18「出発」
三年生になり、去年と同じく春樹の誕生日を祝った次の日は、静かに過ごした。
ゴールデンウイークも終わった日、二泊三日の修学旅行が近づいていた。
日にちは、六月二十五日水曜日、二十六日木曜日、二十七日金曜日だ。
修学旅行の内容に、頭を抱えた。
「修学旅行は毎年違う所、違う内容が組まれる。それには、旅行といえど、学習するのを目的とし、参考として三年の先輩に聞いたとしても答えにはならない。修学旅行後に、修学旅行の研究資料作りがあるから、カンニング防止の為らしい。今年は、修学旅行の二日目に、皆で防災意識を高めようと体験実習という内容があって、災害にあった後の世界を実感する体験施設でやるんだけど…」
春樹がプリントを貢に出して、説明を夏也がしていた。
「炊き出し班と、救護と管理班の二つに分かれます。が、自分が得意分野には入れなく、俺は救護と管理班、春樹が炊き出し班になりました。」
「え?」
貢は、プリントを良く読む。
二日目、体験実習。
防災体験施設にて、災害があった後の環境を体験します。
炊き出し班と、救護と管理班に分かれます。
炊き出し班は、焚火を起こす所から、その火を使っての料理を体験します。
料理は、ご飯を炊き、豚汁を作ってもらいます。
救護と管理班は、人形を使った救護で人口呼吸の仕方、AEDの使い方、物資の管理の仕方などを体験します。
日々の暮らしを大切にし、知識を蓄え、備えましょう。
但し、自分が得意ではない班を選ぶ事。
「つまり。」
「はい、春樹が料理をします。」
ちなみに一日目は、様々なゲームのキャラが集まっている遊園地を楽しみ、三日目は、自由行動。
「それは、大変だ。」
急いで対策を立てる。
春樹は、食事について、母と夏也に任せていたから、殆ど、全くって言っていいほど、料理をしてない。
調理実習も、夏也が張り切っていたから、洗い物だけを担当した。
それが分かるには、冷蔵庫にペットボトルのお茶を備蓄し、買い物はコンビニ。
本当に台所が泣くほど、料理をしない。
今は、お茶も料理も夏也がしてくれる。
ここで話しておかなければならない。
どうして、赤野家の冷蔵庫にペットボトルが常備されているのか。
それは、クラスメイトのボタンが取れた時に、春樹が持っていたソーイングセットで素早く直した時から始まる。
その時のボタンを直した相手が、女の子だった。
想像すると、ここで恋が芽生えてもいいと思うのだが、その女の子は「自分が女だから、ソーイングセット位持っていて、自分で直さなくてはいけない。なのに、ソーイングセットも持っていない位、女子力がない。」と落ち込んだ。
その時、春樹が言った言葉。
「適材適所。自分が出来る能力があれば、それを伸ばすべきです。僕は、手芸好きで、ソーイングセットを常に持っています。君が福祉に力を入れて、いつも、熱中症になる人がいないか、カバンの中に開けてないペットボトルを二本入れているのを、僕知っていますよ。毎日、重たいのに、他人が困っていたら助けられる様に頑張っている姿は、とっても魅力的だと思います。だから、気にしないで下さい。女や男関係なく、自分が出来る事を全力で極めしていけばいいと思う。」
その一言で、女の子は嬉しくなった。
持っていたペットボトルを一本、お礼といって春樹に渡した。
それから、春樹に手芸について助けてもらったら、お礼としてペットボトルを一本渡すのが、周りの認識になっていた。
だから、ペットボトルがある。
いってみれば、ペットボトルの数だけ、春樹は人を助けてきたのだ。
その当時は、まだ、ホームページで依頼してなかった時期だったのもあり、お金を貰う年齢ではなかった。
なんせ、小学五年生である。
それを、冷蔵庫にあるペットボトルを見て、思い出した春樹は、夏也を見ると、不安な表情をしているのが分かる。
「料理はやれば、春樹は上手く作ると思う。だけど、怪我をしない保証がない。」
包丁は、ハサミや針とは違い、よく切れるし、血が出る。
「一応、調理用に手袋をするけど、それで防ぎきれなかった時を考えると。それに、二日目は一緒にいられないし。怪我をしている振りも考えたけど、そうすると前日の遊園地に行けなくなる。そもそも、修学旅行に参加が出来なくなる。」
「確かに。」
春樹は、修学旅行、行かなくてもいいと言っていたが、相当な理由がない限りは拒否が出来ない。
それに、きつめが既に修学旅行費を学校に支払っているので、勿体ない。
きつめは、自分が高校を途中で辞めている。
だが、春樹には辞めて欲しくないと思い、三年間高校へと払う費用は全て払い済みなのだ。
それには、自信があった。
絶対に春樹は、人を襲ったりしない。
高校だけは卒業して欲しい願いもあった。
修学旅行の日になった。
旅行用のカバンを持ち、移動に使うリュックを背負う。
旅行と言っても、制服で参加だ。
「じゃ、お義父さん、家、お願いします。」
「義父さん、ご飯やおかずは冷凍してあるから、温めて食べて。」
指輪を首からかけ、携帯用の充電が出来るモバイルバッテリーを、制服のポケットに入れた。
貢は、二人の頭を撫でた。
「対策は万全に行ったし、楽しんでおいで。」
「「はい、いってきます。」」
春樹と夏也は、貢に出かける言葉を届けた。
貢は、二人を見送ると、夏也が作ってくれた弁当を持ち、仕事場へと行く。
赤野家に来た貢の一日は、午前五時半位に起きる。
身支度をして、部屋を出る頃には、顔と頭以外はきっちりしている。
洗面所で、顔を洗い、頭をオールバックにセットすると、眼鏡を拭いて、仕事に行ける格好だ。
春樹を起こした後、居間スペースへ行き、仏壇に手を合わせた後、夏也が作った朝食を三人で食べる。
夏也が片付けをしている間に、春樹が身支度をし、貢は仕事の確認をしカバンを持つ。
夏也がそれぞれにお弁当を渡し、三人一緒に指輪をし、玄関から出る。
車で仕事場まで行く。
貢は、赤野家に来た時に、仕事場に説明して区域を変えてもらっていた。
だから、この地域にあるセキュルティー会社の支店へと移動となっている。
会社は、車で十分の所にある。
仕事をし、昼休みにお弁当を食べ、また仕事を午後四時までし、仕事が終了。
それから夏也に頼まれた材料があれば、買い物をして、帰宅。
帰宅した後、指輪を置いて、部屋にて着替える。
明日の着替えと荷物を確認し用意していると、夕ご飯の時間になる。
お弁当箱を夏也に出して、三人で夕ご飯を食べた後、夏也が風呂に入っている間に春樹と話をする。
風呂の時間になり、入り、春樹が風呂に入っている間に、夏也に時間があれば話をする。
春樹が風呂から出てくると、歯磨きをして就寝する。
それが、午後九時だ。
貢は、この三日間、そんな風に過ごした二人と合えないのが、少し寂しいと感じ、車のエンジンをかけた。
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