16「実験」
二年生になり、ゴールデンウイークが始まった。
四月二十七日から、二十九日までと、五月三日から六日まで休みになっている。
しかし、私立流石高校は、四月三十日、五月一日、二日も休みだった。
だから、実質、四月二十七日から五月六日まで休みだ。
四月二十七日土曜日に、実験の日になった。
丁度、緑沢夫妻が二人揃って出張で二日間泊まると情報があった。
情報は、緑沢夫妻が、赤野家に挨拶に来たからだ。
「赤野貢です。春樹君の父親になりました。」
貢は、担任と話をするよりも緊張していた。
何れ親戚になり、長い付き合いとなる。
春樹を大切に思ってくれている緑沢夫妻に、がっかりさせたくない気持ちがあった。
「私、緑沢夏也の母、
夏也の母、光が対応をする。
「とても助かっています。」
夏也は、緑沢の家と赤野の家のどちらでも寝泊まり出来る。
緑沢の家が大変な時は、緑沢で、それ以外の時は赤野の家にいる。
割合としては、赤野の家にいるのが多い。
今回は、挨拶をしたかったから、こういう形となった。
「はい、よろしくお願いします。」
光が丁寧にお辞儀をして、挨拶をしている。
太陽は、玄関に置かれている指輪が気になっていた。
この日は、春樹も夏也も家にいて、三つ並べられている。
「それは、指輪型GPSです。」
貢は、GPSを夏也に所持してもらう許可を、緑沢夫妻に許可を得てないのを思い出した。
「お宅のお子さんが何処に居るのか知りたくて、GPSが搭載されている指輪を上げました。」など、他人がして良い訳がない。
冷や汗が急に出てきた。
「三つあるね。」
「はい。」
状況を見ていた光は、小さく笑った。
「貴方、いじわるはやめてあげて。ごめんなさいね。夏也に指輪の件は聞いているわ。理解していますから、そんなにハラハラしないで下さい。」
まだ、笑っている。
太陽は、笑いながら謝り、光と同じ意見だと伝えた。
貢は、ホッと胸を撫でまわした。
緑沢夫妻の話を聞くと、これから飛行機に乗って出張先のホテルに行く予定を告げられた。
「本当に大変なお仕事をなさっていらっしゃって…。」
「ええ、お互い同じ研究者で、チームでも一緒の仕事をしています。研究内容を発表するので、二泊三日しないといけなくて、今まではきつめさんに頼ってばかりで、こちらこそ本当に感謝しています。きつめさんが亡くなられた時には、本当にショックでした。夏也も、きつめさんに料理を習っていたから、春樹君の前では、冷静にしていたみたいですが、家ではすごく泣いて。」
「普段の夏也君からは、そうは見えないので、意外です。」
貢は、きつめが亡くなったのは、かなりの人が悲しんだと確認出来た。
それだけ、赤野きつめは、とても好印象で慕ってくれる人が沢山居た。
家族葬じゃなかったら、どれ位の人が葬儀に来ていたのか、想像が出来ない。
二つ、三つ話をした後、緑沢夫妻を玄関から出て、車に乗り出発したのを確認した。
家の中に入り、台所へ行くと、夏也が、夕食が出来たのを伝えた。
夏也の顔をじっくり見る貢。
「な、何ですか?」
夏也は、少し身体を引いた。
貢は、微笑み、夏也の頭を撫でた。
いきなりで、びっくりした夏也は、頬を赤く染めていた。
「春樹君、呼んでくるよ。」
貢は、春樹の部屋へと向かった。
夏也は、今撫でられた頭を擦り、少し微笑んだ。
夕食時に、実験の計画について貢が話した。
内容は、三人で緑沢の家に行く。
緑沢の家で使っている夏也の部屋にて、実験開始。
夏也は、両足を荷物紐で固定。
貢が、春樹を抱っこして、いつでも逃げられるように、準備する。
春樹は、自分の家から持ってきた針を手に持ち、血を出せれる準備をする。
暴走がなければ、二つ考えられる。
一つは、夏也は能力強化の意思がなかった。
もう一つは、春樹の考え通りに、自分には血の能力がなく、きつめが亡くなったのは病気でタイミングが合っただけ。
後者だった場合は、全て解決する。
でも、前者だった場合は、もう一度、試す必要がある。
その場合は、夏也が話をしていたクラスメイトに、お願いする。
それらを話した後、春樹と夏也は理解し了解した。
決行は、明日である。
次の日になり、今、緑沢の家に、三人はいる。
緑沢の家は、赤野の家と学校の間にある。
学校へは、赤野の家から歩いて十分の距離。
だから、緑沢の家から赤野の家までは五分と考えられる。
緑沢の家も一戸建てだ。
二階建ての家で、見た目も中身も洋風だ。
門から玄関の間に、車が停まれるスペースがあり、玄関まではその分だけの距離がある。
周りに植物はないが、玄関の前には、プランターで作れる野菜を夏也が育てている。
玄関を入ると、広かった。
見えてきたのは、広々とした廊下に二階に続く階段。
一階は、台所、居間、客間二部屋、お風呂、トイレ、洗面所である。
台所と居間は一緒ではなく、別々。
客間は、それぞれベッドが一つと、ベッド脇に机がある。
クローゼットと小さい冷蔵庫がある。
ビジネスホテルの一室を想像させた。
お風呂は、強さが三段階に調節出来るシャワーに、ジャグジーを思わせられる泡が出る仕様。
洗い場も、大人の男が三人は楽に入れる。
トイレも、中に手洗いが出来る場所がある。
洗面所も、二人で横に並んでも、洗面台が余裕で使える。
お風呂とトイレと洗面所は、全て別の部屋になっている。
二階は、階段を上がると、左側に部屋が4部屋あった。
奥から、夏也、太陽、光の順番で並んでいる。
もう一つの部屋は、中身は空っぽで、何もない。
その向かえの部屋が、納戸であり、その季節になると使う物が収納してある。
夏也は、早速、自分の部屋に春樹と貢を招いた。
「夏也君の家は、すごいな。」
「広いだけだよ。」
この家を見ると、緑沢夫妻はすごく稼いでいると感じる。
「部屋が一つ開いていただろ?春樹が、頼ってきた場合、使ってもらおうと思って、一度、掃除したんだ。」
貢が訪れるまで、緑沢夫妻は、春樹を引き取る準備があった。
「申し訳ない。」
貢が言うと、春樹も同じ感じ方をした。
「別にいいよ。この家を維持していくのも、大変だって言っていたし、俺が赤野の家に住めば、両親は家を手放して、研究所の寮に入るって言っていたからな。寮なら、食事も出るし、研究所も敷地内で近い。部屋は、夫婦だから同じ部屋を使用出来るといっていたから、今、その準備もしている途中だ。」
「勿体ないな。こんな素敵な家。」
春樹は、この家が気に入っていた。
小さい頃に、一度だけ遊びに来た記憶があるが、おもちゃ箱の中に入った気分になった。
夏也が微笑むと、荷物紐を出した。
「この話はいいとして、今日は実験だ。」
早速、貢が夏也の足を荷物紐で縛る。
計画通りの準備が出来た。
「では、春樹君。」
春樹は、貢に抱えられながら、自分の指に針を刺す。
小指からは、針が皮膚を貫通し、血が少し溢れだした。
その時である。
夏也は、次第に口を開き始めた。
血を見て、息を荒くし、胸を手で覆っている。
「夏也。」
春樹が声をかけても聞こえてない。
春樹の小指にある血を見て、興奮をしていた。
それだけを見ていた。
「春樹君、逃げるよ。」
貢は、抱えた春樹を緑沢の家から出て、赤野の家に向かう。
自分の家に帰ってきた春樹は、貢に抱えられながら、指にティッシュを覆っていた。
春樹は、自分の部屋に来て、貢が春樹の小指を見る。
もう血は吹き出ていなく、止まっている。
念の為、ガーゼで覆い、指先専用の包帯をした。
「春樹君、私は、夏也君の様子を見てくる。」
貢が家を出るのを確認すると、春樹は治療された小指を見て、少し泣いた。
小さい頃から一緒にいて、喜怒哀楽を共にした親友が、あんな顔になるとは思わなかったのである。
夏也の変貌でなく、自分の血がとても怖かった。
「この血は、知られていけません。伝えてもいけません。そして、この世に残してもいけません。」
怖さが、自分の決意になった。
一方、貢が夏也の元に向かうと、夏也は足の荷物紐を解いていた。
いつもの夏也である。
「大丈夫か?」
貢は聞くと、夏也は頭を抱えた。
「どこか悪いのか?」
夏也に手を伸ばすと、貢の肩に頭を乗せて寄りかかられた。
「悪くない。だけど、覚えている。春樹が、怯えていた。俺を見て、怯えていた。」
貢は、夏也の頭を撫でた。
「治療もしたし、血は止まっている。会っても大丈夫。夏也君、美味しいお茶入れてくれないか。一緒に、実験のまとめをしよう。」
「ありがとう、貢さん。」
義父さんではなく、貢にしたのは、貢が黒水秋寺の指示とはいえ、動いて、血の能力についての説明を得て、きつめに伝えていて良かったと思った。
血の能力を知らないまま過ごしていれば、春樹がどうなっていたか。
白田貢に感謝をしたい。
「きっと、貢さんがきつめさんを好きになってくれていなかったら、春樹は怯えていたかもしれない。」
「でも、春樹君の傍には、常に夏也君、君がいた。」
貢は、自分が動かなくても、血の能力を赤野親子が知らなくても、突然母が亡くなったとしても、夏也がいたから春樹は一人ではない。
その証拠として、先ほどの空室だ。
「自信持って、春樹君の傍に嫌ってほどいてやろう。」
夏也は、前、春樹が言っていた言葉を思い出す。
「確かに、貢さんは勿体ないや。」
夏也は、貢と緑沢の家を出て、赤野の家に向かった。
玄関を入ると、そこには春樹が真剣な顔して待っていた。
「美味しいお茶が欲しいです。」
春樹は一言言うと、夏也は笑った。
「わかった、入れてやる。」
お茶が入ると、飲んで、実験のまとめに入る。
夏也は能力強化の意思があった。
「夏也!」
春樹が夏也の手を握る。
急な行動で、夏也は身体を少し硬くした。
「この血は、僕で終わりにさせてみせる。だから、僕に、これからずっと、美味しい料理、いっぱい食べさせて下さい!」
夏也は、春樹の言葉に助けられた。
二人の様子を見ていた貢は、微笑んだ。
「春樹君、それってプロポーズ?」
貢の一言で、春樹は頬を次第に赤く染めていった。
恥ずかしさのあまり、両手で自分の顔を覆う。
夏也は、春樹に小指を出した。
「これから、一緒にいる約束だ。」
春樹は、治療された小指を見て、夏也の小指を絡め、指切りをした。
貢は、思っていた。
「そういえば、春樹君は五十メートル何秒なんだい?」
夏也は、春樹の口を塞ごうとしたが、遅かった。
「僕、六秒。」
学年五位は伊達じゃない。
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