34「春樹」

春樹は、説明した。



夢を見ている時、春樹は何度も繰り返される楽しい事と辛い事を記憶させられた。

だが、現実に考えられる春樹には、それは人ごとにしかならず、自分に投影しなかった。

その精神が影響され、手芸をしているハルキと話が出来た。


ハルキの話では、一緒に生きられなかったのと、自分が亡くなった事実が、アカを逆上させてしまった。

アカは、その時から吸血鬼扱いされて、人々から追われる立場になり、杭を打たれ、そのまま土に埋葬された。


そこまでの話を聞いて、桜花の話と繋がった。


だが、アカはあきらめていなかった。

アカは、自分の力を使って、あらゆる自然に紛れてハルキを探した。

ようやく見つけられたのは、赤野春樹。


名前も「アカのハルキ」になり、自分を見つけて欲しいとハルキが思っていると、アカは認識した。

調査すると、本当に似ていて、自分の知っているハルキがいる。

そうだ。

この人物こそ、俺のハルキだ。




「……と思いこんだらしいよ。」


説明が終わると、夏也からウェットティッシュを貰い、首の血をふき取り、傷を塞ぐシールを張った。

まだ、血の匂いが充満しているが、夏也の周りだけは浄化されて、もう、普段の夏也になっている。

まるでツタが酸素を供給している管のようだ。


「それで、夢をみている時に、ハルキから依頼されて、自分の血を舐めてくれれば、話をするっていうから、言う通りに従った。前世とか転生とか信じてないが、ハルキは、俺の前世だと認識した。先祖は大切にしないと怒られそうだからな。」


春樹は、きつめを思い出していた。

ここで協力しないと、きつめに怒られそうだと思った。

また夢に出て来て、色々と言われても鬱陶しい。


こんな場面でも、きつめを意識しないといけないとは。


「全く、うちのかあさんは。」


春樹は、眉間にしわを寄せながらも、微笑んでいた。


「さて、俺の前世、ハルキ。アカを連れていってくれ。」

「春樹君、君ね。身内には偉そうだね。」

「身内だからこそだろ?それに、言っておくが、俺は仕事が溜まっているんだ。こんな血が欲しいだの、繋がりだので、時間を取られたくないんだ。今でも、お義父さんが娘の桜を見ながら、スケジュールを調整してくれていると思うと、申し訳ないんだよ。あの世で二人で仲良くしてくれ。」


猫のあみぐるみに話かけている春樹に、夏也は再認識した。

本来の春樹は、こんな感じだ。


身内には、容赦ない言い方をする。

それは逆を辿れば、心を許している相手になるのだが、もう少し言い方がないだろうか。


「でも、春樹の前世が貴方なら、何故、春樹は存在しているんだ?魂が一つなら、春樹とハルキが同時に存在は出来ないだろう。」


夏也は、疑問を言葉にした。


「僕は、春樹君の身体に宿っていた思念みたいなもので、血を受け入れて解除されたのですよ。」

「だとすると、アカだっけ?思念とは一緒にいられるのか?春樹がこの世にいるから、魂が一緒じゃないと一緒にいられないのでは?」

「そうなんですよ。思念は、少し経てば消えますからね。」

「なんだと!」


夏也との会話に、入ってくるアカ。


「だから、アカ、迷惑をかけたのだから、謝って。そして、待っていてください。春樹君の中から、この世界の行く末を見守った後、行きますから。」

「ハルキ。」


アカは、ハルキの言う通りにして、春樹と夏也に謝った。


「ほら、これやるよ。」


春樹は、アカに猫のあみぐるみを渡した。

受け取るアカ。


「こんなものでも、心の拠り所にはなるだろ?お前のハルキが宿っていた器だからな。」

「本当に、迷惑かけた。春樹君。」


春樹は、夏也を連れて石で出来た建物から出て行く。

建物を出て、十分に離れると、建物が崩壊した。

その音で、桜の横で寝ていた貢が目を覚ます。


「夏也君、春樹君。」


多少、怪我や汚れているが、大きなのはないと見ると、安心した。


「桜は?」


春樹が最初に出た言葉が、桜の心配だ。

夏也も同じく聞く。


「桜は、ぐっすり寝ているよ。時間的には、ここに私達が来てから、二時間くらいだ。その間に、春樹君の仕事スケジュール、組み直して置いたから、それと夏也君の仕事場にも、この二日間は休みを頂けるようにお願いしておいたよ。表向き、風邪にしたから、家から出ないでね。」


やはり、貢は頼りになる自慢の父だ。


「ありがとう、お義父さん。」

「義父さん、すまない。」


春樹と夏也は、貢にお礼を言うと、二人の手を取り。


「おかえり、帰ろう。」


春樹は、後部座席に乗り込み、まだ目覚めない桜を優しく抱っこして、チャイルドシートにソッと寝かせて、お互いにシートベルトをした。

桜は、一瞬、微笑んだように見えたが、気のせいかもしれない。




下り終わると、山川がいた。


「春樹君、夏也君、無事で良かった。」


一言から、治療になった。

山川は、持って来ていた緊急救急パックから、傷の手当をして、心臓の音や脳に異常がないかを確認した。

春樹の首以外は、擦り傷程度で済んでいた。


手当が終わると、一度、市民病院でレントゲンを受ける手紙を書いて、二人に渡した。


「山川さん、ありがとうございます。」


お礼を言うと、手紙を受け取り、家へと帰っていく。

山川は、調査が終わったのを警察に報告して、帰った。


家へと帰ると、それぞれの役割をこなした。

夏也は、冷凍庫から、作り置いたおかずを電子レンジで温め、調理した。

春樹は、お風呂を掃除して、湯を貯めた。

貢は、目が覚めた桜の相手をしていた。


それから、四人でちゃぶ台を囲み。


「いただきます。」を、手を合わせて唱え、ご飯、卵スープ、肉じゃが、ポテトサラダ、シュウマイを食べた。





その日の夜、疲れ果てていた春樹は夢を見た。

最近、夢で話をしてくる人がいるのを、鬱陶しく思っていた。

だが、今回は違う。


桜花だ。


人の姿をする時には、きつめの姿を借りている。

今もきつめの姿で、春樹と話をしている。

春樹がきつめと桜花を見極められるのは、体系を見れば分かる。

桜花は、細め。

きつめは、太……ふわふわしている。


「桜花。」

「この度、私と一緒にいる人を救ってくれてありがとう。春樹。」

「別にいいよ。それよりも桜花は、無事?何か変化あったとかは?」

「大丈夫です。変化はありません。」

「よかった。心配していたのですよ。僕が桜花の下に眠る人を説得して、消えてしまったら、桜花も消えるのではと思って……でも、存在してくれているなら、嬉しいです。」


春樹は、桜花に微笑むと、桜花は頬を赤く染めた。


「また、様子を見に行きます。今度はおはぎ以外にも、色々と食べ物持っていきますね。」

「それは、楽しみです。」

「では、また。」

「はい、また。」


話が終わると、目覚めるかなって思ったが、それは違った。

桜花と入れ替わるように来たのは。


「母さん。」

「太めのお母さんですよ。」

「何しにきたんだよ。」

「今まで、桜花ちゃんと話をしていた春樹は何処へ行ったのかな?」

「今は、母さんと話をしているんだ。で?何の用?」


きつめは、春樹を抱きしめた。

春樹は、抵抗しずに、その行為を受け止めた。


「身体、大丈夫?」

「うん。大丈夫。」

「そう、それとね。説得に成功したの。」


きつめは、春樹を少し離し、後ろを向くのを進めた。

春樹は後ろを向くと、そこには黒水秋寺がいた。

秋寺は、前髪が長く、目がその間からしか見えないが、照れているのは感じていた。


「春樹か。」

「うん。お父さん。」

「父…と、思ってくれるのか?」

「あたりまえだよ。」


秋寺は、春樹を抱きしめた。

春樹も手を秋寺の身体を覆い、抱きしめる。

その様子を見て、きつめは二人を抱きしめた。


暫く、静かに、流れて来る暖かい感情を感じると、そろそろ目覚めが近いのか、春樹の身体が透けている。


「お父さん。あえてよかった。」

「こっちこそ、話が出来て良かった。」




春樹は目を覚ました。

目の前には、貢がいた。


「春樹君、おはよう。」

「……おはよう。お義父さん。」


春樹は、いつもの生活をした。

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