25「反抗」
貢が持ってきた荷物から、夏也が作ったおはぎを見せた。
おはぎは、とてもおいしく作られている。
「これ、貢さんが材料を買って来て、夏也が作った物です。」
春樹は、それを持って、自分で食べ始めた。
とっても美味しい。
すると、桜の木は、何故か、欲しそうにした。
春樹の考えは、間違っていなかった。
「先ほど、桜の木を同調出来たと話がありました。今は、僕と同調をしているから、僕が感じている物を感じているはずです。このおはぎがおいしいって、知っていますよね?」
重箱にいっぱいあったおはぎが、順番に無くなっていく。
育ち盛りの子供は、これでもかという位、食べられる。
「欲しいですか?」
「え?」
「欲しいって、思っているでしょ、僕は知っています。欲しいですね?」
「くっ…。」
「条件です。もし、僕達の事を信用してくれるなら、母さんと父さんの墓参りの時に、ついでにここに寄ってお供えしてもいいですよ。」
桜の木が、とても、喜んだ顔をしたが、首を横に動かし、我に返った。
「そんな条件だしても…。」
また、桜の木は、きつめの姿をし、反抗するように、ダメージがいく言葉を出すが、春樹には通じない。
夏也と貢には、通じるかもしれない。
この差は、きっと。
「まだ、折れないか。そうか。夏也と貢は、母さんを…赤野きつめを尊敬する心があるが、俺にはないんだぞ。俺にとっては所詮、母さんは親ってだけの保護者だ。そういえば、俺、反抗期っていうのやってなかったな。今、やろうか。そうか、反抗って子供は親に対しては、成長段階で必要で、やっていいんだよな?今から、やってみようか。やってみてもいいんだぞ。」
今度は手を握り、拳を作っていた。
春樹は、普段敬語で話をする。
だが、それが出来ないほどになっている。
それに、母には反抗をした記憶がない。
小さなのはあったと思うが、それも話を聞いてくれた母がいたから、直ぐに無くなった。
反抗するのは、話を聞かず、頭の上から命令する様に言い聞かせる親の態度が気に入らないのも、一つの原因である。
だが、きつめは話し合いをして、理解してきた。
「え?待て…姿形も、記憶も、声も、君の母親だぞ。」
「それがどうした?母は、もう、この世にはいない。この目で確かめた。火葬場に行って、遺体を焼き、骨も拾った。たかが、姿形、記憶、声を真似た所で、現実を見た俺には通じない。そのワンピースも、今は、家の仏壇にあるのを確認しているし、直す前の形をした服だ。さあ、反抗期の時間だ。覚悟はいいか?母さん?」
すると、姿を解いて、花びらの形になった。
最後の母さんには、ルビが付いていて、桜の木に聞こえた。
とても怖かった。
営業用の顔、人が喜んでいるのを見て微笑む顔、褒められれば赤く染める顔、申し訳ないと思っている顔、もう誰もこの血によって亡くしたくない顔、色々な顔を夏也と貢は知っているが、心の底から怒り、自分の親の姿形をした物に対して、今まさに殴りかかろうとする春樹の顔はとても怖い。
「春樹、これ以上はダメだ。」
「春樹君、やめるんだ。」
そんな春樹を、夏也と貢は春樹の身体を押さえた。
まだ、ダメージが残っているが、今は、春樹を止める。
人間が怖いって思ってしまったら、桜の木はどうなるか。
すると、折れた。
桜の木は、気持ちが折れた。
「わかった。君たちを信用する。条件も受け入れる。だから、その怖い顔辞めろ!」
春樹は直ぐに笑顔になり、営業スマイルをした。
「そうですか。分かって頂けてなりよりです。では、この五十年は様子を見ていただけますか?先ほどお話しました通り、おはぎをお供えしたします。」
「五十年!」
「ええ、私が七十歳位になるまでは、結果を出したいと思います。それと、母の姿になっていただけますか?」
少しだけモタモタしたが、春樹の営業スマイルを見ると、直ぐに対応する。
「これでい…。」
これでいい?と言い終わる前に、春樹は桜の木を抱きしめた。
きつめの姿をした桜の木は、初めてではないだろうか?温かい。
「春樹君。」
「……やっぱり違いますね。変身がまだまだですよ。実際には、母さんは、もう少し体のサイズが上です。」
最初から、春樹は桜の木の前に居た女性が、母ではない事を見抜いていた。
それには、春樹の見ただけでサイズを知れる能力のおかげだ。
きつめ自身の記憶としては、少し痩せているのだが、実際には少し太り気味だった。
よく自分の声を録音して聞くと、違った声に聞こえる。
それと同じ様に、自分の姿は、想像と実際と違うのである。
その証拠として、遺品整理をしている時に、服のサイズが一つ上のを買っているのが確認出来ていた。
「いいのか?母親に、そんな失礼な事言って…」
「子供だからいいんですよ。だって、母さんは俺と一緒に居て嬉しいという、幸せ太りですからね。じゃなかったら、誕生日に一緒に生きていたい気持ちがいっぱい詰まったプレゼント、しないと思います。それと、ずっと前から気づいていたけど…」
春樹は、きつめの姿をした桜の木から離れて、自分の考えを話す。
「母が亡くなった時、相続手続きの為必要で、戸籍を母と自分のを確認した時、赤野家って桜の木をとっても大切にしている家系なんだと思ったよ。だって、俺のおばあちゃんの名前、ひらがな表記のさくらだし、俺の名前春樹も春に咲く樹ですからね。きの字が簡単な木ではなく、少し複雑な樹を使っているし、母さんの名前、漢字の桜の作りをそのまま読み、木とツと女できつめ。おじいちゃんの名前、春男だったし、それはそれは、桜の木が同調しやすいはずですよね。」
桜の木は、確かにこの六十年近くは、とても心地よかった。
赤野さくらが生を受けた時から、この結果になる流れがあったのかもしれない。
完全に、桜の木は、赤野家に完敗である。
もしかしたら、赤野家に血の能力が移るのは運命だったのかもしれない。
だとすると「血液を献血した竹林少年は、英雄だな。」と貢は思った。
「さて、桜の木さん、っていうか言い辛いですね。桜花、貴方の名前は、これから桜花。苗字は、赤野で!」
桜の木の名前、赤野桜花に決まった。
「名前、付けられるなんて、初めてだ。」
喜んでいる姿を見ると、春樹は少し頬に赤み掛かった笑顔になった。
おはぎを桜花に渡した。
桜花は、おはぎを花びらに包むと、すごい勢いで桜の木が咲いた。
「とっても、おいしい。」
「ってよ、夏也。植物すらも、おいしいと思わせる位の腕ですよ。」
春樹は、夏也に言うと、とても照れている。
「所で、桜花さん、夏也と貢に言った言葉って、きつめは思っていないんですよね?」
春樹は、母という立場ではなく、きつめという立場はどうなのか?と訊く。
「もちろん。あれは、私がきつめの記憶から、嫌みを言っただけだ。あ、黒水の事は、その、すまない。」
桜花から見ると、人間は滅んで欲しいと思ってしまった気持ちも分からなくはない。
桜花の能力を受け継いでいる人達は、とても優しい人達ばかりであった。
桜花は、それを春樹と話をし、理解をして貰ったから、信じて見ようと思えた。
春樹は、桜花が見てきた世界を想像すると、目を瞑って、開いて、微笑んだ。
「それと、何故か、ハルキと名前は懐かしさを感じる。とても昔から知っているようで、いつも一緒に笑い合っていたと。」
「僕も、なんだかあなたとは、一緒にいて、何かを作っていた気がする。」
その一言を伝えると、桜花に「来年、逢いに来る」と話をして、もう一度抱き締め、その場を去った。
今日は、この地域にあるホテルに泊まる。
長くなりそうだと思い、予約を取っていた。
もう辺りが暗くなっていた。
午後五時だからといっても、春の季節は、暗い。
夏也は、ホテルの料理を研究する事が出来、貢は、今までの疲れを温泉で取れ、春樹は自分の血の経路を知れて満足した。
次の日、貢は、もう一つ行きたい場所があるといい、車を走らせる。
そこは、献血を申し出た既に亡くなっている人、竹林家一族が眠るお墓だった。
そこも、松谷陸と梅田空、二人に聞いていた。
「君のおかげで、血の能力に決着したよ。」
車の中で貢から説明を受けていた春樹と夏也は、感謝の気持ちを込めて祈った。
すると、どこからか風が吹いた。
この地域は、海に面していない県だが、何故か、潮の香りがした。
それから、道の駅に寄りながら、ゆっくりと家に帰り、今日は風呂へ入って、全員眠りについた。
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