22「退去」

冬休みを迎え、大掃除をし、夏也と貢の誕生日を祝った。



三月一日に卒業式があった。

一年生の頃の担任、青山先生が来ていた。

青山先生は、二年生の時に学校を変わっていかれたから、少し寂しかった。


「卒業おめでとう、赤野春樹君。」


とっても嬉しかった。

最初に気を使ってくれた担任で、毎日、学校へ行けるまで連絡をくれたのである。

少し話をすると、峠坂と愛川が呼びかける。


「今から、ゲーム機持ち寄ってやろうぜ!修学旅行の時、約束しただろ?愛川も、緑沢も了解している。場所は、緑沢が自分の家を進めてくれた。」


今年四月一日を持って、緑沢の家が売りに出される。


その前に、夏也は家を堪能したかった。

生まれ育った家で、皆に料理を振舞いながら、去りたかった。

もう、緑沢夫妻は、自分の持ち物を全て寮へと運び入れてある。

夏也も赤野に引っ越し完了である。


二階は、荷物が一つもない状況だ。

だが、一階は、まだ生活が出来る状態で、客間のベッドや机、冷蔵庫はそのままである。

これは家を買った時に、既にあったものであったから、処分をすることが出来なかったし、客間っていっても数える位しか使っていない。

掃除をしていたが、それくらいだけだ。


緑沢の家にいく為、青山先生に一礼をし、峠坂と愛川の所まで駆け寄る春樹。

そんな様子を見て、青山先生は微笑んだ。


「緑沢君以外に、友達出来てよかった。」


本当に、心の底から思った。

心配をしていたのだ。

卒業しても、夏也以外に遊べる友達がいなかったら、春樹は引きこもってしまうのではないだろうか。


夏也が、誰かと結婚すれば、春樹は本当に一人になってしまう。

保護者の貢がいても、貢が年齢上で、亡くなるのも春樹より早い。

先を思うと、心配だった。


「取り越し苦労かな?」


青山先生は、そう思った。


「そうだ、報告忘れていたけど、青山先生。」


春樹は、もう一度青山先生の元へと戻ってきて、耳元で言った。


「俺、赤野春樹は、緑沢夏也と、結婚するんだ。」


その後、春樹はもう一度、峠坂と愛川の傍へと走っていった。

青山真冬の心に、心配という名の冬が来ていた。




結婚するといっても、同居までである。

法律上、同性婚は認められている地域と、認められない地域がある。

この地域は、まだ、法律が完成してない地域で、認められていない。

情報によると、後二年位で法律改正が済み、出来る。

だから、それまで、同居なのだ。




緑沢の家に着いた。

中からは、夏也が出てきて、出迎えてくれた。

そして、貢もいる。


「お義父さん、ただいま。」


貢は、一応、春樹と夏也の義父親。

羽目をはずなさない為の監視役だ。

といっても、春樹と夏也がいれば、羽目など外さないのは知っている。

だが、愛川はいいとしても、峠坂が心配だったから、監視者として来てもらった。


「え?父さんって。」

「あっ、そういえば言っていませんでしたね。母の親友、白田貢さん、今は赤野貢になって、俺の義理だけどお義父さん。それと、二人なら大丈夫って思って言うけど、俺と夏也、いずれ結婚します。だから、貢さんは、夏也にとってもお義父さんであります。」


この一言で、一番浮かれているのは春樹だと思った貢は、考えを訂正し、春樹を監視する。

峠坂と愛川は、全てにおいて驚いた。


「緑沢君の両親はなんていっているの?」


愛川は聞くと、言った時の状況を教える。

すると、すんなりと許可した事実に驚いた。


「しかし、お前ら、仲良いと思ったら…」


ここで、今まで春樹と夏也の会話が、節々に違和感があったのが分かった。


夏也は、二人に飲み物を出して、血の事を除いて話をした。

すると、二人は祝福をしてくれた。



ゲームをする目的があり、母が持っていたゲーム機を春樹が使い、誕生日にくれたゲーム機を夏也が使う。




修学旅行以来、この卒業式が誕生日で、もう親に許可を貰わなく、ダウンロードしてもいいと喜んでいたクラスメイトに、春樹と夏也は、ゲームを予め教えてもらっていた。


ゲーム機を学校へ持って来て、アカウント取得、ファミリー登録、おすすめゲームなどを説明してくれたのである。

それから、少しずつ、自分に合ったゲームと、皆で出来るゲームを、時間を見て触って来た。




ゲームを通じて、峠坂と愛川と遊んでいると、とっても楽しい。

この気持ちを、母は伝えたかったと思うと、これからは、手芸や仕事以外にも趣味を持とうと思った。


始めは、このゲーム機を扱えるようになり、有名所は遊んでみようと思い、峠坂に人気のソフトを教えてもらう。

ゲームしてなかった春樹でも、分かるキャラの名前が出てきた。

母のゲームソフトを探ってみようと思った。


しかし、母のアカウントを削除したのは、失敗だった。

母が、どれ位ゲームで遊んでいたかを知る機会がなくなったからだ。

でも、亡くなった人のアカウントを残していくのも引けた。


その時である。

峠坂が、気になる話し出した。


「最強のRTA走者がいたんだ。KTMって書いて、神様という意味合いで「かっみ」と読む人なんだけど、その人、どんなゲームジャンルでも、チャレンジするから、その世界では有名な人で、五年位前まで居たんだけど、突然消えてしまったんだよね。俺も一度だけ、自分の好きなゲームをやってくれていたけど、凄かった。」

「RTA?」

「簡単に言えば、どれだけ短時間にクリア出来るかを競い合うゲームプレイ方法。」

「へー。KTMね。」


春樹と夏也は、そこまで聞いて「まさか」と思った。

貢も、頭を抱えている。

Kは「き」、Tは「つ」、Mは「め」になる。

本当に、母のアカウントを削除したのは、失敗だった。




「さ、時間だ。」


午後五時になった。

貢が、帰る時間だと教えてくれた。


「今から、それぞれの家で卒業を祝うと思うから、親さんに子供である姿と大人になっていく決意を見せなさい。」


その一言を峠坂と愛川は聞くと、頬を赤く染めて微笑んだ。

それと同時に発した言葉がある。


「「勿体ない。」」


その一言を聞いた春樹と夏也は、笑った。




峠坂と愛川が帰るのを玄関で見送ると、家の片付けとなった。

もう、この家には多分帰れないから、春樹と貢に一階の片付けを手伝ってもらう為、来て貰った。


台所は夏也がするとして、他をお願いした。

使っていた洗剤や石鹸、タオルに掃除道具を運び出した。

冷蔵庫の中は、今日、友達にもてなすだけの食料以外はいれていなかったが、使っている調味料や調理器具があった。

スプーンや食器も赤野家に持っていく。

全て、運び終わり、車に乗せ、最後にプランターを乗せた。


夏也は、一度、家の中を全て確認して回ると、問題なかった。

鍵を閉めた。

家の前には、春樹だけいた。


「お義父さんは、荷物、運んでおくって。」

「まあ、距離近いし、歩いて帰るか。赤野春樹。」

「そうですね。歩いて帰りましょう。赤野夏也。」


二人は、微笑んで、手を繋いで帰った。


帰ると、荷物を家へと運んでいる貢がいた。

春樹も夏也も一緒に運び入れる。

全て収納が済むと、貢が聞いて来た。


「冷蔵庫と洗濯機は、どうするんだ?」

「両親がやります。俺がやるのは、ここまでです。後は、鍵を送って、終わりです。」

「売却手続きの時に、話をするのかもしれないな。」


春樹は早速、両親へと手紙を書いて、鍵を同封する。

明日にでも、ポストへと投函をする。

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