27「交渉」
夕食の時に、話をする。
「春樹君、一度、以前言っていた診療所に行かないか?」
「健康診断ですか?」
「それを兼ねてだけど、違う。」
貢の説明によると、診療所の医者、
この辺り以外にも、全国から依頼されて、山の管理で困っている所に行って、助言をしている。
この頃、山を荒らす人や、不法投棄、不法侵入をする人がいて困っていた。
いい防犯カメラがあればと思っていた所に、貢が二年前に営業をかけた。
貢は通い続けて、調整し、防犯カメラを取り付ける準備が出来た。
今は、この地域の山は、あちらこちらに防犯カメラが設置してある。
今度は、他の地域へと働きかけてくれる。
すると、夏也も話をした。
夏也の仕事場となるホテルは、ホテルが直々に畑を持っており、無農薬で野菜を育てている。
今度、リンゴや柿、みかんなどの果物の木も育てる計画があるといっていた。
だけど、土地が見つからなくて、困っている。
それらを総合すると、資金援助を春樹がし、山川さんとホテルが一緒になって、山を大切にしている企業と一緒に、自然を増やしていこうと計画立てられる。
だが、そう簡単にいくだろうか?と春樹は思うが、動く。
春樹は、早速、健康診断の為、診療所に電話をし、予約した。
赤野春樹と名前を聞くと、受付していた看護師は医師に相談をした。
すると、明日となった。
「それは、ずいぶん、急だね。」
貢は聞くと、春樹は嫌な予感しかしない。
夏也は研修で一緒に行けないし、貢も仕事がある。
「一人で大丈夫か?」
夏也は聞くと、春樹は首を縦に動かした。
次の日になり、診療所前にいる。
診療所は、個人経営をしている所で、建物が小さい。
建物の前に、駐車場があるが、三台まで停める。
それを見ると、患者は少ない。
けど、昔ながらの診療所なイメージがある建物に、町中にあるからこそ、地域から慕われていると感じる。
建物は、シンプルな作りをしているが、立派である。
扉は透明だ。
扉を見ると、今日は休みだと札が出ていたが、開いていた。
春樹は、乗ってきた自転車を降りて、中に入る。
扉を開くと、待合室が見える。
靴のまま上がるのではなく、スリッパに履き替えて入る方式だ。
履き替えて、受付に行くと名前を聞かれた。
名乗ると、医師が直々に春樹の前に来る。
「赤野春樹君だね。ようこそ、山川診療所へ。」
先生は、とても明るい人だ。
診察部屋へと案内すると、山川医師は回りくどく言わずに、内容を話す。
「君のお母さんは、きつめさんだったね。」
「はい。」
「あの時は、僕は自然に亡くなったと診断したけど、違和感があってね。」
春樹は、いきなりの事で何の話をされているのかと思った。
山川医師は、両手の指を絡ませ、膝の上に肘を置ける体制になり、春樹を真っ直ぐに見て話す。
「そう、違和感があった。まるで、やり遂げた後みたいな、達成感のある顔をしていた。」
春樹の喉は鳴る。
冷や汗も出ているだろう。
「春樹君、きつめさんの秘密を教えてくれないかね?」
「な…母さんの秘密だなんて…。」
ただ、山川医師は、本当に心を見通す様に、春樹に向き合う。
血の事は言わない、言えない。
けど、もしも、知らないままで、仕事の話を振っても賛成してもらえないかもしれない。
どうすると思ったが、素直に話す。
ここには、夏也も貢もいないが、もう大人の世界に入った年齢の自分だ。
相談は必要だが、自分の頭で考え、判断をしないといけない。
一息吐くと、山川医師に、血の能力を含め話し始めた。
話し始めて、三十分位経つだろうか。
最後まで話をした春樹は、山川医師を見た。
話をしている間、見ていなかったので、再確認するみたいに独りで話をしている気分になっていた。
話が終わると、山川医師は、納得した顔をしている。
「そういう事情があったのか。いや、この診療所に健康診断を受けに来るなんて、きつめさんだけだったんだ。他は、ここから車で五分の大きな市民病院で受けるからね。レントゲンは、流石においてなかったから、市民病院だったけど、血液検査だけはこの診療所にどうしてもと言われたんだ。だから、少し、気になっていてね。」
それに、きつめは血液検査で使われた血は、後、どうするのかも細かに聞いて来たから、事情があるのではと思った。
「では、今度、春樹君の血液検査だけ、この診療所でやりましょう。それ以外は、市民病院へ行ってね。手続きしておくよ。それに、安心しなさい。きつめさんと同じく、血は取り扱うから。」
春樹はホッとした。
山川医師は、少し笑った。
「赤野って、防犯カメラ営業しに来た人も、そうだったよね。もしかして、義理のお父さんかな?」
「そうです。」
すると、山川医師は、いや、山川清は何かを感じた。
色々とつなげて、想像し、推理する。
「僕に、手伝って貰いたい何かあるのではないかな?」
春樹は、何かに引っ張られているような感覚に陥った。
誘導されているのに、拒否が出来ない。
全ての計画を話し、協力して貰えるかと訊くと、山川さんは許可をした。
「良いのですか?もっと、考えても…。」
「いや、良いんだ。それに、君が何か合って来たら、絶対に協力するって約束していたからね。それがどんな事であろうと。」
春樹の嫌な予感が、これだった。
「きつめさんから、約束だったからね。」
どこまでもついて回る、母の影。
聞くと、急に、この診療所を大きくしようって計画を持ち込んできた人が居た。
山川医師が困っていると、丁度、そこに居たきつめは、その計画書を横から見て、手に取り読み始めると、計画書の穴を見つけ、山川医師に断る様にと言い始めた。
そこで、口論となったが、口で言い負かしたのである。
口論している間に、看護師が警察を呼び、来た所できつめは患者の振りをした。
一連の話を見ていた山川医師が、警察へきつめが関与しない様に話をしたのである。
それからだが、同じ手口をする団体があり、全て捕まったニュースで取り上げられた。
「母さん…。」
「君、春樹君に協力をするのは、絶対だ。僕の診療所は、助かったからね。それと、良い話を教えてあげよう。ホテル経営をしている
「ありがとうございます。」
春樹は、立ち上がり、一礼をする。
山川さんは、医師の顔をした。
「さて、医者としての仕事をしましょうか。健康診断といきましょう。春樹君。」
山川医師は、看護師を呼んで、準備をさせる。
春樹は、自分の身体を知る。
健康だけど、睡眠不足気味なのを、山川医師は指摘した。
それと、一度、レントゲンで内臓を確認すると良いと言われ、市民病院へと手紙を書いた。
春樹が、診療所を出て、帰る時に山川医師は、外まで出て見送ってくれた。
「では、詳しい事が分かり次第、また、来ます。」
「春樹君の血の事は、誰にも言わないよ。守秘義務があるからね。」
人差し指を、自分の口に持って来て、春樹を安心させた。
その報告を帰った時にすると、夏也も貢も頭を抱えた。
「「きつめさん、貴方は一体。」」
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