本編

スポット1

[妖怪広場]

境港駅から水木しげるロードを道なりに進んでいくと、左手に木の茂る広場がある。

ここは妖怪広場と名付けられ、河童の泉がある。


ピチョーン… ピチョーン…


人気のない泉に、水の滴る音が響く。


「僕スマホにずっとやりたかったゲームアプリ入れてもらってさ、それをしながら歩いてたんだ」

「僕もだよ、あれおもしろいよね!」


小学生の間で流行っているゲーム。

共通の話題もあり、僕はすっかりその子と意気投合した。

ひとりっ子の僕はずっと弟がほしかったので、その子のためになんとかしてあげたいと思った。


ザワザワ… ザワザワ…


どこからともなく吹いてきた風。

急に肌寒くなり、

ブルッ

とからだが震える。


汗をかいていたから、日が傾き涼しくなってきて寒気がしたんだろうか。

その子も同様のようで、少し顔が青ざめてみえる。


「妖怪ぶるぶるがいたずらしたのかな」

その子が薄っすら笑いながらそうつぶやいた。

その顔が少し不気味にみえた。


妖怪ぶるぶるとは、人の背後から冷たい息をかけいたずらする妖怪。

境港には何度も来てるから、僕もいつの間にか妖怪には詳しくなった。


草の陰や泉のまわりを探したが、それらしき物はない。


「そうだ!君の電話に僕のスマホでかけて鳴らしてみたらいいんじゃない?」

「…もらったばかりで自分の電話番号わからない…」

「そ、それもそうだね」

いい考えだと思ったけど、残念。

僕だってまだ自分の番号を覚えてないや。


「あー、こんなに妖怪がいるなら、なくしものを見つけてくれる妖怪はいないのかなー」

思わず本音が漏れる。


ここに…

 おるぞ…


「えっ!? 君何か言った??」

「ううん、何も」

それじゃあ今の声は…何?

まるで地の底から聞こえるような太くて低い声。


声だけの妖怪なら、うわん。

特に何もせず、通りすがりの人を

うわん

と声で脅かすだけ。

それと似たような妖怪がここにはいるのか?


「ここにはないみたいだから、次探しに行こう!」

見えないものの気配に怯え、僕はその子を促した。

「うーんとね、ここに来る前には向こうの広場でゲームした」

僕らは急いで次に向かった。



スポット2

[水木ロードポケットパーク]

川をまたぐ橋のたもとに、有名なねずみ男の大きなブロンズ像が佇んでいる。

「ここで写真撮ってたんだ」

「たしかに、これは写真撮りたくなるね」

僕も思わずスマホのカメラをも向けた。


カシャッ


「あれ?」

アルバムを確認しても、黒い影がぼやけて肝心のねずみ男が映っていない。

「なんでだろう?」


ケラケラケラ…


その子は不気味な笑い声を浮かべた。

「妖怪がいたずらしたのかな…ケラケラケラ…」


この子は笑い地蔵なのか?

人間に化けていたずらしてるのか??


ケラケラケラ… ケラケラケラ…


あたり一面気味の悪い笑い声が響く。

なんだこれ、耳障りな声。

頭の中でぐるぐるまわる。


ケラケラケラ… ケラケラケラ…


「やめてくれ!」

僕は思わず大きな声を出した。

「ど、どうしたの??」

目の前にいたその子の顔は、何もなかった。


「うわーーーーー!!」


ダダーンッ(ピアノの低音の効果音)

タララタララタララタララ(急いで逃げる足音のイメージ)


なんだなんだなんだ今のは!?


まさかまさかのっぺらぼう!?


いやだいやだこわいっ


早く帰りたいよ!!


「誰か助けてーーーーー!!」


僕は、大急ぎでその場から逃げた。



スポット3

[妖怪神社]


ハァハァハァ…


無我夢中で走った僕は、妖怪神社にたどり着いた。

顔も手も汗だらけだ。

目玉の親父の大きな目ん玉がまわる手洗いの場所で冷たい水に触れると、少し気持ちが落ち着いた。


「あれは何だったんだろう…」


あの子は人間じゃないのか?

でも足もあるしちゃんと立体感ある。

幽霊ってもっと影みたいに薄いものなんじゃないの?

それとも妖怪が人間に化けて出てきたのかな?

ここは妖怪の町、ブロンズ像だけでなく本物がまぎれていてもおかしくない。

だけどアニメや漫画の妖怪ならまだしも、いきなり本物出てきたらどうしよう。

画面や紙の中の世界のものが、突然リアルに目の前に現れたら…。

得体のしれないものと出会うことに対する恐怖がこみあげてくる。


こわいよこわいよこわいよ。


「そうだ、神様にお願いしよう」

せっかく神社に来たんだし、無事家に帰れるよう神様におまいりする。


チャリーン…カラカラ…コトン


ポケットに入っていた10円玉を賽銭箱に入れると、妙にその音が響いた。


あれ?


そういえば町の中が妙に静か過ぎる。


あの子以外誰とも会ってないし。


いくらなんでもこの時間に誰もいないなんてありえないよ。


ドクッ ドクッ ドクッ


なにかがおかしい


緊張で心臓の音が大きくなる。


僕の心の中で

何か危険を感じるサインを感じた。



ひゅ~るるるる〜…



夏なのに、冷たい空気が僕のまわりに広がる。


日暮れまで時間はあるはずなのに、

モヤがかかって

朝とも夜ともいえないあやしい薄暗さに町は変わっていた。


ここは本当に僕の知っているあの境港なんだろうか?

たしかに建物は同じだけど、

誰もいない。

人の気配もしない。

鏡の中の別の世界に来たみたいだ。


そしてあの子はどこに行ってしまったんだろう。


シャリシャリシャリ…

 シャリシャリシャリ…


神社の鈴を鳴らすと、その音もこだまする。


パン パン


悪い魔物が立ち去るように、

僕の中の恐怖心も消え去るように

大きく手を叩いた。


本編2へ続く。



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