35「夏也」
「国をあげてのプロジェクトに、私の会社が選ばれた。」
貢は、家に帰ってくると同時に、春樹と夏也に話をした。
プロジェクトは、地球にある国、全てが対象になっている防犯システムを開発する仕事を、貢がいる会社が受けたのである。
そのプロジェクトは、一人一人にGPSを付けて、空に浮かぶドローンが見守る内容だ。
これが、可能になれば、山や自然を荒らす人を感知出来る。
桜花との約束も守れる。
「おめでとう。義父さん。」
「ってことは、暫くは忙しくなるね。身体気を付けて。お義父さん。」
夏也は、早速、ケーキを作り始める。
春樹は、来年、小学生になる桜の上履き入れを作っている最中だ。
「お爺ちゃん、仕事、おめでとう。」
桜は、貢に祝いの言葉を言うと、貢はとても喜び、桜を抱き上げて回った。
「これで給料も上がる…そうだ!家族で旅行とかどうだ?」
「旅行は、四人ではまだでしたね。」
「桜、どこ行きたい?」
夏也が、桜にいうと。
「海が見えるところ。お魚食べたい。」
すると、漁港を調べ始めてた貢。
「海なら、夏だな。八月のお盆に行こう。あ、ここ、八月に何かイベントやっているらしい。魚を釣って、その地域の子供達が竹にあるご神体にお供えをするんだって。面白そうだね。」
「うん。そこがいい。」
桜は、貢の調べていたタブレットを、横から見ていた。
すっかり、桜は、桜の木から生まれたのを忘れる位、人間で、とても感情豊かになって、この赤野家のアイドル的存在だ。
もし、このシステムが今あれば、桜がどうしてそこにいたのかが、わかったのではと思った。
そう、本当に枝から生まれたのか、置き去りにされたのか。
例えば、何かの生まれ変わりで、地面から生まれた子がいて、それをドローンが記録してくれれば、生まれがわかる。
桜を見ると、貢は、誰と友達になり、誰と恋をし、誰と結婚し、どんな子供を産んで、どんな風に育つのか、楽しみであった。
全ての基盤が出来てから、十何年か経ち。
とある二階建ての家で、見た目も中身も洋風で、門から玄関の間に、車が停まれるスペースがあり、玄関まではその分だけの距離がある。
玄関から、車に乗るまでの導線に手すりが付いており、車椅子が通れるスペースが余裕である。
家の周りには、植物が多くあり、プランターだけでも、十鉢はある。
それらには、野菜の他に花もあった。
色々な花が、優しく咲いている。
玄関を入ると、全てが広く、綺麗である。
一階は、台所、居間、部屋が二部屋、お風呂、トイレ、洗面所である。
二階は、階段を上がると、左側に部屋が四部屋あった。
四部屋の一室前には、納戸であり、その季節になると使う物が収納してある。
一階の二部屋ある一部屋に、白いカーテンが、窓から入る春の陽気を運ぶ風で揺れている。
白いベッドに寝ている人物は、寝たっきり状態だ。
その人物を見ている車椅子に乗った人がいる。
「ねえ、じいちゃん、おじいちゃん、何時、目が覚めるの?」
車椅子に乗っている人物に、孫らしき少女が訊く。
「何時だろうね。それよりも、お父さんとお母さん、お出かけさせてすまないね。」
「別にいいよ。じいちゃんの話好きだから。」
孫は、来年、十六歳になる。
今は中学三年生だ。
「しかし、
「分かる?だって、お父さんとお母さん、山の研究と警備で大変だもん。私が、家の事やってないと、ゴミ屋敷になりかねないし、掃除も好きだから大丈夫。料理も裁縫も掃除も任せてよ。それに、今度、弟が生まれるの、知っているでしょ?名前、私が付けて良いって、言ってくれたの。」
「へー、なんて付けるんだい?」
「まだ、お父さんとお母さんには内緒だけど、夏男。大好きな爺ちゃんとお父さんの名前から、合体させたの。」
「春香…。ごほん、ほん。」
車椅子を使っている人は、咳を少しすると、春香はお茶を持ちに部屋を出た。
その時、寝たっきり生活をしている人が、口を開いた。
「夏……也。」
「春樹、目を覚ましたのか?」
「ありがとう…今まで言えなかったけど…大好きだ。」
春樹は微笑むと、目を瞑った。
夏也は、その顔に引き寄せられ、顔を近づけ、キスをしようとしたが、出来なかった。
すると、春樹に繋げられ今まで並々に動いていた脈拍を数えている機械が、一直線になり、音を出している。
「俺も大好きだよ。そして、愛している。」
その一言だけ、伝えるのに精一杯だった。
「血を与えたモノの能力を強める能力は消えた。」
同時に、桜花が消えた。
おはぎを置いた瞬間、消えたのを春香の両親、春男と桜から夏也に伝えられた。
それから、春樹の葬儀が行われた。
春樹の血が、火葬によって漂っていた。
その日は風が吹いていて、地球全ての植物に振り分けられた。
後日だが、もう再生は難しいと言われた腐敗した山が、順番に再生していっている報告があげられていた。
春樹が買った仏壇には、きつめと貢と春樹、それと黒水銀河と小雪の写真が飾ってある。
秋寺と赤野春男と赤野さくらの写真は無かったから、飾られていない。
夏也は、春樹の写真を撫でた。
「春樹、春樹が、俺と結婚をしてくれたのは嬉しかった。だけど、本当はそんな気は無かったのだろう?だって、春樹は桜花が気になっていたのを、俺は知っている。多分、春樹にとって初恋だと、俺は思っている。でも、俺と一緒に居てくれて、ありがとう。これからは、俺から離れ、あの世で桜花と一緒になってくれ。」
一筋、頬を涙が伝った。
春樹の写真を置くと、外に顔を向ける。
遠くを見て目線を空へと移し、一度、目を瞑り、そっと開ける。
そして、手を祈る様に形を作った。
「それと、桜花ありがとう。桜花のおかげで、俺は春樹と一緒に人生を歩めた。それと、血を与えた人の能力を強める能力を、春樹まで繋げてくれた皆、ありがとう。それと。」
今度は、きつめの写真を手に取り、愛おしく眺め。
「春樹を産んでくれてありがとう。きつめお義母さん。」
言い終わると、開いていた窓からは気持ちの良い風が吹いて来た。
まるで、今までの人々や、お菓子を提供してきた植物達が、夏也の頭を撫でいるみたいだ。
何度も風が吹き、とても穏やかになっていく。
これから、春が終わり、夏が始まる、そんな季節の風であった。
終わり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます