32「訪問」
平和に過ごしている時、来客が来た。
春樹も夏也も貢も、来客の予定が無かったから、警戒した。
貢が、防犯カメラの映像を見ると、そこには人がいたが、明らかに不自然なのは、服であった。
服装は、分かりやすく説明すると、宇宙服だ。
この現代で、一般的に宇宙服を着て、家を訪ねてくるモノはいない。
「どうする?春樹君。」
「うーん、お義父さん、対応してくれますか?」
「そうだね。このまま玄関に居られても困るし。」
貢は、玄関を開けると、本当に宇宙服だった。
顔が見えるはずのマスクからは、中は見えなかった。
ただ、白っぽい霧が立ち込めていた。
「どちら様で?」
「夏也さんいますか?」
「はい。いますが、どの様な要件で。」
「私は、杉の木です。桜の木からの伝わりで、夏也さんの料理が美味しいと聞いてきました。何か食べたいです。」
「夏也の料理だけですか?」
「はい。」
夏也は、こんな事もあろうかと思い、毎日、クッキー、ケーキ、大福など、おやつとして作っていた。
それを包んで、貢に渡す。
貢は、宇宙服姿のモノに、夏也の用意した包を渡すと、喜んでいた。
「時に、どうして、そんな服装を?」
「人間は、花粉が苦手だと聞いて防ぐために、この服装にしました。」
「気を使ってくれたんだね。本当に、この為ですか?」
「夏也さんの料理を食べたかっただけです。」
「そう、それは嬉しいね。」
杉の木は、玄関の階段を下りると、宇宙服が上から順番に粉状になり、自然と消え、白い粉に変化した。
お菓子が入った包を白い粉で覆うと、そのままの状態で風に吹かれて、どこかへと消えた。
「不思議な体験をするね。」
貢は、春樹と夏也に話す。
防犯カメラで見ているだけだが、想像しない出来事を体験する。
「母さん、俺の血ではなく、夏也の料理になっているよ。」
仏壇に手を合わせながら、話をした。
ただ、その中にも春樹の血を求めてやってくる人がいるかもしれない。
警戒は、引き続きした。
そんな風に、夏也の料理を求めて来る人型が現れていた時、春樹の名前を出す人型がいた。
「春樹君はいますか?」
人型は、女性だ。
きつめに似ていたが、桜花ほどの変身能力はないみたいで、見た目的に違和感がある。
顔つきは似ているだけで、身体付きは違った。
一般女性より、細い。
それに恰好は、黒服で包まれていて、中に何を仕込んでいるのか分からない。
夏也と貢は警戒した。
あの時のように、連れ去るかもしれない。
春樹は、その時、あみぐるみの依頼を受けていて、完成した時だった。
そのあみぐるみを何気なしにポケットに入れて、GPSの指輪をしていたから、そのままの状態で玄関に出る。
瞬間。
春樹の手首を掴み、自分の胸に収納したと思ったら、直ぐに姿を消した。
一瞬の事で、反応が出来なかった。
貢は、直ぐにGPSを確認すると、桜が見つかった山にいた。
ここからは、結構離れている。
玄関を見ると、土が、小さい頃、砂場で山を作った位の大きさがあった。
この土から地面を通じて、移動したと思われる。
山川に連絡を取ると、その山は今立ち入り禁止になっている情報があった。
立ち入り禁止になっているのは、桜が見つかったから、証拠を荒らさない為であった。
桜が、桜の木の枝から人型になった証拠がない。
誰かが置き去りにした可能性もあったからだ。
だから、今も調査中で、立ち入り禁止にしていた。
「どうしたら。」
夏也は、頭を両手で覆って、床に座っていた。
すると、子ども椅子に座っていた桜が、夏也の頭に手を伸ばした。
少しだけ触れると、夏也は頭をあげた。
「桜。」
夏也は、不思議と桜が導いてくれると思った。
桜を車に乗せて、貢と一緒に山を目指す。
車には、常に、着替えや防具、食料など積んでいた。
だから、直ぐに瞬発出来た。
「桜、春樹の元へと導いてくれ。」
一方、春樹は大きな石の上に寝かされていた。
周りは、石で囲まれている神殿であった。
「これで、話が出来る。」
呟く姿は、桜花と同じ形をした桜の花びらだ。
ただ、色は赤黒かった。
まるで血の色だ。
桜の花びらから、黒い人型に変化させ、春樹の首にかみついて血の味を確認すると、自分のハルキだと認識した。
「ようやく、手に入れた。ハルキ。」
春樹は、夢を見ていた。
自分にそっくりな人が、誰かと一緒に手芸をしている。
とても楽しそうだ。
次の瞬間、自分にそっくりな人は、亡くなっていた。
それを知った誰かは、怒り狂っていた。
その場面を何度も見ていた。
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