37「番外編2」

最初に見たのは、とても可愛いと思ってしまった。

最初に見られた時、胸が一瞬、愛おしい音を立てた。




「ね、秋寺君。」

「ん?何?」


秋寺は、小学六年生。

二つ下のきつめとは、許嫁となっているのは、周りは知らない。

知らないのには、秋寺ときつめが上手に隠していたからだ。


「次の土曜日、大会があるの。」

「今度は何の大会?」

「ヨーヨーを操ってパフォーマンスをする大会。」

「また、優勝トロフィーを搔っ攫ってくるんだろ?」

「やってみないとわからないわ。で。」

「行かないぞ。」

「やっぱり。」


そんな会話を、秋寺は校舎の中にある廊下から、きつめは校舎の外にある自転車置き場から、窓を少しだけ開けて、お互いに背中合わせになり、話をしていた。

だから、その現場を周りは見ても、壁にもたれている位に見えた。


二人は、言葉が通じて、親が話をしていた内容が理解出来た時に、ルールを決めた。


一つ、外では仲良くしない。

二つ、お互いに体調を崩しても冷静にいる。

三つ、許嫁であるのは、周りに話さない。


この三つだ。

もしも、一緒にいる所を見られたりした場合は、先輩後輩の距離を保つ。


以前、一緒にいて話をしていたのを見られたが。


「黒水先輩に、この問題を教えてもらっていたの。」

「赤野が、分からないっていうからな。先生は、困っている後輩を助けてやるのが先輩の役割だって、習ったから。」

「ありがとうございます。黒水先輩。」

「また、困ったら頼りに来いよ。」


その言葉で、見た人は納得した。

この時は、黒水のクラスメイトだった。


「黒水先輩だって。」

「お前だって、後輩の面倒位みたらどうだ?」

「だって、俺、黒水みたいに出来よくないんだ。」

「そんな事ないぞ。バトミントンの大会で、結構いい所までいくじゃないか。」

「秋寺、お前、俺の事も見てんのか?疲れない?」

「別に、友達を大切にするのに、疲れるはないだろ?」


友達と言われた、バトミントン得意な人は、嬉しがっていた。

その会話を、離れながらも訊いたきつめは。


「言葉の使い所が上手いんだから。」


と、少しだけ頬に赤みを帯びさせて、微笑んだ。

そのきつめも、小学六年生になった。

秋寺は、中学二年生である。


「転校生の白田貢さんです。」


隣の席になった白田貢は、この地域に二週間前、引っ越してきたばかりだと訊いた。

転校生には親切にしてあげて、と先生から言われたので、きつめは話をしてみた。

この話がきっかけとなり、白田に懐かれた。


家に帰ると、秋寺がいた。

秋寺には、毎日の報告をしている。

転校生の話をすると。


「何、頬を膨らませているの?」

「別に。」

「やきもち?」

「………、そうだと言ったら……ごめん。」


すると、きつめは噴き出した。

秋寺は頬を膨らませたままだ。


「大丈夫よ。私は、秋寺君を裏切らないわ。」

「家の為?」

「鳥ってね、最初に見たのを親だと思うって、言うわね。」

「いきなり何?」

「私にとって、一番最初に見た男の子が秋寺君なの。私の恋心は、変えようがないわ。」


頬を膨らませた秋寺は、きつめを愛おしいと感じた。


「俺も……可愛いって思った女性は、きつめだけだよ。」

「ありがとう。」

「こちらこそだ。」


そう、親同士が決めた許嫁よりも深く、秋寺ときつめは愛し合っていた。




月日が経ち。




「今日、十六歳の誕生日だな。きつめ。」

「そうね。」

「だったら、見せつけたい。」

「そうだと思ったけど、お手柔らかにね。」

「分かっている。きつめを好いてくれている人だ。大切にするよ。それに、調べればとても優秀で勿体ない位の人物になりそうだ。頼りになると思っている。」

「秋寺が、そこまで言うなんて、信頼していいって事かしら?」

「信頼してやれ。きっと、これから、長い付き合いになる。そんな予感がしているんだ。」


そんな事を話しながら、待ち合わせ場所まで行く。

空を見上げると、鳥が応援してくれているかのように、二人の歩みに沿って飛んでくれている。


白田貢との、待ち合わせ場所に来ると、きつめは一言。


「私の許嫁、黒水秋寺。十八歳。今日、入籍するの。」


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