28「信用」
夏也は、良い方向へと行っているのを確認すると、ホテルに山川さんを紹介しようと思ったが、貢が止めた。
「それは私が話に行くよ。春樹君は、自分の仕事をしなさい。それに、睡眠不足の報告も無視出来ないから、今日から睡眠時間を多く取りなさい。スケジュールを見直しなさい。」
貢が言うと、春樹は受け入れた。
春樹の一日は、貢が起こしに来る所から始まる。
きつめが居た時は、きつめが起こしに来ていた。
起きた後、洗面所に行き、自分の髪を整え、顔を洗う。
それら終わった後、朝食を摂り、学校があった時は、準備をする。
今は、仕事の準備だ。
昼食は、夏也が作ってくれた弁当を食べて、また、仕事に戻る。
夕方に夏也と貢が帰って来て、春樹はおかえりを言うと、また仕事に戻った。
夕ご飯が出来たのを、貢が呼びに来て、夕食を食べる。
貢と話をしていると、夏也が貢をお風呂へと誘う。
その間に、夏也と話をして、貢がお風呂を終わると、入る。
この時に夏也は、もう就寝する為、お休みを言う。
お風呂が終わると、洗濯をして、干して、風呂を洗う。
その後、いい所まで仕事を進めて寝る生活だ。
大体、仕事は午後十二時を過ぎる。
だから、睡眠不足なのだ。
春樹は市民病院へと日を見て、山川医師からの手紙を見せると、検査をする。
結果は、異常は見られなかったが、そこでも睡眠不足を注意された。
貢は、ホテルの経営者、野田裕に会えないかとホテルに連絡を取った。
要件は、山の土地についての話である。
一週間後に会う約束を取り付け、その日は有給を取った。
「ここが、夏也君が働くホテルか。」
一週間経ち、ホテルの前に来ていた。
階数は、五階建てで建物も高くない。
だが、温泉が湧き出ていて、部屋にも温泉を引き、全ての部屋に露天風呂があるのが有名。
もちろん、温泉が肌に合わない人や、怪我をしている人、生理的な問題で入れない人等、理由がある人用に、温泉ではないお湯が出てくる内風呂もある。
一階が受付、ゲームセンター、コインランドリー、売店。
二階が食堂、喫茶店、美容室、ウェリング。
三階と四階が客室で、五階に大浴場がある。
このホテルは、道の駅に隣接しており、駐車場は道の駅の一部を使用する様に契約している。
その代わり、道の駅からこの土地有名のハムやケチャップなどを取り寄せ、ホテルで使わせてもらっている。
早速、ホテルに入ろうとすると、ドアマンに声を掛けられた。
「お泊りですか?」
「いえ、このホテルの経営者、野田さんと約束がありまして…。」
「赤野様ですか?」
「はい。」
名前を確認すると、案内された。
ホテルの中へと一緒に行く。
ホテルの中を一度探検したかったが、今日は仕事で来ている。
仕事が終わり次第、ホテル内を見て回ろうと思った。
エレベーターに乗り、地下へと降りる。
エレベーターを降りると、前に関係者以外立ち入り禁止と書かれたドアがあった。
ドアマンが、専用の鍵を使い、開けて入ると、自動的にドアが閉まる。
そこから、廊下が真っ直ぐに伸びて、突き当りの部屋まで行く。
その間には、ドアを数えた所、左右に五つあった。
全てに部屋プレートがあり、男性用更衣室、女性用更衣室、保管庫など書かれてあった。
突き当りの部屋には、何も書かれていないドアある。
ドアマンがノックをし、中から声が聞こえると、丁寧に開けて、貢を案内した。
案内が終わると、ドアマンは部屋から去っていく。
部屋の中は、木材で覆われており、和室になっていた。
中央に長方形のこたつが置いてあり、座椅子が周りに用意されている。
座椅子の数は、六台だ。
こたつの上にはみかんとティッシュ、小さいゴミ箱がある。
そんなこたつの座椅子の一台に、一人の男性が座っている。
「ようこそ、赤野貢さん。ささ、何処でもいいので、座椅子に座って、こたつで温まって下さい。三月で、春先だと言っても、まだ寒いですからね。あっ、私が野田裕です。」
こたつから出なく、挨拶をする。
貢は、不安よりも侮れないと思って、きっちりする。
こたつでのマナーとして、座るべき座椅子に一礼をして座ろうとした時、野田の隣に来る様にと手で招かれる。
招かれた席へと座った。
貢は、自己紹介をして、先日、電話で少し話をしてあった内容と、新たに作ってきた資料を見せて、交渉する。
野田は、貢が話をしている間に、こたつの横にあるお座敷ワゴンから、お茶を入れるセットを取り出し、作り、貢に出した。
「いい案です。こちらとしても、リンゴやみかんを育てる場所が欲しかった。山川と協力してもいいし、山川は友達だから、一緒に出来るのが楽しみだ。」
いい反応を示してくれた。
「しかし、一つだけ信用が足りない。」
「信用?」
このまま、貢は了解してくれるだろうと思っていたが、甘くない。
野田は、話をし始める。
「このホテル、色々とイベントもやっているし、料理も接客も問題ないし、温泉があるおかげで目当てとして来てくれる。だが、ホテル独自の食べ物とグッツが欲しい所。私は、貴方を信用していない。」
「つまり、ホテル独自の食べ物を考え作れる人とグッツを考え作れる人を、紹介すればいいのですね。」
「その通り。」
貢は、頬を上に向ける。
打ってつけの人物がいる。
夏也と春樹だ。
二人の了解を取っていないが、あの二人なら大丈夫だろうと思った。
それに、野田の顔を見ると、今すぐにでも紹介をして欲しいと言っている。
赤野貢を信頼してもらわない事には、この話は進んでいかない。
貢は、二人の名前を出し、紹介をした。
すると、野田は、笑った。
「すまない、その二人の名前は、既に知っている。貴方を試しました。旧姓、白田、今は赤野貢さん。」
野田の話によると、この一週間、秘書に貢の事を調べて貰った。
貢の両親は、転勤を繰り替えして、各地にいっていた。
しかし、そろそろ、年という事もあり、二人の地元に帰ってきて、仕事場を固定した。
その場所が、きつめと合った土地である。
貢はその土地で過ごし、十七歳になった時、両親が亡くなった。
退職金や遺産があり、それだけで過ごしていた。
そんな両親の遺伝子が関係しているか、分からないが、何かを探すように、学業の合間を使い、旅行をする様になった。
だが、その旅行も何かを見つけたと同時に終わり、帰ってきた。
高校卒業後に、セキュルティー会社に就職し、十五年後位に、一人の息子が出来る。
今、現在は、二人の息子が出来て、一緒に暮らしている。
二人の息子は、この地域ではとても有名。
中でも、最初の一人目の息子の母が、とても人々から慕われていた。
二人目の息子と一人目の息子、そして母、三人が一緒にいる姿はとても癒された。
二人目の息子の両親も、自分の子供が、一人目の息子の母を信用している姿を見ると、安心感を得られていた。
その母も、二年ほど前に亡くなり、入れ替わりに来た人物が貢。
二年間程度の付き合いである息子に、信頼があるのかを、野田は試した。
「赤野春樹、緑沢夏也、この二人の名前が出てこなかったら、お断りしようとしていました。」
「それは、何故ですか?」
貢は、春樹と同じ嫌な予感が、胸にあった。
まるで自分の影から、誰かが覗いていて、操作されている感覚。
だけど、とても、愛おしい。
「実は、このホテルに働いていたんですよね。赤野きつめさん。」
やっぱり、きつめが関わっていた。
「その時、色々とアイデアを出しては、ホテルに貢献してくれていたのですよ。六年間、働いてくれていたのですが、急に辞めると言い出しましてね。何でも、子供と一緒にいる時間が作りたくなったって言って、自宅にての仕事に就きたいと。その話を聞いていたので、私が家で出来る内職の仕事を紹介しました。それに、子供さんの事は良く聞いていまして、その親友の話も。そんなきつめさんが大切に思っている二人の子供を信用する事なく、名前すら出さない引受人なら全てが無かった事にして、ホテルに足を踏み入れるのも拒否しようと思いました。」
「そうでしたか。」
心の中では、とっても胸が煩く鳴っている。
本当に、名前を出して良かったと思った。
それに、この野田って人を見ていると、かつての自分を思い出す。
今でも、尊敬はしているが、それが重みになっていたのを感じると、今更だが様は着けなく、好きな相手が命を懸けて残した息子、春樹を同じ目線で見る。
きつめが、この土地に引っ越してきた時に、春樹は一歳。
家も、その時、安く売りに出ていたのを購入した。
アパートをと思ったが、家だと自分で色々と変えられると思ったからだ。
それに、産んだ時に子供の事を勉強するにあたり、子供は結構汚すと聞いていたから、アパートだと汚されると大変。
だから、家を購入した。
この家にしたのは、オール電化で、屋上に太陽光があったからだ。
子供が、小学生になるまで、仕事をせずに、子育てに集中した。
お金は、自分の今まで貯めたので何とかなっていた。
親と黒水家のお金も、自分の物となっていたが、それらに手を付ける気にはなれず、この家を購入以外には使用しなかった。
春樹が、小学生になった時、仕事を探してもいいかと思い、丁度、募集していたホテルに働きに入った。
きつめの仕事は、ホテルと相談し、午前八時から正午までとなった。
だが、貢と再会した後は、ホテルの仕事を辞めて、自宅で出来る内職仕事になり、春樹との時間を多く取った。
そんなきつめは、ホテルの運営者である野田に信用されるほど、何を助言したのだろうか。
だが、企業秘密であると感じ、聞かなかった。
「では、ホテル独特の食べ物とグッツの件は、本当は。」
「ええ、別に考えていません。ホテル独自の食べ物は、きつめさんが考えて下さいましたし、グッツはそもそも売っていません。」
すんなりと企業秘密を話す野田。
きつめが、何をしていたのか、分かったと同時に、夏也が大変になる暗示があった。
それは、きつめが考案した食べ物を作るかもしれない。
「試練だな。」
貢は、静かに、夏也の腕を見届けたいと思った。
野田と話し合いをしてから、家へ帰ると、夏也が台所で頭を抱えてしゃがんでいた。
隣には、春樹がいた。
「何が、あったのかね?」
「義父さん、俺、どうしたら?」
理由を聞くと、赤野きつめが自分の師匠だと、ホテルの経営者、野田がレストランの料理人に紹介をしてしまった。
すると、きつめが考案した料理の再現出来たら、それ専属の料理人にしてくれるとなった。
レシピも貰って来ているし、きつめの味に近づけている。
だけど、再現は難しい。
先日、きつめの考案したメニューを作っていた料理人が、寿退社をした。
料理人達は、とても困っていたのである。
そこに、赤野きつめの弟子が来たから、寿退社した料理人よりも、きつめに近い味が出せるのではないかと、期待されているのである。
夏也は一度作って見て、きつめの料理を食べて育ってきた春樹に食べさせたが、別に問題はなかった。
だけど、自分が食べると何か足りないと思い、レシピを読み返し、材料を確認し、試行錯誤している内に、悩んでしまった。
「春樹君が、大丈夫って言ってくれて居るなら、大丈夫だと思うけど、それでは夏也君は納得しないんだね。」
「はい。」
貢は、夏也が格闘した台所を見ると、いつも点けているアニメが無かった。
真面目に取り組もうとしていた姿が分かる。
「夏也君、アニメ見よう。」
「そんな浮ついた気持ちで、再現なんて…。」
すると、春樹は夏也が料理を習いたてな頃に見ていたアニメを検索して、流した。
「これ、夏也が、母さんに習っていた時に、良く流れていたアニメだよな。」
夏也は、習いたてな頃の記憶を思い出した。
あの頃は、ただ、楽しくて仕方なかった。
材料が全て、違う形に、味になっていく。
夏也は、アニメを流しながら、もう一度、レシピを頭に入れて、挑戦し始めた。
三日後に、嬉しい知らせを持って、夏也は春樹と貢に報告出来た。
それから、山川と野田は、会い、話をした。
すると、計画の通りに進み、山には食べられるリンゴや柿などの木を植える計画が進んだ。
山川が、山を管理し、何を植えるかを野田が管理する。
ホテルで使う木と、動物達に自由に食べていい木と、分けて管理する。
山は、二人の声かけで、次第に広まり、山を綺麗にする運動が始まった。
それを動かしたのは、春樹が見つけた企業だ。
企業へは、春樹と山川と野田が働きかけた。
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