー ID:xXxXxxxx
最初から一つのポイントを捨てて、もう一つを必ず守る。
もしもう一つに設置されたら五人全員で取り返しに行くっていう感じか
281 名無しのリスナー ID:xxXxxxXx
諸刃の剣なのは間違いない
282 名無しのリスナー ID:XxXxXxxx
中級者が指示する作戦じゃねーよ
283 名無しのリスナー ID:XxxxXxxx
悪くない、悪くないぞ
284 名無しのリスナー ID:xXXxxxxx
11-9まで来た!
285 名無しのリスナー ID:XxXxxxxx
Aチームが最後一回のタイムアウト取ったな
286 名無しのリスナー ID:xxXXxxxx
先にマッチポイントは取られたくないもんな
287 名無しのリスナー ID:xxxxxxXX
カナタ「あっちの作戦やばすぎる! 誰だこんなの考えたやつ!」
288 名無しのリスナー ID:XxXxxxxx
>287
おめーが呼んだ個人勢Vtuberだよ
289 名無しのリスナー ID:xxXxXxxx
お、でもタイムアウトしてからは、ちゃんとラウンド取ってるの偉いな
290 名無しのリスナー ID:XxxXxxxx
11-11まで盛り返してきた
291 名無しのリスナー ID:xxXXxxxx
まじでいい勝負しすぎだろおおお
292 名無しのリスナー ID:XxXxXxxx
おお!!!Bチームがマッチポイント!!!
293 名無しのリスナー ID:xxxxxXxX
このままBチームが勝つんか!?
294 名無しのリスナー ID:xxXxxxXx
最後のるなちゃんのスナイパー震えた!よう当てた!
295 名無しのリスナー ID:xXxXxxxx
Aチームもるなちゃんのスナイパーはかなり警戒してるな
296 名無しのリスナー ID:XxXxxxxx
陽が使ってる毒キャラも良い仕事してるw
297 名無しのリスナー ID:xxXXxxxx
>296
いや、実際そう。陽のキャラがいなかったら、こんなにしっかり守れてないと思う
298 名無しのリスナー ID:XxXxXxxx
これが最終ラウンドになるのか!?
299 名無しのリスナー ID:XxxxXxxx
は?
300 名無しのリスナー ID:xXXxxxxx
まじかこれ
301 名無しのリスナー ID:xxXxXxxx
うおおおおおおおおおおおおおおおお
◇
12-11。
それが今のラウンド状況。8-4という折り返しから何度もラウンドを取られながら、それでも何とか先に手にしたマッチポイント。この次のラウンドを取れば、Bチームの勝利が確定する。だが、その1ラウンドを取るのがどれだけ大変なのかは誰よりも分かっているつもりだ。
「皆さん、これが最後のタイムアウトです」
『……はい』
『そだね!』
『ついに終わるんですね』
『絶対に次取ろうや!』
両チームともタイムアウトは使い果たした。この時間が終われば、あとは勝負が決するまで駆け抜けることになる。それを理解しているのか、皆の声色からも多少の緊張が窺える。そして、それ以上にそれぞれの「勝ちたい」という気持ちが熱いほどに伝わってくる。
ただ、本来ならここでタイムアウトを取るべきではなかったのかもしれない。一個前のラウンドで勝利した勢いのまま、相手に作戦を練る時間を与えずに最後まで戦うのが一番勝率が高いだろうことはオーダーとして理解していた。
しかし、この場面でタイムアウトを取ることだけは最初から決めていた。どうせなら全部のタイムアウトを使ってしまおうなんて言うつもりはないが、完全な個人的理由であることには間違いない。そしてそれはこの試合が始まるよりも前に、ベリさん、まみむちゃん、ルイさんの了承を得ている。
これは、「はるのゆめ」という
「るなさん、一つ聞いてもいいですか?」
『はい、なんですか?』
「るなさんにとって、本当に
『っ……それは』
Apeniteコラボ配信の時、るなさんが言っていた。自分のプレイスタイルは「勝てたらいい」だと。しかし、それが心からの言葉とは思えなかった。むいさんの反応が悪かったからというのもある。ただ、それ以上に「勝てればいい」と答えた時のるなさんが一つも楽しそうじゃなかったのが何よりの理由だった。
その時、るなさんは何かしらトラウマのようなものを抱えているのかもしれないと思った。ネットで調べれば何かしら情報が出てきたかもしれないが、それはベストカップルGPの趣旨に大きく反する。であれば、いつか自分から話してもらえるような恋人役になろうと思った。でも、待っているだけじゃ駄目なのだとしたら、こちらから歩み寄るしかない。
「るなさんが何を怖がっているのか、教えてください」
『わ、私は……』
口にするのも怖いのだろう。何がるなさんをそこまで変えてしまったのか。本当なら自分が話してくれるまで待ちたかったが、今はそれだけの時間はない。
「違ったらすみません。でも僕は、るなさんのトラウマは配信活動によるものだと思っています」
『……どうして、そう思うんですか』
「今のるなさんが、本当の『夢見るな』だとは思えないからです」
「っ……」
きついことを言っている自覚はある。でも、個人勢Vtuberとして沢山の方とコラボしてきた「
「負けることが怖いですか」
『っ……はい。怖いです』
「勝負の世界では必ず勝者と敗者がいます。その上で、負けることが本当に怖いですか?」
『わ、私は、自分のせいで負けるのが、怖いんです。調子に乗って、魅せプして、勝てる試合でチームを負けさせてしまうことが』
「それが、るなさんのトラウマですか」
『…………はい』
沈黙の末、るなさんが小さく頷く。彼女のトラウマは理解できる。勝てるはずの試合で、自分の魅せプレイが原因で負けてしまう。もしかしたら炎上もしてしまったかもしれない。ひとりの少女の心に深い傷を負わせてしまうには十分すぎる出来事だ。
それでも乗り越えるしかない。少なくとも今、この場に立っているのであれば。誰よりも期待されている「夢見るな」の姿にならなければならない。それが配信者としての唯一の義務なのだ。
「爆弾配信の時に言いましたね。カナタなら配信を盛り上げるためなら勝敗も気にしないし、炎上だって気にしません」
『……カナタ先輩みたいになれ、ってことですか?』
「まさか、あいつは配信バカなので。そもそも僕自身、そんな大層なことは思ってません」
『じゃあ陽くんは、どう思ってるんですか』
「僕は、楽しければいいと思っています。他の誰よりも楽しんで、他の皆にも楽しんでもらって、それがリスナーの楽しみに繋がると信じています」
僕はカナタみたいに配信のためなら何でもする気概なんてない。自分なりに楽しめたらそれで良いと心の底から思っている。
「るなさんが勝つことを真に楽しんでいるのだとしたら何も言いません。でも、もしそうじゃないなら。何かを怖がって暗闇から抜け出せないんだとしたら。今、この瞬間、僕の手を掴んでください。るなさんにとっての一番を、教えてください」
『わ、私は──』
るなさんの声が震えている。そりゃあ怖いに決まっている。大観衆の中、同じ過ちを繰り返してしまうかもしれないのだ。それでも、僕は信じている。僕が信じる「夢見るな」なら、この壁を乗り越えてくれる、と。
……重荷だろうか。でも、やるんだろう。何せ、「夢見るな」は僕の恋人なのだ。
『────誰かの記憶になるプレイが、したいです』
「良いと思います、心から」
どこで聞いたか、
『でも、負けたくもないって言ったら情けないですか……?』
「まさか。負けたくないってのは当然の気持ちです。もちろん僕たちが全力でサポートしますが、それでも負けない保証はどこにもありません。その上で、やるかやらないかはリーダーに任せます」
『い、意地悪じゃないですか』
「まあでも────るなさんの一番カッコいいとこ、最後に見せてくれませんか?」
『っ……ズルいです、もう。……分かりました。やりますよ、やればいいんでしょ!』
言うほど意地悪だっただろうか。何はともあれ、覚悟は決まったようだ。
『話終わったー?』
『ま、まみむちゃんもう少し待ちましょうよ』
『あ、終わった? ほんなら最後の作戦会議しよや! もうあとちょっとしかないで~』
次いで他メンバーが続々と集まってくる。何だか最終決戦前とは思えない緊張感の無さというか、賑やかさだ。それが何とも僕たちBチームらしくて。ああ、本当に。楽しくて仕方がない。
◇
『それでは今回のMVPにも輝いた夢見るなさんにお話し伺いましょう!』
「えっと、その、まだちょっと熱が冷めきってないていうか」
『うんうん』
「とりあえず────最高のチームで勝てて嬉しいです!」
:うおおおおおおおおめでとおおおおおおお
:Bチームおめでとうーーー!!
:るなちゃんならやってくれると思ってた!
:お前ら最高だああああああ!
私たちは勝った。タイムアウト後、12-11で迎えた最終ラウンドは僅か20秒足らずでの決着となった。あの時の功労者が誰なのか、たぶん分かっている人は少ない。それでも私はちゃんと理解できている。それが何となく心地いい。勝利者インタビューということで012でも進行力が高いと評判の先輩が駆け付けてくれたが、正直それどころじゃなかった。
『私も見てたけど、やっぱり最終ラウンドのヒーローは熱かったね! あれは作戦通りだったの?』
「そう、ですね。最後の最後まで悩んだんですけど、陽くんが背中を押してくれたお陰で成功させることができました」
:タイムアウトの内容が濃すぎて2分間のやりとりとは思えんかったわ
:でも一瞬ギスギスするのかと思ってヒヤっとした
:結果的にるなちゃんが覚醒するきっかけになったから良かったよ
:陽ありがとー!
最終ラウンド。私は一つの賭けに出た。VALEXのマップは基本的に壁に覆われた中で戦うのだが、最終マップにはそれが無かった。かといってマップの外に行っても転落死するだけなのだが、唯一私が使っていたキャラだけは一回のみ高くジャンプすることで相手の意表を突いた攻撃を仕掛けることが許されていた。しかし、許されるといっても一度実行すれば二度と戻ってはこれないというデメリットがあった。そのため、もしそこに敵が居なければ無駄死にになってしまう諸刃の剣であり、一般的には魅せプと呼ばれる類のものだった。
それをあの場面でやってのけるだけの胆力が今の私にあるとは思っていない。少し前までの自分でもさすがにビビッていただろう。それでもやってのけられたのは、陽くんのお陰だった。同期にすら言ったことがなかった私のトラウマを的確に言い当て、手を差し伸べてくれた陽くんに「一番カッコいいとこ、最後に見せてくれませんか?」なんて言われたらやるしかなかった。ドSめ。
でも、楽しかった。誰かの記憶に残るようなプレイを出来ることが、こんなに楽しいものだったなんて久しく忘れていた。きっと私はまた、調子に乗って今日みたいなプレイをしてしまうのかもしれない。もしかしたら負けて炎上してしまうかもしれない。でも、良い。私にとっての一番がなにかを思い出せたから。それにもしまた落ち込んだ時には、慰めてもらえるかもしれない。
『それじゃあ最後に恋人役の陽さんと一言ずつ頂いちゃおうと思います!』
進行役の台詞とともに、私の立ち絵の隣に陽くんが映し出される。最初はあまり見慣れなかったその並びが、今ではとても自然なもののように思える。むしろ他の人にこの場所を譲りたくないなんて思ってしまうが、少なくとも今この場所が一番似合うのは自分なはずだと気持ちを静める。
「最後のプレイ、陽くんのために頑張りました」
『最高にカッコよかったです。……惚れ直しちゃいました』
ああ、本当に。本当に楽しかった。周りのメンバーから『いちゃつくなー!』なんて野次を飛ばされても気にならないくらいに、楽しくて仕方なかった。
過去最高の盛り上がりを見せながらお開きとなった全体コラボ。やれることはやった。他にやれることなんて一つもないと思えた。そして迎えた結果発表当日、私たち「はるのゆめ」は惜しくも2位となり、ベストカップルには「カナタイム」が選ばれた。
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