第四章 第3話
「……っ!」
内側のテープが破れる音とともに扉が開き、熱気に全身を殴りつけられる。
玄関の
玄関からはまっすぐ廊下が伸び、扉が3つある。左側の一番手前の扉はテープを貼られて荷物で塞がれており、廊下の一番奥の扉は開いている。
靴のまま廊下を進み、テープが
床に散らばった原稿用紙を足で払いながら近づく。熱気は一段と増し、テーブルに置かれた真新しい
七輪を無視して、右腕で女性の脇を抱え上げる。小さなうめき声に希望を持ち、
外の空気は澄んでいる。念のため、門の外まで女性を運び出し、
それからすぐに、大きなビニール袋に新鮮な空気を入れ、左手で口に当て、再び
一番手前の扉に着き、足元の荷物を足で
扉上部のテープだけを剥がし、右手をかざすと、熱気を吸い込む
深い
窓から中を覗くと、飾り気のない勉強部屋の床に、
窓から中へ入り、右腕で海野さんの脇を抱え上げ、窓から二人で脱出する。
海野さんを背負って
そのとき、一台の車が通学路に現れ、海野家の手前で停車する。
運転席の扉が開き、
「
「おそらくは無事です……そういえば、まだ消防に連絡していません」
出雲先生は聞くや否や消防に連絡し始める。その間に、気絶した海野さんの母親に
海野さんの隣で門袖にもたれる。
「……また会えたね、森峰くん」
呟き声に振り向くと、海野さんはお菓子の散らばった通学路をぼんやりと眺めている。
「おはよう、海野さん。ふたりとも無事で良かった」
「ありがとう。森峰くんのおかげだよ」
「どうだろう……出雲先生がどのみち来ていた気がする」
裏路地に海野さんの
「
海野さんが夜空を仰ぐ。
つられて仰ぎ、月を探すも見つからない。
「月が観えないね、森峰くん。まあ、
「……深夜になったら、各自で観測しよう」
「ああ、せっかく合宿の話を用意していたのになぁ……わたしは結局、お母さんを止められなかった」
床に散らばった大量の原稿用紙を思い出す。それから、目張りの剥がされた扉と、鍵の開いていた扉も思い出す。
海野さんの小説は、確かにお母さんを止められなかったかもしれない。それでも、必要不可欠な時間稼ぎをしたと思う。
「海野さんなら、明るい未来をこれから作っていけると思うよ」
遠くから救急車のサイレンが近づいてくる。
海野さんは手近なお菓子を1つ拾い上げる。
「このお菓子、もらってもいいかな」
「もちろん」
ビニール袋は再びいっぱいになる。
やがて、救急車が到着して、海野さんたちは病院へ向かう。出雲先生も
海野さんは海野さんの母親と救急車に乗り込み、お菓子袋を抱えながら手を振る。
「またね、森峰くん」
「また部室で!」
すぐに手を振り返す。そうして、救急車が見えなくなるまで見送った。
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