29「企業」

春樹は、企業へ出かける時、母がくれたスーツを着た。

本当なら、色々直したかったが、そのままだ。


「春樹、かっこいいな。」


夏也は、スーツ姿の春樹を見ると、惚れていた。

貢は、少しだけ寂しい気持ちになった。

自分の手を離れて、独り立ちする子供を見送るのは、こんな気分なんだろう。


山川が車を出してくれて、野田と春樹は、企業へと話に出向く。

企業との話し合いは、とても良く、順調に話し合いが進んだ。


企業が会社経営の資料を見せてくれた時、春樹は驚いた。

一枚の写真と、写真の説明をしている文の中に、黒水の名前が載っていた。

自分の実の父、黒水秋寺の両親、黒水銀河ぎんがと黒水小雪こゆきの職場だった。


説明をしてくれた担当、黄田四郎きだしろうに話しを聞くと、水を綺麗にするのを掲げている会社に、黒い水という苗字の人が入ってきたと、当時、有名だった。

だが、それで嫌がらせは無く、とても気持ちよく仕事が出来た。


山に入る時、一羽のカラスが黒水両親の肩に乗って、少しだけ鳴いた。

その時だ。

ここから、人間の目では無理な距離に、不法投棄されている物があり、黒水夫妻が見つけた。


最初、黒水が自分の手柄にしようと、自分で不法投棄をして、自分で見つけたのかと思ったが、違った。

黒水夫妻は、小さい頃から、鳥と話が出来る能力を持っていた。


本当に話が出来るのかと思い、テストを行った。

テストは、迷彩柄をした帽子を、会社が用意した鳥を一羽連れて、山に隠した。

その一羽には、人間の言葉でだが、隠した場所を教えた。


鳥が理解したかは分からないが、一度、鳴いたのを確認している。

その一羽の鳥を、黒水夫妻に渡し、話させた。

黒水夫妻は、鳥と話をし、山に入って行って、迷彩柄の帽子を持って来た。


その事により、黒水夫妻は信用して貰い、鳥と話をして、山をどうして欲しいのかを考える仕事をしていた。

そんな矢先に亡くなった。


「本当に、黒水さんが居てくれた時は、山の整備が早く済み、頼りにしていました。でも、亡くなられたと聞いた時、自然との繋がりが無くなったと思い、企業も少し落ち込みました。しかし、本来は、私達人間が汚さない活動をしなくてはいけない。だから、まずは鳥を大切にする所から、研究は始まりました。」


黄田の話を聞くと、黒水夫妻は企業にとても貢献していた。

春樹は嬉しくなった。

なんせ、父方の祖父母である。


実は、赤野家が、この企業に働きかけ、黒水を採用した。

黒水銀河と小雪の、鳥と話せる能力を知っていたからである。

でも、その能力は多くの人に知られるのは、この自然を壊しかねないと思った。

その為、守ってくれる企業を探し、黒水夫妻を採用を働きかけた。


全て、赤野春男とさくらの計画と計算が、上手く行った。




春男とさくらは、幼馴染であった。

この時代は、自由に恋愛が出来なかった。

しかし、二人は幸運で、思い合っていたし、お互いに財力もある家に生まれた。

だが、自分の親がとても嫌な人で、財力を武器に色々と振りかざしていた。

そんな両親の姿が気に入らなかったが、それを利用した。


お互いの家の為、春男とさくらは、両親にそれとなく働きかけ、野心を持っていた両親は、春男とさくらの婚約を認めたのである。

だが、お互いの両親がいがみ合いをしていた時、仕事中の事故に合い、亡くなった。

本当に事故だったのかは、分からないが、検証された結果、事故になった。


春男とさくらは、両親の残した遺産を合体させて、新しい事業を始めた。

それが、桜の木を増やそうだった。


そんな時、風の噂が流れてきた。

黒水の噂である。


「鳥と話せるって人がいる。」


調べると、本当に鳥と話せる。

分かると同時に、黒水夫妻はお金に困っていた。

それに、先日、男の子が生まれて、さらに生活が難しくなった。


暫く、黒水の様子を見ていた時だ。

自分達にも、子供が宿った。

その時、子供に対してかかる費用が分かった。


黒水家は、資料を見ると、ギリギリだ。

春男は、桜の木を増やす活動をする中、山の自然を大切にする企業があるのを訊くと、早速、働きかけた。

黒水には、さくらの様子を見ながら、話をするタイミングを見ていた。


その時である。


自分の子供が生まれたが、直ぐ輸血しないと助からないと情報が来て、三人の青年に助けられた。

「話をするなら今だ。」と思い、黒水に話を持ち掛けた。


実は、三人の青年が住んでいる地域が、桜の木を大切にしているのは、隣の地域で桜の木を大切にする活動を始めた人がいると聞いて、協力して出来たらいいと思ってのアピールだった。

空き家が無いのは、桜の木を美しく見せる為が、最初の目的だった。





春樹が知ると、血の力関係なく、きつめは自分の力で、周りから愛される存在になったと認識した。

自分も、その子供であるが、恥ずかしくなく生きてこられたかな?と、自分を思い直す。


それからの山は、動物があふれていると感じた。

毎年、人が暮らしている所に動物が来る報告があったが、それが順番に少なくなってきている。

着実に、国内の山は潤ってバランスが良くなっていた。

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