20「後編」
二日目。
計画された通り、春樹は洗い物だけだ。
怪我をしなく過ごせた。
実際の災害では、この施設にある状況ではない。
とても被害が酷く、精神的にもきつい状況。
だが、知る事は大切だ。
その機会を、この施設では学べるのである。
何人が避難してきているか、どれだけ物資が必要か、食事を自分達で作らないといけない時、どれ位の量が必要かなどを知る。
春樹の問題が解決しているから、安心をしている夏也が分担に振り分けられた内容が、裁縫だ。
「両親と離れてしまった子供が、両親がくれた猫のぬいぐるみの目が取れたので、直してほしい」という設定がある、ぬいぐるみの直しである。
この仕事があったからこそ、春樹は料理に回されたのだ。
ぬいぐるみの目は、ボタンで、縫い付ければいいだけなのだが、針に糸を通す所から大変であった。
生地に糸を縫い、目をかたどっているボタンの穴に針を通し、縫い付けていく。
ボタンの穴は、四か所あり、予め渡された紙にやり方が書いてあって、その通りにやっているつもりでも、ずれてくる。
「この作業を、春樹はずっとやっているのか。」
夏也は、春樹を尊敬した。
春樹の持っている服を見ると、どれもかっこよく、機能性に優れ、着やすいのである。
市販のを買ってきても、自分でアレンジして、使いやすくしてあった。
それに、おしゃれである。
サイズが合えば、春樹の服を借りて着たい位だ。
「出来た!」
出来上がりを見ると、笑顔になる子供を想像する。
とても嬉しくなった。
春樹と気持ちがつながった気分になった。
防災体験施設での実習が、午前九時からお昼を挟んで午後三時まであった。
お昼は、炊き出し班の豚汁と、おにぎりに、携帯用食料の試食だった。
班で一緒になって、ビニールシートの上にて、食す。
「豚汁おいしいな。」
夏也がいうと、峠坂は嬉しがった。
班の役割としては、春樹と峠坂が炊き出し班、夏也と愛川が救護と管理班だ。
愛川は、福祉を勉強したかったから、救護と管理班に入れて嬉しがっていた。
本当は得意ではない側に行かないといけないのだが、愛川は料理も出来るし福祉も好きだ。
そこで峠坂がキーになる。
峠坂は、体格が良く力が強いから、救護と管理に適しているが、料理をしてなかった。
だから班の中で、料理を主に考え、春樹と峠坂が料理側になり、自然と愛川が救護と管理側になった流れだ。
「春樹はすごいな。」
夏也は、携帯食料の試食をしている春樹に、一言つぶやいた。
「な、何が?」
ぬいぐるみの件を話すと、笑顔になった春樹。
「そうなんですよ。嬉しいと言ってくれる人の顔見るの好きです。ああ、直せてよかったとか、作ってよかったとか、色々感じて…その瞬間が、俺、とても、嬉しい。」
すると、峠坂も愛川も春樹の笑顔に胸が、ドキドキし始めた。
「心臓に悪い。」
峠坂がいうと、愛川も。
「同感。」
春樹が、何?って、その笑顔のまま向けてきた。
直視が出来ない峠坂と愛川だ。
午後からは、煙が立ち込めている施設から脱出を体験する。
とても煙たくて、視界が遮られる。
前に人がいるのは知っているけど、視界で確認が出来ない。
目を開けようとしているが、自然と目を瞑ってしまう。
視界に頼りすぎると、今度は、方向感覚が分からない。
何処が出口で、今は何処にいるのか。
そんな建物を体験しクリアする。
「本当に怖かったね。」
愛川が感想を言うと、春樹も夏也も峠坂も同じ感想を持った。
「あの中で、もしも、小さな子供がいたら、助けられるかな?」
設定を追加して、話をする。
想像をするが、自分の事で精一杯だろう。
「助けられるなら、助けたい。」
春樹は言うと、夏也も続けて。
「そうだな。助けられる命があるなら助け、一緒に生きたいな。」
そういいながら、春樹を見る。
二人を見ると、峠坂は、何かに気づき微笑む。
「大丈夫だ。もし、俺達が、その現場にいたら、絶対にその子、無事だって。」
すると、愛川は春樹と夏也を見て、微笑み。
「そうだね。全力で助けるよ。」
と発すると、春樹は夏也に少しだけ寄りかかりながら、二人を見て。
「ありがとう。」
お礼を言った。
午後三時になり、ホテルへと向かった。
一日目と同じようにホテル探検である。
しかし、食事が違った。
二日目は、和食である。
箸の使い方を習う。
いつも使い慣れている箸だが、奥が深い。
最初、箸置きに置かれている箸だが、手に入れるには数点手順がある。
ここでも紙に書かれている手順に従い、箸を手にもっていく。
同じように、夏也は綺麗だった。
同じように、春樹は少しぎこちなく。
同じように、峠坂達は、きつそうだった。
二日目のご褒美としては、カレーだ。
ご飯とカレーが、用意されており、好きなだけよそい食べても良かった。
好きなだけと言われて、嬉しくなったが、今日の防災体験施設での研修が身体に沁みついたままだ。
ご飯とカレーは、同じ分量に分けて、きっちり空にした。
二日目を終えた。
三日目は、班で自由行動。
計画を旅行前に、班で話し合い、バスの時刻表を入手したり、道順を調べたり、穴がないかと念入りにし計画書を作り、先生に提出していた。
提出された計画書を先生が見ると、集合時間に間に合わなかったり、地図の距離と実際の距離が間違っていたりして計画をし直しをさせられる班があった。
春樹の班は、一発で合格された。
それもそのはず、集合場所が乗る新幹線の駅に午後三時。
ホテルを出発するのが、午前九時。
午前九時から午後三時まで、新幹線の駅から出ずに、駅を見学を目的としていた。
計画書には、駅の仕組みを知る為だと記したが、実際は、駅にあるお店が目当てだ。
色々な店が入っているから、班の趣味がピッタリ合う。
春樹は、手芸、衣服、ぬいぐるみ。
夏也は、食品、調味料、飲食店。
峠坂は、模型、車、ゲーム。
愛川は、読書、福祉、掃除。
待ち合わせ場所から、動く事がなく、遅刻がないし、時刻表を取り寄せもない。
春樹の領域に来た。
「春樹、この服って、俺着たらかっこいいかな?」
「赤野って、この服再現できるのか?」
「赤野君、このワンピース買うけど、この色とこの色どっちが似合いそう?」
質問攻めだった。
春樹は、自分の仕事道具の補充に買い物をしつつ、三人の質問に丁寧に答える。
夏也の領域に来た。
「春樹は、旅行帰ったら何が食べたい?」
「峠坂、それはキャベツで、レタスではないよ。」
「愛川、家で料理しているなら、この調理器具使いやすいよ。」
逆に夏也が声をかけていた。
一部、また、何か引っかかる言葉があったが、分からず、そのままにした。
三人は、夏也の知識に驚きの言葉が出てくる。
峠坂の領域に来た。
「あ、これ、母さんが好きだったゲームだ。」
「そうなんだ、ゲーム、少し触ってみるかな。」
「同じ車でも、少し違うのね。」
それぞれ見る所が違って、関心度があがった。
班で集まって、いずれ、ゲームをしたいと峠坂がいうと、受験が終わったらとなり、約束した。
愛川の領域に来た。
「赤野君、この傷を覆うシートは、すごい生活防水加工で便利なんだ。」
「緑沢君、私が使っているレシピ本、これなんだ。どうかな?」
「峠坂君、この食器乾燥機って、よく乾くから、プラモデル洗った後いいよ。」
それぞれの趣味に合わせて、進めたり、質問したりしていた。
愛川が、合わせてくれているのを感じると、嬉しかった。
駅で、昼食を食べ終わり、少し駅を歩くと集合時間となった。
新幹線乗り場に行くだけである。
そこから、来た道と同じように帰り、家に着いた。
家に着くと、貢が待っていた。
「お帰り。春樹君、夏也君。」
「「ただいま。」」
指輪をケースに戻してから、手洗いを済ませ、台所へ行くと、机には料理が並んでいた。
「義父さん。」
「疲れて帰ってくるだろうと思って、夕食、用意させてもらったよ。味は保証しないが、食べられるようには作ってある。」
貢の料理である。
中華系が得意なのかな?と思わせる料理だ。
麻婆豆腐、餃子、チャーハンがあった。
「ありがとう、おいしそうです。」
春樹が言うと、三人席に座り、食す。
貢の料理は、とても辛かったが、おいしかった。
以前、餃子の皮が綺麗に包めていたのが、納得した。
訊けば、餃子は好きで、高校の時から作っている。
「夏也君ほどではないけど。」
「いいえ、おいしいです。」
夏也は、こんな味もあるんだと、感動をしていた。
夏也の料理は、きつめが基準になっている。
だから、他の味も知らないといけない。
夏也が味を勉強し、貢が満足をしている中、春樹が思ったのは、本当は春樹も食べられる位には、上手に作れるのだが、下手だという事になってしまったのは、少しだけ痛いなだった。
修学旅行は、一日目は、遊びの中でグループ行動し、異性を知る機会を得る。
二日目は、災害時に苦手分野の仕事を与えられた時と、置かれた状況を知り、仲間と協力して生き抜ける。
三日目は、二日間一緒だった仲間の事を信頼し、計画した通りに動けるか。
そんな目的があった。
それに食事のマナーについては、身に着けて置いても損はない。
社会に出ると、こんな事は多くある。
そのまとめが宿題となっていた。
修学旅行の三日目が金曜日であり、土曜日と日曜日に出された宿題である。
先生が用意した用紙があり、項目が書かれている。
何月何日から何月何日までの旅行で、何処にいったのか。
一日の移動距離と時間から、かかった費用。
どんな所に行って、何を見て、どんな話をしたか。
そんな細かい事を、思い出して、三日間の報告を書く。
しおりを見れば大まかは分かるが、実際、班で会話した内容は、全て同じではない。
だが、春樹と夏也は、簡単にこなし、スラスラと書き始める。
土曜日の午前中に終わった。
それには、二人で自分の脳にある記憶を話し合いながらである。
二つの記憶があれば、一気に終わる。
一人の脳で「あの時、どうだっただろう。」と思うよりも、二人で「あの時、こうだったよね。」と確認取りながら作業するのが、早く済ませれた。
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